第5話 元気クッキー


「そうだ、元気クッキー作ろう!」

元気クッキーとは、ハナが自分や誰かを元気づけたいときなどに付けた言葉で、

特にいつも作るクッキーと大差はない。


訓練学校が休みになる週末、ハナは早速買い出しに出かけた。

ハナが住むのは、居住区として多くの住民が住まう王都西区、

西区大通りを中央区に向かい、堺の大門をくぐれば、

そこは王都でも最大の中央市場へと続く。


大門手前で、ハナは聞きなれた声に呼び止められた。


「ハナー!」

幼馴染のヒロだ。


「ヒロ~、おはよー」

ハナはいつものように元気に挨拶を返す。


ヒロの家は両親が冒険者斡旋所を営んでいて、どうやら週末は手伝いのようだ。

駆け足で近寄り、

「お手伝い?」

「うん。ハナは?」

「クッキーの買い出しだよ~」

「そっかぁ、気を付けてね!」

「うん。ヒロも頑張ってね!」

大きく手を振り、斡旋所をあとにする。


大門をくぐると、景色はまた一変する。

それまでも聞こえはするが、門をくぐると市場の活気が至る所から聞こえてくる。


王都は周辺地域の中心である。

衛星都市の港町から水揚げされたばかりの魚介類、

山間の村から朝収穫されたばかりの野菜や果物、

冒険者向けの装備も、装飾品、薬品、本当に何でもそろう巨大マーケットなのだ。


ハナのお目当ては牛乳や小麦粉といった、クッキーの材料、

露店もあるので、来るたびに場所の変わる場合もあり、

キョロキョロと見て回るのも、ハナの楽しみの一つだった。


突然、腰のあたりに何かがぶつかってきた!

「いててて……」

少年がはしゃいでハナにぶつかってきて、転んだらしい。

かわいそうに、膝をすりむいている。


「大丈夫?」

心配そうにハナが手を出すと、

「こんなの唾つけとけばヘッチャラだよ!」

と、やんちゃそうに歯を出してニカっと笑った。


どうやら傷は大したことなさそうだ。


「唾よりちょっとは良いことしてあげる♪」

ハナはそういうと、少年の膝近くに手を広げ、意識を集中させた……


『ヒール!』

掌から薄い光が現れ、傷口を包み込む……


みるみる傷口が塞がっていった。


「あれ?!痛くない!」

そういうと少年はまたすぐに走りだした!

「ちょっと、また走ったら……」

聞く余地もなく遠ざかる少年の影、

すると、遠くなった少年が再びこちらを振り返った。


「ねーちゃん、ありがとー!」

そう言って、また歯をみせて笑い、走り消えた……


言われた瞬間、ハナの心の奥底のろうそくが少し大きくなったような、

温かい気持ちがふんわりと込み上げてきた……


(そうだ、アタシ……これがしたいんだ……)


剣も持てないし、魔法力も少ないけど、誰かを助けたい。

これがアタシなんだ!


そこからのハナの足取りは軽く、鼻歌交じりに買い出しを終え帰宅した。


いつもの手慣れたクッキー、アレンジは無いけど、得意。

オーブンに成型したクッキーを入れ、あとは待つだけとなった。


(アポ無しだけど、明日これをもってリコさん達に届けちゃお!)


ハナにとって、元気クッキーとは、食べることではなく、

誰かを想い作る工程こそが元気の源になっているのだった……



続く。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る