第6話 以前とは違ってしまった場所

 不可思議で不自然だった。

 いとも容易く無くなってしまうなら、最初からいらなかった。

 でも私は変わった。

 気持ちが移ろうことを知ったし、とにかくすべてが激変してしまった。その力にまたあやかりたく、でもその威力を遠ざけたくもあり、私は立ち往生している。

 できることなら捨て去ってもよかったのかもしれない。そうしたらきっと楽になっていただろうと、起きなかった現実を望むのだ。

 「隕石だ。」

 そう気づいた時には手遅れだった。もう軌道を計算している時間なんてないほど近づていたそれを、どうにもできずに皆うろたえる。

 しかも一部の人間しか知らなかった。

 もう周知する時間もないほどそれは近づいていたから。

 「どうしよう。」

 そう呟くのは唯一選ばれたものに該当するのだろうか、隕石によって地球が莫大な被害を受けることを知っている者だった。

 研究職として勤務していた彼は、ただひたすら現実を受け入れることができないでいた。もともと困難に立ち向かうことが苦手なタイプであったし、だから研究者としてもうだつは上がらなかったが、その方面での能力は長けていたので何とかうまくやっていけていた。

 でも、こんな状況にはいかようもできない。

 ただ、最後だってわかっていたから、家族と恋人には連絡をとりたかった。

 

 相変わらず憂鬱なまま、何の変化も怒らない。

 そう思った時だった、終わってしまったのは。

 隕石が落ちてきた。だがそんなことは知らなかった。だって知る由もなかったもの。熱に浮かされてそのまま、漂っていればよかった、はず。

 でも生き残っているから、この絶望を認識してしまう。とてもつらいことだ。

 私はベッドで眠っていた。どうせ終わるならとふて寝していた。だが体はぶるぶると震え、意識は一向になくならない。

 早く寝かせてくれ。寝ている間に終わってほしいんだ。

 そう思うのは、家族にも恋人にも連絡がつかなかった彼。実はもう、誰とも連絡なんて取れない。家族とも、恋人とも、彼は疎遠になってしまった。

 だから、一人で耐えなくては。そう思って私は苦しいだけなのだよ。

 世の中には、麻薬に溺れる者や理不尽な仕打ちに耐える者、人権を侵害される者する者。そんな人たちで溢れている。だってそれが人間だから。

 私は辛いと思うたびに知りたくなる。何故なのか、何故そうであるのかを。

 知りたい、どうやってでもいいから何かつかめるなら飛びつく。ただ私は知りたい。何故なのか。

 繰り返し繰り返し反芻する。その言葉はぐるぐると廻って、一周二周と何周も重ねる。 

 その後の世界はずっと大変だった。

 大変だったという言葉が適切なのだ。

 隕石の落下は免れなかった。だから人は数を減らして生存の道を探っていくことになる。

 本当に生きるか、死ぬかという大変、というか悲惨な状況だった。

 だけど私は研究職として得た博識さが功を奏して既得権益を確立してしまった。家もあるし、職もあるし、彩のある生活を送れている。そもそも専門の分野がまるっきり隕石に直結していたし、私は知識を存分に活用することができたんだ。

 だが、そうじゃない人は?

 ゆったりとイスに座りお茶をすすりながら私は吟味する。いろいろなことを。

 放っておいて、様々なことを放っておいて、世俗との交わりを断って、こんなのんきな思考にふけるのは良いことなのだろうか、とも思ったりする。

 不自然に思う。

 実は私は不自然に思っている。なぜあんな巨大な隕石を予測、いや観測できなかったのか。通常では、ありえないだろう。本当はもっと早く対策を講じられていたはずだ。だが、はっきりと覚えている。それは、あの隕石は突如観測レーダーに引っかかって、もう手の施しようもない時間しか残っていなかった。

 何かがあるのでは?不意に頭に浮かぶ。

 

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