第13話 迫る時3

 俺はこんなんヘタレでも一応男の子だ。

 SSに及ばずともずメカなどは好きである。

 なので見た事も聞いた事もない謎の端末がどのようにして正体不明の敵の情報を得るのかとわくわくしていた。


 しかし俺は現在荒野から移動する事なくボロボロになったSSのコクピットの中にいた。

 理由はかぐやがコクピットに自分を連れて行けと言ったからである。


 しかしそれは何というか……。


「……なんか思ってたのと違う」


 視線をコクピットにケーブルで繋いだ端末、かぐやに向けながら言う。

 するとかぐやは呆れた様に返事をした。


「一体何を勘違いして落胆しているのかは知りませんが私は初めから負傷兵から情報を得ようなんて言ってはいませんよ」

「敵を見た者って言ったじゃないか」

「はい、だから敵を見たモノと私は言いました。死にかけの兵の見た信用度の低い不透明な情報よりこのSSが見たものを直接見る方が遥かに有益です」


 あぁ、なるほど、俺は初めから言葉の示すものを誤解してたわけね。人の目じゃなくてSSのメインカメラが見た戦闘映像。


「それは確かに人間の不透明な記憶力より断然説得力がある」

「でしょう?ーーと、解析完了しました。貴方も見ます?」

「見る」


 俺は壊れたSSのモニターではなくシートに置かれた端末の画面を見る。

 すると画面が光り映像が流れ始める。

 しかし何故か音は一切聞こえてこない。


「音はないのか?」

「残念ながら音声のデータは破損しており流しても意味がありません。それでも流しますか?」

「いや、ならいい」


 ないならないで仕方ない。

 画面に映るものを注意深く見て情報を得ればいい。


 そう思い画面に映る暗い岩場を見ているとちょうど対面にマズルフラッシュに照らされて度々見えるツインアイを赤く光らせたSSの姿を凝視した。


「こいつは……」


〜〜〜〜〜


 壊れたSS全ての映像記録を見た俺とかぐやは欲しい情報はもうないと分かると基地内にある次の情報収集先に足まで足を運ぶ。


 次の情報収集、絶対面倒な事になるよな……それしかないとはいえ憂鬱だ。


「此処から行けそうです」


 失敗した時の事を考えていたらかぐやの声がし足を止めた。


「此処から行けるのか?」

「はい。目的地である2階に誰にも発見される事なく安全に到達しようとすると此処から行くのが安全です」

「……窓からとかじゃなくて?」

「窓があるように見えますか?」

「ないな……はぁ、つまりそういう事ね」


 俺は目の前にある窓一つない基地の壁を見上げる。そしてそこにはただ一つ、侵入口と呼べるもの、大型の通気口がある。

 かぐやは此処から目的地に行けと言うのだ。


 2階にある社長室へと。


「はぁ、窓一つない壁を登って2階にある通気口を行けなんて無茶な事を言う……まぁ、やってやれない事ではないけどーーなっ、と!」


 その場から飛び上がり通気口のある高さまで到達するとコンクリートの壁に右手で殴り突き刺すと体を固定し止まっているプロペラを破壊して中へ飛び込む。


 暗いダクトの中で体を伏せながらポケットから端末を取り出す。


「かぐや、通気口に侵入出来た。光と案内を頼む」


 端末の画面が光りダクト内を薄く照らす。

 一応隠密だから明るすぎたら困ったがこれなら丁度いい。AIだけあってその辺りの気配りは完璧という事だろうか。


 そう思って俺は案内の言葉を待っているとかぐやは突然ため息を吐く。


「はぁ」

「どうしたんだよ?ため息なんて?」

「いえ、ただ貴方の常識のなさに呆れていただけです」

「はい?俺の何処が常識がないって言うんだよ?」


 言うに事欠いて常識がないなんて随分と言ってくれる。これでも俺はアニマルハートでも常識人だと自負しているというのに。


「普通に考えて何処の世界に何の道具も助走もなく5メートル高さまで飛ぶ人間が居ますか?」

「え?此処にいるじゃん?」

「……そうですね。これから貴方の事は非常識人として認識します。この通路を真っ直ぐ進んでください」

「?」


 何でだろうか?かぐやの奴ものすごく呆れているような気がするんだが……まぁいいか、俺が常識人である事は変わらないんだし。


 かぐやの案内に従い俺は社長室に向かって匍匐前進をする。

 

 それから20分後……。


「部屋に人の反応はあるか?」

「いいえ、今は誰も居ないようです」

「了解」


 社長室の天井の板を外すとそこから俺は侵入する。

 するとそこにはかぐやの言葉通り誰も居ない。


「ふぅ、タバコ臭いけどかびやほこりの匂いに比べたら此処の匂いはいくらかましだな」

「有害なのはどちらも同じですがね……まぁ貴方には効果はないでしょうが」

「今最後何か言ったか?」

「いいえ、そんな事よりパソコンに私を接続したら貴方は紙で保管されている昨日の依頼書を探してください。私の予想でこのパソコンの置かれた机の引き出しの何処かにあるファイルにでも挟んであるでしょうから」

「了解」


 それから俺は端末をパソコンに接続するとかぐやはパソコンから情報の閲覧を開始し俺は地べたに座りかぐやの言った通りあったファイルに目を通す……するとどうか去年と今年の日付からきな臭い内容のものをチラホラ見かける。


 んー、見れば見るほどヤバそうな感じがする仕事ばっかりだ。自分達がこれをやらされてたと思うとゾッとする……特に昨日の仕事は極めつけみたいに思えるぞ。


『依頼人』

 匿名希望。

『依頼内容』

 ⚪︎月×日午後10時関西エリア旧滋賀県廃道1号線を通るトラックに積まれた積み荷の奪取。

 目撃者と護衛部隊とSS3機は皆殺しにし一切の証拠を残さない事、そして積み荷が収められているコンテナの中身は何があっても見てはいけない。

 見た場合は、身の安全の保証は出来ない。

 これは目撃者、護衛部隊を処理出来ず逃した場合も同義である。

『依頼成功報酬額』

 5億円。


「はぁ、愚か過ぎる」


 アルマの言う通りあの社長は金に目が眩み過ぎだな。こんなの少し考えたらヤバい裏がある依頼だと気づけただろうに……。


 そしてこの依頼主は元から俺達を殺す気しかないという事に。


「はぁ、本当に後の祭りだなアルマ」

 

 呆れ果てた俺はファイルを閉じて片付けると机の上のかぐやに話しかける。


「こっちの依頼書には敵の情報は殆ど書いてなかった。そっちの状況はどうだ?」

「今終わりました。欲しい情報は得られましたので此処から撤収しましょう」

「了解だ」


 やっぱりネットだと得られる情報の質が違うんだな……まぁ、情報が得られたなら来た甲斐はあったな。


 端末とパソコンの接続を解除すると俺は端末をポケットにしまい降りてきた天井に飛び上がり速やかに来た道を辿って戻る。


 その道中かぐやは相変わらずの抑揚のない声でこれだけ言っておかないといけないと思ったのだろうかはっきりと言ったのだ。


「今夜敵が来ます」

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