設定 メサイア、メサイア使い(期間限定公開中 11/30まで)
単なる設定です。
こんなもの読まなくても作品は楽しめます。
時間の無駄ですから読まなくて結構ですよ?
●メサイアの定義。
魔晶石エンジンを搭載し、騎士が操縦する人型戦闘兵器。
全高は約30メートルに達する。
●メサイアの歴史〜全てはベトナムから始まった。
メサイアが歴史に初めて登場したのはベトナム戦争。
ベトナムのフエ王朝内乱に端を発し、カンボジアや近隣諸国を巻き込んだ東南アジアの紛争をベトナム戦争と呼ぶ。
内乱に際してベトナムに経済利権を持つフランス政府がフエ王朝を擁する政府側を支援、反政府派をカンボジアなどのベトナムの周辺国が支援した。
この混乱に目をつけたのがアメリカである。
1940年代の北米戦争―――別名、赤色戦争から奇跡の復興を遂げ、世界への進出を目指すアメリカにとって、ベトナムの混乱は、失われたアジアへの再進出のまたとないチャンスだったのだ。
アメリカは、反政府軍がトンキン湾上のアメリカ海軍所属の情報収集艦を攻撃したという口実(後に完全がでっち上げであることをアメリカ政府自身が認めた)を元に、一方的に反政府勢力との間に戦端を開くと、大量の兵力をベトナムに送り込んだ。
介入以降、半年はアメリカ軍の物量と最新鋭兵器の前に、旧式の武器しか持たない反政府軍は各地で一方的な負け戦を強いられた。
介入から8ヶ月目には、アメリカはベトナムの旧領土の7割の掌握に成功、この戦果に気をよくしたR・ケネディ大統領が「クリスマスまでには兵士を帰国させたい」と語る程、アメリカにとって楽観視出来るものだった。
ところが、状況はアメリカの予期せぬ方向へと向かう。
アメリカがユーラシア大陸に足がかりを得ることを望まない中露両国がこぞって反政府側の支援を表明、反政府軍が中露の最新鋭装備を駆使するようになった上に、利権を侵害されたフランスが各地の勢力に張り巡らせていた諜報網からの情報をアメリカに供与することに消極的になった。
結局、アメリカはクリスマスまでに戦争を終わらせることに失敗し、膨大な数の戦死者を生み出すことになる。
あまりの損害にアメリカ世論は二分に分かれて紛糾、国際的な立場も危うくなる中、政府強行派に押された大統領率いるアメリカは、自らのメンツにかけて退くことの出来るデッド・ラインを超える。
アメリカ議会は戦時体制に突入し、ベトナムを本土防衛に匹敵する重要な戦場と位置づけ、ベトナムへの“さらなる”、“無制限の”介入を決定する法案を議決、米中露の対決は決定的となる。
もう、この時点で単なる東南アジアの一小国の内戦に過ぎなかったはずのベトナム戦争は大陸の覇権を狙うロシア、そして中華思想を掲げる中華帝国とアメリカという世界的大国同士の代理戦争へと発展していたのだ。
再びの世界戦争への発展を恐れる各国を尻目に、大国としてのメンツをかけた戦いは次第に熾烈なものとなっていく。
アメリカは持ち前の物量で全てを押し切ろうと躍起になり、クリスマスはとうに過ぎたものの、それでも反政府軍を押さえつけることにはどうにか成功しつつあった。
そのはずのアメリカが驚愕し、大統領が失神したとさえ伝えられる程、全ての状況をひっくり返したのが、ベトナムの密林から現れた、濃緑色の巨人達だ。
ロシア軍呼称、MDROM-11 スターリン。
アメリカ軍の将兵は、たった4体の巨人によって地獄に投げ込まれた。
その損害は、米軍がそれまで築いてきた軍事的優位を崩壊させ、介入から一年を迎える前に、米軍そのものがベトナムから駆逐されそうになった程だ。
恐怖の巨人達がベトナムで暴れている!
ロシアがベーリング海峡を越えてくるぞ!
あまりの敗北におののくアメリカ本土では、各地でそんな噂が流れ、世界は大パニックに陥った。
あの巨人達をとにかく止めろ!
そのためだけに米軍がベトナムに持ち込んだのは、当時まだ試作型が製造されたばかりのプルトニウム型反応弾――我々の言う所の原子爆弾だ。
当時、爆発したら何が起きるのかさえ、開発者にもわかっていない未知の兵器だった。
●開発コード“メサイア”
友軍まで巻き込んだ爆発によって回収されたスターリンの残骸は、すぐに本国に送り届けられ、研究に回された。
ベトナムは決定的な勝敗がつかないまま、政府、反政府両勢力によって和平協定が締結され、一応の終結を迎えた。
ベトナムの敗戦から数年間、アメリカは全ての力を自国製スターリン、開発コード“メサイア”の開発に注ぎ込んだ結果、アメリカが手に入れたのは、スターリン同様の巨人だった。
なお、試作一号騎のロールアウトまでに米国が投じた開発費用は、赤色戦争の戦費に匹敵するという。
●メサイア開発競争の始まり
競争心は新たな競争を生み出す。
それが、米露のメサイアの開発及び配備競争であり、その競争熱はすぐに世界全土へと波及した。
世界はベトナムの悪夢を恐れた。
しかし、同時に巨人の力に憧れた。
恫喝に近い国際世界の圧力に屈する形で米露が技術公開するや、世界各国が開発に手を染めたのはそのためだ。
●スイートウォーター事件。
スターリンから始まったメサイアは、技術情報の公開からほんの十数年という短期間の間に劇的な進化を遂げた。
戦場での決定権を持つ存在。
最強の兵器。
その進む先にあるのは勝利と栄光のみ。
……。
メサイアはそんな位置づけがなされていた。
なら、そんな兵器を誰が駆る?
操縦者の選択にあってまず白羽の矢が立ったのは、当然、騎士だ。
各国は自国が保有する騎士の中で最も優れた者を操縦者に割り当てようとした。
肉体能力(SFS)が操縦に影響する。
そう考えられた結果だ。
そんな考えに待ったがかかったのは、日本が独自メサイアの開発計画を開始した翌年のこと。
“スイートウォーター事件”(アメリカやロシアの機密情報を盗み出したダブルスパイが、両国のメサイア研究機関で入手した様々な情報を無差別に一般公開する暴挙に出た事件)がきっかけだった。
この事件によって、メサイアの開発を巡って謎のベールに包まれていた米露両国でどんな研究がなされているかが白日の下にさらされた。
興味本位で情報に接した人々は、国際法に抵触する人体実験が行われていることばかりに目がいったが、国家や研究者にとって重要だったのは、たった二つの情報だとされる。
一つは、騎士のサポートスキル――MC(メサイア・コントローラー)のスキルが確認されたという情報。
そして、もう一つ。
それは米露の研究関係者双方が共通の問題に頭を悩ませていたことが明らかになったことだった。
―――何故、騎士の身体能力とメサイアの戦闘能力がイコールとしてつながらないのか。
これだ。
よくわからない?
なら、具体例をもって説明しようか?
前提条件:メサイアは、騎士の動きを反映する巨大なパワードアーマーである。
想定されるケース:Aという高級騎士と、Bという平凡な騎士が勝負する。
あるべき結果:Aの方がBに勝る。
いかなる状況においてもこの結論に変化はない。
これで当然なのだ。
メサイアというパワードアーマーを使っても、肉体能力に優れる方がいかなる場合においても勝つ。
それで当然と思われていた。
……ところが、だ。
現実は、そうはいかなかった。
研究を続け、メサイアの運用データが集まれば集まるほど、この結果では説明出来ないことばかりが確認されたのだ。
想定外の事例:
騎士としての能力に劣る方の騎士がメサイアに乗れば逆に強くなる事がある。
このケースは決して少なくなかった。
当然、軽視出来ず、研究者も首をかしげるしかない。
騎士の世界の前提となる騎士の身体能力=戦闘能力が、メサイアに関しては通用しない。
個人差?
操縦の熟練度?
違う。
それだけでは説明がつかないことが多すぎる。
一体、何があるんだ?
研究者は、誰もその答えが出せない。
メサイアの操縦には肉体のスキルではなく別なスキルが求められるのではないか?
そんな仮説が生まれるのは、時間の問題だった。
身体能力以外?
なら、そのスキルとは?
驚くべき事に、この問題解決のため、米中露仏独日……世界各国が歩調を合わせた人類史上最大クラスの研究プロジェクトが組まれた。
膨大な費用をつぎ込んだプロジェクトの結果、判明した事実は意外なものだった。
メサイアの操縦に必要なのは、実は身体能力ではなく、かといって魔法騎士のような魔法能力でもなかったのだ。
それは、人類が知らなかった肉体、魔力に次ぐ第三のスキル。
メサイアの操縦適性能力。
このスキルがメサイアの戦力に直結することが、研究の中で裏付けられたのだ。
このスキルの発見と公表は、騎士の世界に恐慌を引き起こした。
メサイアは決戦兵器としてすでに位置づけられていた。
それを駆る栄光を持つのは騎士、しかも、名門の誉れ高き騎士であるべきだ。
そう息巻く騎士達に突きつけられたのは、このスキルが、従来普及している騎士レベルである肉体能力(SFS)とは関係しないという“真実”。
急遽、確立された能力調査が進めば進むほど、それまで“騎士階級の恥部”とまで蔑まれてきた“騎士くずれ”たる、底辺の騎士達に多くスキル保有者が多いことが判明した。
騎士階級はこれに動揺した。
騎士崩れが階級の主役になる?
冗談じゃない!
このままでは階級秩序が崩壊する!
恐怖が恐慌を産み、恐慌は革命へと変わった。
それまで階級の中でゴミのように扱われていた存在が、一夜にして、メサイアの使い手として称えられることなんて、旧来の騎士達にとって受け入れられた話ではないのだ。
騎士階級はメサイアについて拒絶反応を引き起こし、その内部での議論は、何年も進展しなかった。
改革を促したのは、戦争だった。
三十年戦争。
妖魔を駆使する魔族軍との未曾有の戦争は、それまでのルールが一切通用しない人類にとって初めての戦争でもあった。
開戦となるギアナ高地事件から“一応の終戦”とされるヴェルサイユ条約締結まで約30年を必要とした有史以来、最大規模の戦争の中で、妖魔、特に体長数十メートル規模にも達する“大型妖魔”への対抗手段はメサイアしかなかった。
いくら騎士が個人として肉体的に優れても、数十メートルのバケモノ相手に戦うことは無理だった。
大量量産体制が確立、戦線に大量に投入され、日進月歩の勢いで進歩を遂げたメサイア。
その搭乗者は、“メサイア使い”と呼ばれ、世界的英雄として祭り上げられていく。
いくら身体能力に優れる高級騎士が意地になろうと、メサイアは、メサイア使いと呼ばれる“騎士崩れ”によって駆られて当然。そう世界で認められるようになっては、騎士階級として時代の変化を受け入れるしかなかった。
陸海空、戦域を選ばず、敵対する全てを薙ぎ払うために存在する最強の戦いの神。
戦場の救世主―――メサイア。
破壊の神―――メサイア。
メサイアを駆る戦いの司祭―――メサイア使い。
世界はとりつかれたようにメサイアの生産・配備に熱を入れた。
その結果、メサイアの配備数は、戦争終結を宣言するヴェルサイユ条約発効の時点で(世界規模で)20万騎ともされる規模に達した。
メサイアの数が国力のバロメーターともされるのがこの世界だ。
この数故に、今では騎士=メサイア使いと考える風潮が強い。
それに自らの立場に危惧を抱いたのは、それまで幅を効かせていた騎士達だ。
メサイア使いなんて騎士ではない。
騎士は体を張って戦ってこそ価値がある!
騎士が機械に頼るとは何事だ!
そう言っても、身体能力だけでは魔法騎士にかないもせず、戦略的価値においてはメサイア使いに負けることを覆すことは出来ない。
戦争が一段落した後、世界会議の結果として、階級を牛耳る旧主派の騎士達は、せめてもの抵抗を試みた。
メサイア使いの騎士階級内部での扱いを定めたブリュッセル条約において、騎士階級はメサイア使いを騎士階級内部で承認することとした。
しかし、その代償として、彼らに不当とも言える様々な差別的制約を課したのだ。
その最たる具体例が、帯刀権の制限だ。
騎士は刀剣をもって戦う存在故、刀剣を帯びることを名誉とし、平時でも公然と腰に武器を帯び、それを名誉とする者が多い。
だが、体を張って戦わないメサイア使いにそんな権利は必要ないとされたのだ。
メサイア使いが帯刀を許されたのは、長剣なら模造刀のみ。真剣は刃渡り10インチ(約25.4センチ)を超えてはならない。
刀剣という、目に見える形での騎士の名誉は彼らには与えられなかった。
模造刀かナイフで証明される階級的尊厳。
これは何の冗談か……?
“騎士であって騎士ではない”
メサイア使いとはそんな存在だと、身内からみなされた結果がこ
の条約であることは明白だった。
しかし、それに文句をつけることは出来ない。
それが世界の秩序なのだ。
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