ゲーム、或いは情報共有

「エッケハルト、この世界の元だろうゲーム・・・は」

 「「遥かなる蒼炎の紋章」」

 そこまで、被った。

 

 「お前もか」

 「くっ、お前もだったのか……」

 「どうりで可笑しな行動を取ると思った。ゲームで恥ずかしかったから飛ばし飛ばしだったとはいえ、エッケハルト・アルトマンってもうちょっとクールだっただろって思ってた」

 「まあ、な」

 バツが悪そうに、ぽりぽりと少年は頬を掻く。色々と知っていて、尚おれに止められるような行動していた……というのは、中々に恥ずかしいのだろう。

 

 「どうにも上手く行かないと思ってた」

 「おれが変に介入してたか?そんなシナリオじゃなかったと思うんだが」

 「……なあ、ゼノ」

 「何だよ、エッケハルト」

 お互いに前世……というかゲームとしてのこの世界の記憶がある、それは分かっても呼び方は変えない。

 まあ、暫くその呼び方だったし良いやという奴である。そもそも、例え自己アイデンティティだ何だで生前の名前を使おうにも、覚えてないしなおれ。

 前世の名前……何とかシドーだっけ?

 

 「お前、何処までやった?」

 「何処までって、今聞くことか?」

 言いながら、それでも格子を千切れないかやってみる。上手く行かない。小刀は実は服に仕込んである。

 だが。それ一本では不安だ。ある程度狭い中、一人で乱闘するならある程度の長物があると便利なのだが……長すぎればそれはそれで壁に引っ掛かるが。

 

 「封光の杖はフルコンプ。轟火の剣はとりあえずってところ。一応RTAとかやってるくらいにはプレイしてたけど、封光の杖程じゃない。

 外伝とか小説は……金が無かったのかな、覚えがない」

 「お前、元女かよ!?何で男なんかになった」

 「いや違うけど?」

 言われてみれば、封光の杖は初代である。つまりは、乙女ゲー時代だ。それをフルコンプと言われれば女扱いも……っておれは男だし、SLG部分をコンプリートするのは男のやることだろ。


 「何度も羨ましそうに話聞いてたらさ、新機種買ったからってお古の本体ごと近所の高校生の姉さんから貰ったんだったかな、記憶がちょっと曖昧だけど。

 轟火の剣はその後その家でやらせて貰っただけだから半端なはず」

 その割にゼノルートRTAの知識有るし、そのお姉さんの家に入り浸ってないかおれ?

 だが、やはり、おれはおれでしかない。生前の……ニホンに生きてた頃はあくまでもゲーム知識や一部の記憶だけしか無い。だから、そんな感じだったようなとしか言えない。

 因みに、乙女ゲーだったので学校で散々に言われ、幼馴染にも呆れられたのは何故か覚えている。良いだろマップ攻略楽しかったんだから。

 

 「兎に角、お前は雷鳴竜と氷の剣とか読んでないんだな?」

 「読んでない。興味はあったけど」

 正式名称、遥かなる蒼炎の紋章~異伝・雷鳴竜と氷の剣~。確か発売予定だった小説版だったか

 異伝、とついている事からも分かるが、本来とは違う物語の小説化……つまりは、漫画化されたリリーナ編本編、ライトノベルとして小説化されたアルヴィス編男主人公編に続くアナザー聖女主人公である。

 刊行発表後直ぐに死んだので読んだことがあるわけ無い。いや、発売しててもお金無いしそもそも確か女性向けレーベルからの発売だしで読んでた保証はない。

 

 それを聞くや、焔色の髪の少年ははあ、とわざとらしくおおきな溜め息を吐いた。

 「お前そんなんで生きていけるのかよ」

 「そんな話になるか?一応ゼノルートの内容は覚えてるぞ。というか、淫ピリーナが居るんだから行くとして通常ルートの何れかだろ?相討ちには気を付けるさ」

 「いやさ、それ以前の問題。雷鳴竜と氷の剣読んでないんだろお前?」

 「そういうエッケハルトは読んだのか?」

 「ああ、読んだ読んだ。表紙の子が可愛くて妹から借りて読んだ。

 というか、そこからゲーム知ってプレイしたんだわ」

 「……それで?雷鳴竜ってのはラインハルトだろ?おれ関係なさそうなんだが」

 ラインハルト。天狼ラインハルト。アナザー聖女限定で出てくるゲーム版での仲間キャラだ。天狼と呼ばれる土着の生物。魔防を持ち、七大天の一柱たる雷纏う王狼の似姿ともされる伝説の幻獣の一体である。


 因にだが、土着の魔物と幻獣の違いは魔防の有無である。魔防があるのは神に選ばれた存在である人間と……霊長と同列として幻獣と呼ぶ生物だけ。まあ、人間も万色の虹界に選ばれた似姿だとか教会では言っているので同列というのは教義的には正しい。

 

 「ラインハルトルートじゃないのか?関係あるか、おれ?」

 まあ、擬人化状態で出てきて更にはイケメンなので、当然というか何と言うかアナザー限定で攻略も出来た。

 天狼の花嫁エンドだったか。とりあえずラインハルトが専用武器の哮雷の剣ケラウノス含めてアホほど強くて大分攻略が楽なルートだったのは覚えている。

 ……ラインハルトルート条件を満たすと恐らくおれは死んでるのだが。大丈夫かよオイ、ではあるが、その分おれと関係は無さそうだ。


 「まあ、暫くはメインキャラだったからなお前」

 「……そうなのか」

 おれの何度かぼやいた神器、月花迅雷。ゲーム版ゼノの初期装備であるそれは名前通りの雷の刀である。

 実は初代でもとあるキャラが持ってきてくれるのだが、何故か男主人公ルート等のゼノ自身が出てくるパターンでは初期装備として持っている。加入時からさらりと持っていてそれが当然というように特になにも言われていなかったが……

 まあ、それが初代ではモブとして生きててモブとして死んだんじゃないかという話に繋がるのだが。多分リリーナ編で貰えるのはゼノの遺品とか……止めてくれ、おれは生きたい。


 それは置いておいて。神器とまでされる雷の刀。まあ、ラインハルト関連で小説で掘り下げられても可笑しくはないか。

 というか、月花迅雷って設定上は哮雷の剣を再現しようとした現代神器だっけ?そりゃ話に出るわな。

 

 「それで?」

 「色々と掘り下げられてるのよお前。それ知らないって大丈夫かよ」

 「大丈夫……だと良いな」

 「だろ?だから教えてやるぜ色々と

 流石に、同じ転生者が此方が知ってる知識が無くて死ぬのは嫌だし」

 「助かる」


 嘘かもしれない。その分自分のやるはずの余計な事に口出しするな等の算段は有って良い。アナだって、おれは読んでないけれどもエッケハルトが割と出番多いらしいラノベ版での彼の婚約者辺りだったのかもしれないし。

 だとしたら思いきり邪魔したことになる。よりドラマティックに助ける為だとしても騎士団による封鎖はトラウマを残しかねない酷い手だが。

 ただ、信じてみる事にした。人を信じられないで何が皇子だという話である。疑う気の無い奴はそれはそれで駄目皇子だがな。

 

 おれの差し出した手を、エッケハルトは鎖を鳴らしながら取った。

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