第10話 野外訓練


リコさん達との出会いは、ハナの価値観に大きな影響を与え始めていた。


”誰かの役に立ちたい、救いたい”

ずっと漠然としたものだった想いが

”お母さんのような聖職者にないたい”

へと、変化してきていた。

むろん、”お母さん”を知らないハナには、何を目指すかが明確ではなかった。


しかし、気の持ちようで毎日の生活も変わってくるもの。

ハナは以前よりも、積極的に授業に向かい合う姿勢ができ始めていた。



そして、ついに野外訓練の日を迎えた……


野外訓練は”冒険者仮登録”を済ませている者が対象であり、

王都に住む仮登録者ならば、誰でも参加できるというものだった。

すでに班分けはされていて、どんな人と組むのかは、まだ知らされていない。


この日は各野外活動に近い、それぞれの外門で集合となっていて、

ハナは西門から出発するグループだった。


まるで遠足の日のような気分で、寝付けずかなり早めに西門にやってきたハナ。

にもかかわらず、すでに一人、西門で佇む人影があった……


テンションも上がっていたこともあり、ハナは早速挨拶をした。

「おはようございます、あなたも野外訓練参加の方ですか?」

ハナは基本、人見知りをしない方だ。


相手は少し線の細い感じの若い男性、色白で悲壮感のある顔つき、

瞳の色も灰色交じりで、あまり王都では見かけない感じだった。


「あぁ……あんたもか……早いんだな……」

若い男性は途切れ途切れでゆっくりと答えた。


(いや、あなたの方が早いけど……)

などとは言えないが、ハナは笑顔で返す。

「はい、興奮しちゃって寝付けなくて、早く来ちゃいました!」


若い男性はハナを上から下へ、全身を確かめるように見た後、

「治癒師か……」

「はい!まだ見習いですが……」

この日もお母さんのローブで来たので、見た目はバッチリのはず。

(まぁ……擦り傷しか治せないなんて言えない……)


「俺は……剣士やってる……戦闘になったら、パートナーだな……」

表情を一切変えることなく、結構恥ずかしい事をスラリと言う若い男性。


(パートナーって言い方は大げさだけど……)

「そうなります、ね……」

なんとなく返事に困ったハナ。


「あ、アタシ、ハナって言います。あなたは?」


少し間が開く……


「……キリ……」

呟くようにキリは答えた。


「キリさん、よろしくお願いしますね!」

「あぁ……」


ここで会話は途切れてしまった……


(手ごわい……まぁ、初対面は仕方ないかな……)

昔から、コミュニケーション能力だけは高かったハナは

相手がそうでないときの対処も心得ている。


”そういう人もいるんだ”と、

向こうの心のドアが少しづつでも、開くのを待つようにしている。


しばらく、無言状態が続き……


「おぅ、早いな! おはよう!」

そこへ、一人の大人の男性が現れた。


「おはようございます!」

ハナはすぐに答えたが、キリは黙って視線を向けただけだった。


「今回の訓練の引率を担当する”マキシ”だ、よろしくな!」

明るく逞しい言葉遣いのマキシさん、既にかなり頼れる人だと感じられた。


そのマキシさんの後ろに隠れるように、

一人の少女が顔を出して、こちらを見ている。


ちょっと深めのフードを被り、”ザ・人見知り”全快の少女、

背は小さめのハナより、さらに小さい。年齢も低そうだ。

顔は残念ながら、よく見えない。


「おはよう、あなたは?」

ハナがまずは声をかけた。


「……」

少女はマキシさんの裾を引っ張って、隠れてしまった。


(こっちもか……)

またも”笑顔のあいさつ攻撃”が不発に終わるハナ。


「あぁ、悪いな……俺の連れで、今回の訓練に参加する”アニィ”だ、

 ほらアニィ、挨拶くらいはしないとな」

マキシさんに促され、ゆっくりとマキシさんの影から顔を出し、

「ぉ、おはようございます……」

聞き取りにくかったが、答えてくれた。


アニィは背中に立派な弓矢を背負っていた。


「弓士なのね、アニィちゃん!」

ハナは、いろんな職業に触れれるこの機会を、かなり楽しんでいる。

アニィは照れ臭そうにマキシさんの後ろに隠れたままだ。


「旅のキャラバンに所属しているが、俺は王都でこういう免許も持っていてな、

 アニィはまだ若いが実力はある。それで今回一緒に参加させてもらったんだ」


(キャラバン、確かに今滞在してるって、ヒロが言ってた気がするけど、

こんなところで出会えるなんて、なんかワクワクしてきた!)


マキシさんが、なにやら辺りを気にして、口を開いた。

「もう一人……来るはずなんだが……」

どうやら4人グループのようだ、と察したハナ。


『すみません~! 遅くなりました!!』

朝からドデカイ声で走ってきた青年。

綺麗な金髪で透き通るような瞳を持つ、出身が貴族っぽい(感じがする)。

「お、来たな」

マキシさんが安堵の表情を浮かべた。


「おはようございます! ”ラズ”です! 本日はよろしくお願いします!」

大きな声で礼儀正しく、お辞儀をしながら挨拶をしたラズ。


「ハナです、よろしくー」

まずは元気よく返すハナ。

「教官のマキシ、こっちはアニィだ」

アニィもコクリと小さく会釈してる。

(ちょっと可愛いかも……フードで顔はあまり見えないけど……)


そして、キリはまたしても視線を向けるだけだった。


「そっちの彼は……」

まだ名前を聞いていないマキシさんは、帳簿のようなものを見ようとしたが、

「あ、彼はキリさんです」

と、ハナが答えた。


「じゃあ、キリ、ハナ、ラズ、そしてアニィ。全員揃ったな。出発だ」

マキシさんが音頭を取り、一行は西門を抜け、城外へと足を踏み出した……



続く。

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