翌日の朝は、少なくとも昨日よりはちゃんと週番の子と会話することができた。

 途中、珍しく(最近では二度目だけれど)先生が教室に来て三人になり、話を聞く側にまわれたことが良かったのかもしれない。


 先生が朝早く来たのは、放課後に部長会があることを伝えるためらしかった。

 月一で決まった曜日にあるのは知っていたし、諸々の持ち物などは過去のものを流用すればいいので不都合は生じないと説明すると、先生はほっと胸をなで下ろしていた。


 そしてその放課後になると、栞奈が話しかけてきた。

「部長会初めてなの」と。そういえばこの前、三年の先輩が引退して部長になったと言っていた気がする。


「どういうことをするの?」


「ただ各部の部長が集まって話をする」


「……だけ?」


「だけ」


「ふうん。それはなんか、すっごく退屈そう」


「退屈だよ、実際。時間の無駄とまでは言わないけど」


「霞がそう言うってことは……まあ、察した」


 栞奈は面倒そうな表情をつくって苦笑する。

 言い方を間違えたような気がして、私は少し後悔した。


「今日はせっかくの休みなのに、運悪いなぁ」


 そう言って栞奈は窓の外を見つめて、深い溜め息をついた。

 それになんと返せばいいのか分からないまま、栞奈の横顔をちらと覗く。けっこう疲れていそうな顔をしていた。


 ひとまず机の上の荷物を片付けて、二人で教室の外に出る。

 大変だね、とか、疲れてるね、とかそういうことを言えればいいんだけど。そういうのって、実際つらい人からすると、わざわざ言われては迷惑かもしれない。

 廊下を歩いているうちになにか言うことが見つかるだろうと思ったけれど、結局思いつかなかった。


「そういえばさ、この前は来てくれてありがとう」


 だから、がらっと話題を変えることにした。


「こちらこそ。うちのお母さんね、すごく喜んでくれたんだよ。

 いい友達がいるのね、って。なんだか私の方まで鼻が高くなっちゃった」


「ならよかった。正直、ちょっと不安だったんだよね」


「喜んでくれるか? ってこと?」


「そう。友達のお母さんに向けて、っていうのは初めてだったから」


「んー、霞はもっと、自分に自信持っていいと思うよ」


「それ、お店のパートさんにも言われるんだよね。

 そういう気持ちっていうのは出ちゃうものだから、みたいな」


 だから、なるべく隠すようにはしていた。

 おどおどしている店員がいたら漠然と不安になるのは当然のこと。

 まあ……高校生か、もう少し大人に見られたとしても大学生くらいのバイトが色々としようとしている時点で、不安になる人はなるだろうけど。


「バイトだけじゃなくてさ、もっと広い意味で自信持っていいと思うよ。霞は、一年生から部長やってるし、周りと比べて落ち着いてるし」


「あ、うん」


「それと桃が、写真見て喜んでたし」


「それは……関係ある?」


「かわいいって言ってたよ。ライン見る?」


「もう昨日桃から直接言われたから、大丈夫」


「そっかー。桃にめっちゃ好かれてるもんね、霞は」


「……なんで嬉しそうなの?」


「いや、なんとなくね」


 さっきまでの憂鬱そうな表情から一転、栞奈はいたずらっぽく笑った。


 そんなふうなやり取りをしているうちに、会議室の前についた。

 中から聞こえてくる声は騒がしく、あぁこんな感じだったな、と先月のことを思い返す。


 初参加で緊張しているからなのかもしれないが、ひとつ咳払いをして、真剣そうに姿勢を正す栞奈を見て、これが部長のあるべき姿と感心した。



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