牢獄、或いは再会
「入っておけ、ガキぃ!」
そんな声と共に放り込まれたのは……何処だ此処。
目をしばたかせ、ずっと気絶したフリを続けていたが為に閉じていた目を暗闇に慣らす。一刻を争うパターンでは割と致命的な隙だが、残念ながら彼等はそこまで強くはない。
恐らくはゴーレムに頼った奴等。ゴーレム自体は材質にもよるが強力な存在であり、それを扱う魔法も重宝されるが……
ガチャンと背後で金属音がする。どうやら、此処は所謂牢獄らしい。
わざとらしく今正に投げられた衝撃で起きましたよーとでも言いたげに呻きながら、寝返りを打って眺める。
割と粗末な自然にくりぬかれた石壁を想定していたが、視界に入ってくるのは予想外に整えられた土壁。
其処に如何にも後から付け加えられましたと言わんばかりの、割と新しい金属の光沢を放つ鉄格子。打ち付ける釘が後付け感をそれはもうマシマシに盛っている。
恐らく、何処かの魔物の巣の改造だろうか。主が消えた巣を、とりあえずの拠点に改造……ありがちな話である。
閑話休題。とりあえず、単なる鉄格子。言ってはなんだが、この世界において単なる鉄格子というものはあまり役には立たない。魔法も何も掛かっていないそれは誰でも買えるようなものであり疑われる事も無いが、それは大抵は家畜用になるから。
凶悪なモンスターやら
兵士の剣を折れた事からも分かるように、何の魔法も掛かっていないならば……鉄格子はおれでも曲げられる。つまり、見張りが居なければ鍵なんて無くてもフリーパスなのである。
とりあえず、動くのに邪魔な縄は千切っておく。力を込めて強引に横に引けば千切れる。鉄格子よりも脆いので何も言うまい。
単なる子供相手なら十分だが、皇族とかいうバケモノを相手にするには不足に過ぎる。
そうして、少し奥を眺めて……奇妙なものに気が付いた。
奇妙な物というか……者だ。雑に放り込まれたおれ、以外にも何人か放り込まれている。その誰もが、怯えたようにそっぽを向いている。
まあ、騒ぎもなく助けが来るなんて思わないし当たり前か。それは良い。拐われた子供達……の中で特に商品価値が低い男の子達を突っ込んでいるのだろう。
徒党を組んでも基本子供、勝ち目はない。というか、レベル10越えてるおれの方がよっぽど可笑しい。
基本子供はそんなに強くない。レベルとは修練だ……とは言わない。この世界にはパワーレベリングだってあるのだし。
要はレベルとは体に溜め込んだ魔力、エネルギー量のバロメーターだ。魔物なんかが持ってるそれを、相手を殺す事で自身の体に取り込む。それが経験値であり、その量がレベル。
だからこそ、レベルはスペックに大きな差を生む。エネルギー量が違うということは、根本的な出力が違うということなのだから。そしてその出力こそがステータスという値な訳だ。
職業もそれに準ずる。魔力を溜め込む器の形が七大天から与えられる職業であり、それに応じて魔力の巡りかたが変わるからステータスの上がりやすさが違うわけだな。
そして上級職業へのクラスチェンジとは、人でなくなりより大きな魔力を溜め込める超人に生まれ変わるという儀式だ。
HPってのも、その一種。体を巡る魔力が、本来の生命力を底上げしてるからどんなアホな怪我しててもHPがあれば死なないし、逆にその魔力を消し飛ばされる高ステータスの攻撃はかすっただけでもHPが無くなれば死ぬ。
そうだとしても、エネルギーを溜め込むのがレベルであるとすれば、年上の方がより溜め込む時間があるから強いに決まっている。それが基本だ。
獅子は息子を谷底に突き落とす……ではないが、生きて帰ってこれるだろうと魔物の群れのなかに叩き込まれでもしない限り子供がそんなに高いレベルを持つことなど有り得ない。
只でさえ、ゲーム内で語られている話だが、魔神王なるゲームラスボス直下の魔物は魔力の塊としての性質が強い生物であるから原生生物とは比べ物にならない
この一年師匠に魔物狩りとかさせられたおれでもレベル14が限度。皇族のスペックにものをいわせて割と格上扱いの原生種の中では強い方とやりあって、である。
それは良い。重要なのは取っ捕まってる者だ。
「……エッケハルト?」
そう、両手両足を鎖で縛られ壁に磔られていたのは、あのアルトマン辺境伯子であった。
「何やってんだエッケハルト?」
小声で、そう問い掛ける。土壁とはいえ音は響く。下手に大声を出したらバレるだろう。
ならば話しているのがバレた時の為に捕まってるフリが良いのかと手に千切った縄を掛けなおす。良く見ると切れてるが、ぱっと見誤魔化せるだろう。
「バカ皇子……」
よろよろとした焦点の僅かにブレた眼で少年がおれの顔を見上げる。どうでも良いけれどもこんな時くらいバカ皇子は止めてくれ。
「お前も……かよ」
「それが一番早いだろ。相手が勝手に案内してくれる」
「それは、そうだけどさ……」
「お前もそうじゃないのか?」
「いや、颯爽と助けに入って助けようとして……」
「そうして普通に負けて捕まったと。貴族様だから見せしめ兼逃げられないように磔か?」
「多分……な」
こくり、と少年は力なく頷いた。
勝てなかった。まあ、割と当然の話である。ゴーレムが出てきたなら……ウッドゴーレム辺りの火特攻なら勝てたかもしれないが、普通は無理だ。動かない鉄なら兎も角、動くゴーレムとなるとアイアンゴーレムだったりすればおれでも無理だ。
基本ゴーレムなんて物理火力で突破するものじゃない。
「で、大人しく捕まってたと。
アナは?」
「このダンジョンの……どこか。
くそっ、アナスタシアちゃん……」
「やっぱりダンジョンかここ……」
とりあえず、エッケハルトを捕らえる鎖……を引きちぎるよりもよっぽど楽なので鎖を壁に止めている杭を抜いていく。軽々と抜けないように返しがついてはいるが、所詮は固められたとはいえ土壁に埋めたもの、抜こうと思えば抜ける。
数分で、少年は一応の自由を取り戻した。まあ、まだ腕輪足輪から鎖はじゃらじゃらしているが。
とりあえず、鉄格子まで戻る。
見張りは……居ない。って雑だなオイ。遠くから酒盛りの声が聞こえているので、恐らくは成功を祝って皆でドンチャン騒ぎでもしているのだろう。
だからって見張り無しって本気で大丈夫かあいつら。
「……どう、だ?」
「とりあえず曲げられはするな。折るのは手間そうだ」
触れてみると、想定よりちょっと固い手応え。適当に折れば武器になると思ったが甘かったようだ。乱闘に備えて長物一本は欲しかったのだが……
と、いうところで思い出す。
「エッケハルト。お前なら何とかならないか?」
そう、この焔の公子様である。焔のとつくだけあって、鉄を熱して柔らかく出来たりしないかと。出来るかは兎も角、脆くなれば十分。
「無理だ。魔法書がない」
だが、じゃらじゃら音を立てながら此処まで来た少年は首を横に振る。
「いや、焔の公子に魔法書無し魔法付いてなかったか?」
言ってしまってから、しまったと失言を認識した。
今までおれは、無意識的に"おれ"であるが故の言動を避けてきた。脳内ではその方が思考整理が楽なので言っていたが、ゲーム的な言葉は口に出さないようにしていた。
だが、今のこれは……
「無理だ。焔の公子を持ってない」
「いやお前の固有スキルだろ持ってないなんてオチがあるか」
「固有スキルは七色の才覚になってるから持ってない」
「おいこらそこの辺境伯子。別人の固有スキルだろうがそれ」
……可笑しい、話が噛み合う。
職業、ステータス。スキル。そこまでは良い。それはこの世界でも確認出来る魔法がある。
まあ魔力の器や魔力量、その出力の値や、魔力による超常現象や特殊補正の事だしな。
だが、固有スキル。それは確認不可能なはずだ。そもそも、他の汎用スキル(修業やレベルで覚えられる技術や特性であるソレ)と異なり、固有スキルとはキャラの特長を、個性をスキルとして落としこんだよりゲーム的なものの筈だ。
だから、固有スキルなんて単語はこの世界にない。何だそれはと返されるべきなのだ。固有スキルは、この世界ではあくまでもマスクデータみたいなもののはずなのに。
つまり、だ。それを知るとしたら……
「お前、まさか……」
「「転生者か!?」」
その声は、見事に重なった。
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