第5話 何かが起きたみたい
広範囲に広がった地震があった。とにかく揺れが強くて、被害も大きかったのだ。そして私も運悪く、そのまま倒れてしまった。
目覚めたのはずっと後だ。
何年も経過していて、誰も私の知っている人はいないじゃないか。これでは浦島太郎だよ。現代でこんな目に合うとは、悔しいという感じかもしれない。
だが私は本屋で働くことにした。
就職先が本当に乏しく、働かない者も多い世の中になっていたけれど、よくよく観察してみると、働く場所なんてそんなになかったみたいだ。
だが私は明確に本に囲まれたいという思いがあったから、どうやら採用に至ったらしい。
そしてもう一つ、こんなに老けてしまった、いやおばさんになってしまった私だけれども、もういない両親ではなく、会いたい人がいる。
私は時折冷静になる。何かに執着している自分をひどく恥じ入る。だけど、こんなことになったから、浦島太郎状態なのだから、少し狂ってしまったらしい。
あの人を探す。
まあ、あの人を探すって言ったら好きな人だよね。そう、その通りなんだけど、彼女は、いや
かくいう私も恋愛感情というものの見方はひどく客観的なたちなのだが。
だからつまり、恋とかそういうのではない。そういうのではなく、なんていうか、ソウルメイトっていうことみたい。
木宇田はそもそも話し相手だった。彼女は誰にでも話しかける。私はただ受け身で過ごす。でもクサいセリフなんか吐きたいわけじゃない。
彼女とはどうやら気が合うらしい。そう感じた。
外の世界で見つけた家族、そんな感じなのだ。家族みたいな存在は、いまの私には染み入る。今の私って、私は一人で暮らしている。家族はどこかへ行ったまま家には帰りつかない。だけど私はただ一人、留守番をしている犬みたいに縮こまって、座っているのだから。
ああ、木宇田に会いたい、だなんて唐突に思う自分に驚く。
私は、私という一人称でありながら、はっきりと男である。なぜだか、僕とか俺とか、こっぱずかしくて口にできない。そういう所が私の歪んだ部分なんだろうと思う。
「ねえ、かなめ。」
私はかなめという名前なんだ。
「かなめは私のこと好き?」
ちなみに木宇田も一人称は私だから、まあかぶっているけど本人たちは気にしていないというのが常だろう。
だから、私たちはきっと私たちにしか理解できない関係だったんだと思う。あの感じ、あの感覚、きっとそういうものには一般論なんてないのだと思う。
私たちはいつも似通っていた。
服装も雰囲気も、全部。だから気を許せるし、緊張しないのかもしれない。
だから常に一緒にいて落ち着いていた。木宇田は女で、私は男。でも、男女の仲ではない。
木宇田はそうだ、いつも不可思議な女だった。笑っているようだけど、泣いている。そんな顔をよくしていた。そしてある日、私はそのまま眠りについていて、何年もたっていたのだ。
それまで見ていた景色と違いすぎて、仰天した。とても溶け込めそうにはない。ひどく不安に駆られたし、もう生きていけないんじゃないかとも、思う。
気持ちは昔のままなのに、なぜ、世界はこんなにも変動してしまったのだろうか。それは私が眠っていたから。何もできずに眠っていたから。
生き返らないと。私は生き返るべきなのだ。
そして知る、何が起こったのか。
一体何が起こって私は眠りにつくことになったのか。本当は物語みたいな真実があったなんて、到底予想していなかった。
だって私にとっては、意識のなかった私にとってはついさっきのことだから。
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