第14話 迫る時4
アカリが社長室を去って数時間後。
「くそぉ!!」
アニマルハートの社長は荒ぶるその感情に任せて机を殴りつけ置かれていたパソコンをも殴り飛ばす。そんな社長を見てかヒューマン隊の隊長は酷く動揺していた。
しかしなだめる事など出来はしない。
何故なら社長が苛つく理由をちゃんと知っており寧ろ責めたい気分になるから。
「はぁ、はぁ……くそっ!なんで、なんでこんな事になったんだ!?コンテナはどうやっても開かねぇし端末は見つからない!これじゃあ依頼人が電話で言ってた此処を潰さない条件がクリア出来ねぇじゃねぇか……!」
社長はアカリが社長室に入ってる間依頼人に直接携帯で連絡をとっていたのだ。
護衛の強さが異常であり依頼書にそれが明記されてなかった。だからその責任として損害賠償を払えと。
すると相手の方はそんな事は知らない。
やられたのはそっちの不手際だ。
そして護衛、または目撃者の殲滅が出来てない事から依頼失敗。契約書に明記された通りアニマルハートの人間を皆殺しにすると。
それを聞いて社長は当然激怒。
腐っても傭兵部隊のトップ、皆殺しなんか言われて動じてられない……しかし報酬に5億なんて出す大物なだけに万が一と考え出すと嫌な予感がした社長はなんとかして皆殺しは勘弁してほしいと下手に出て頼むのだが聞き入れてもらえなかった。
しかし何故か相手はある条件をクリア出来れば皆殺しはなしで報酬は渡してもいいと言ったのだ。
それはアカリが奪ったトラックに積まれていた端末、そしてコンテナを基地の誰かが開け引き渡すという事だった。
しかし端末は何処を探しても見つからずコンテナも何をしても誰一人として開ける事など出来ていないという手詰まりの状況。
「どうしてこんな事になったんだよ!?なぁ!?教えてくれよ!?」
「そ、そんなの!あんたの思慮が足りなかったからだろうが!?あんな見るからに怪しい依頼を成功報酬が破格だからってホイホイあんたのよ!」
「あぁ!?俺のせいだってか!?お前だって見た時に賛成しただろうが!?危ない橋を渡るのは使い捨ての駒だからって、これで一生遊んで暮らせるってよぉ!?違うか?なぁ、おい!!」
「それとこれは話が違うだろうが!?自分のしたミスを俺におっ被せんじゃねぇ!」
隊長のその言葉を最後に社長の怒りは限界を超え社長室で取っ組み合いの喧嘩が始まる。
騒ぎを聞きつけやってきたヒューマン隊の隊員に止められるまで喧嘩は時間も続いた。
〜〜〜〜〜
社長室で大喧嘩が起きているなどと知らず俺は人なんて誰も来ないキャット隊の牢屋の屋根の上でかぐやと話をしていた。
「今夜、此処が襲撃される……そう言ったよな?」
「えぇ」
「その根拠は?」
「パソコンに繋いでもらった事によりネットなどを介して通信記録を発見しました」
「はぁ、ネットか……」
通信記録まで調べられるとは恐れいった。
しかしまさかネットなんかが残ってるとは知らなかったな。
世界が今俺達が居るような荒野ばっかりになってインターネットなんかの人の営みを支える手段の一つは消えてしまったと大人達から聞いた。しかし実際そうじゃなかったと知ると存外に驚いた。
しかし真に驚くべき事はかぐやだ。
こいつ、トラックで初めて喋った時も思ったが普通じゃないな。SSの操縦サポートにAIが搭載される事があるなんて聞くが精々が敵の探知や異常を知らせる程度のもので流暢に話したり自己主張などしない筈だ……なのにかぐやは明らかにその範疇を超えている。
それを踏まえての結論……かぐやというAIは全てにおいて異常。
なんやかんやでこうやって一緒に居るがこいつの事について何も聞いてはいなかったし今になって思えばこいつは十分怪しい。
そろそろその辺りをはっきりさせないといけないな。死なないために。
「なぁ、かぐや、お前はなんなんだ?」
「なんだとは?」
「端末がアースで出来てたり普通のAI以上のスペックを持っている。なによりお前はあのトラックに何故か厳重に積まれていた……賢いお前だ。ここまで言えば俺が何を言いたいか分かるよな?」
「……」
無言、しかしそれはかぐやの様に賢い奴だと俺の質問に対してYESと答えているのも同然だ。
「俺が襲ったトラックと此処を襲う敵、そして匿名の仕事の依頼主は確実に同じ組織だ。そんな奴等とお前の関係はなんだ」
こいつは絶対何かを知っている。
全てが仕組まれたこの状況、かぐやになんの関係もないなんて考えられない。
するとかぐや数分の沈黙の後ーー。
「ようやくその質問ですか」
「え?」
「いつ聞くのかと思っていたらこんな状況になってからとは、随分と余裕ーーいえ、呑気ですね。こういうのは出会った時に聞かないとダメでしょう?まったく」
「えぇ!?何その反応!?まさかずっと俺がお前の事について質問するか待ってたの!?」
呆れた感じで説教されてしまった。
俺はてっきり「ようやく気がついたか間抜けめ」などと敵になるパターンかと思っていたのに。
「なにを項垂れているんですか?呆れ果てて項垂れたいのは私の方だというのに……はぁ」
「い、いや、まぁ、それはそうだけど……はぁ、すみません」
「構いません。気にしたところで人の性格は早々に変わるものではありませんから……さて私が何であるかと彼等の関係でしたね」
言葉から分かる通りかなり呆れた様子のかぐやは語り出す。
「私は世間一般にある通りSSのシステム及び操縦のサポートをするために作られた少々特殊なAIです。そして彼等との関係は、そうですね……例えて言うなら薄汚い権力者に服を剥がれ辱められそうになっている美女といったところでしょうか」
なるほどなるほど、そうだったのか。
かぐやは男運がないんだな。
「なるほど、世の中変わった女の性癖をしてる奴がいんだんな、かぐやも可哀想に」
「例えと言っているでしょう」
「なら例えず話すとどういう関係なんだよ?」
聞き返すとかぐやはため息を吐いてめんどくさそうに口にする。
「彼等はあるSSを動かせるようにして機体を調べたがっている。しかしそれにはそのSSのAIである私が認めないと誰であろうと動かす事どころか乗る事も今は触れる事すら出来ません。だから彼等は貴方達のように様々な所に私とSSが積まれたコンテナを奪わせて動かせる者を探し目的を遂げようとしているんです」
それを聞くと成る程、最初の例えはあながち間違えでもない、が今はそんな事はもうどうでもいい。かぐやの言葉が嘘であっても本当かも全て。
「どうしましたか?口を吊り上がらせて?」
「いいや、少しな……」
つまり昨日奪って格納庫に置いているコンテナの中にはそのあるSSが積まれているという事になる……いいな、俄然興味が湧いてきた。
自身が奪ったコンテナの中に何があるのか想像すると笑顔が、胸の内のわくわくが止められない。
昂ぶる気持ちを抑えられない俺をよそにかぐやは俺に聞こえない小さな声で呟く。
「星が光るための準備は整った……後は間に合うかどうかですね……」
現在時刻午後3時。
襲撃開始時刻午後8時まで後5時間。
アカリ達から離れた場所で脅威はその進撃の準備を進める。
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