第335話 話を戻して。
翌々日。
話を戻して。
ここはアリータ聖王国の王都ミリガンディアからグルノー砦まで続く街道を望むことのできる丘。
「せーかいじゅうぅのぼーくらのぉ」
茶髪の少年は鼻歌を歌いつつ、馬に跨っていた。
その視線の先にはアリータ聖王国の王都ミリガンディアから一万五千になる軍。
「いやはや、ジンのやることはえげつないねぇ……あの坊ちゃまが可哀想だよ」
額に手を当てて、苦笑した。
「敵軍の目立った将と魔法使いを捕らえ、ソフィア様に関する流言。更には……」
茶髪の少年が言葉を切った。
視線を後ろへと向ける。そこにはローブを来た数名とボルト、シルビア、数千の兵士。
茶髪の少年は口角を上げる。
「ソフィア様を通すために斥候を捕らえろとか」
ローブ姿の者の一人が近づいてくる。
フード部分を脱いで、ソフィアが顔をだした。
「到着しました。あの……ニール様ですよね?」
茶髪の少年はソフィアの問いに対して、茶色の髪と顔の皮膚をペリペリと剥がすように脱いだ。白金の髪がパサッと降りて、ニールの顔が現れた。
「ええ。そうですよ」
ソフィアは驚き、口元に手を置く。
「まったく分からない……。外見はもちろんですが。声色も違いましたし。すごい変装でした」
「それはどうも。ミロット直伝の変装術です。街で普通に外を歩けなくなってから、ずいぶん練習するようにしているんですよ」
「えっと、悪いことには使わないでくださいね?」
「悪いこと? 例えば……」
ニールが悪戯な笑みを浮かべた。咳払いした後で喉を押さえて、再び口を開く。
「私は貧困に苦しむ国民を救う為、教皇に立ちます。勇敢なる兵士よ。私と共に戦ってください! ……って感じですか?」
ニールの声色はソフィアのものと近いモノとなっていた。ソフィアは再び驚いて、ニールを凝視する。
「それ……」
「なかなかのできでしょう? ジンに言われて頑張ってここ最近練習しているですよ?」
「絶対に悪用しないように! 良いですね!」
「俺に悪用されないよう、頑張ってくださいね」
ニールの言いように、ソフィアは「まったく、とんでもないですね」と溢して額を押さえる。少しの間の後で、ため息を吐く。
「この件は後でじっくり話しましょう。それで……地図の方は?」
ニールは頷いて、懐から地図を取り出した。ソフィアの前に出して地図を見せて、南方向へと指し示す。
「あちら方向の斥候を捕まえておいたから……赤い線のルートを使ってください」
「分かりました……。それではそちらの方もどうぞよろしくお願いします」
ソフィアが頷いた。地図を仕舞って、立ち去ろうとする。
ニールは口元に手を当てて、ニヤリと笑う。
「そういえば……ソフィア様には特別な呪いの力があると言う設定の流言にしているので」
ソフィアの足がピタリと止まって、ニールへと視線を向ける。
「へ? 今、なんと言いましたか?」
「例えば手を前に突き出しただけで、人を倒せるとか。消えない青い炎をだすとか。ソフィア様と敵対すると失踪することになるとか」
「なんですかっ! その流言」
「いや、ジンから、なんでもいいからソフィア様が凄いと流言を流してくれと言われていたから……適当に」
「適当過ぎますよ。誰が信じるんですか?」
「それは分からないですよ? 俺が一兵卒に変装して流しましたし、人が失踪しているのは事実ですから」
「それは……頭が痛いですね。しかし、今更話しても……私達はいきます」
ソフィアが額に手を当てて、肩を落した。次いで踵を返してニールから離れ……戻って行く。
ソフィアと入れ替わるようにシルビアがニールに近付いてくる。
「お疲れ様です。ご主人様」
「シルビアも……ソフィア様のお世話を面倒だと思うが頼むぞ」
「はい」
「本当に……心配だな」
ニールは小さくなったソフィアの背中へと視線を向けた。
その時、シルビアの持っていた鞄からジンが顔を出す。
「大丈夫。こっちには俺もついていくから大丈夫だ」
「アレ? 結局お前はそっちに行くことにしたの?」
「あぁーよくよく考えたら失敗したら困るのはこっちだと思ってな」
「じゃあ、あっちの準備は済んだんだ?」
「大人間達が頑張ってくれたよ」
「そう。じゃあ、俺はもう少し適当な流言を流したら、砦にゆっくり帰るかなぁ」
ニールがジンの前に手を出した。ジンはニールの手を叩き、ハイタッチする。
シルビアはペコリと頭を下げて、ソフィアの方へと歩いていった。
一人になったニールは顎に手を当てる。
「さて、次はどんな流言を流してやるか。……そうだ。ソフィア様は青い炎の龍を出すことができるとかにしようか?」
◆
遅くなりましたが。400万PV祝してのゲリラ投稿です。
最近、作者忙しく元気ないので……出来たら☆レビューとブクマいただけたら嬉しいです。
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