第12話 迫る時2
かぐやの言葉に俺は眉間に皺を寄せた。
「俺が子供?」
16歳になって殆ど大人と変わらない年齢だが、もしかしたらそれを知らないかぐやは外見の事を言っているのだろうか?
しかしかぐやは俺の思考でも読んだのか疑問を否定する。
「先に言います。私は別に貴方の容姿などで子供だと言っている訳ではありませんよ」
「だったら、なにをもって俺が子供だっていうんだよ!?」
端末を顔の前で構えて俺は自分でも驚くくらいに食い気味に問い掛けていた。
俺、なんでこんなに苛々してるんだ?
その事に数秒遅れて気がつき自分が何をやっているのだろうと思う中、かぐやは気にした様子もなく言葉を放つ。
「未知への恐怖で足がすくむ。これを子供だと言わずしてなんと言いますか?」
「それは……」
確かにそうかもしれない。
こうやって人……ではないが、人工知能に言われ自覚するのは複雑であるのだが……認めざる得ない。確かに今の俺は子供と同じだ。
ならそうだと分かった上で俺は聞きたい。
「……なら、俺はどうしたらいい?」
このやり場のない矛盾した気持ちを抱えて俺は一体どうしたらいいのだろう?
するとかぐやはそんな俺にーー。
「さぁ?」
「……はい?」
俺に何言ってんだこいつと言わんばかりに言い放った。
え、えぇー、この場面てなんかためになる事を言ってくれる流れじゃないの?
「さぁて、人に色々言っといてそれはちょっと……」
「だって必要ないでしょう?今さら私の言葉なんて」
「え?」
「貴方は昨日、あの社長室から出た後通路で声に出したじゃないですか。いつまで此処に居ないとダメなんだって」
確かに言った。
あまりにも不愉快で思わず言ってしまった胸の中で抱えていた言葉を。
しかしそれがなんだというのだろう?
「つまりそれが貴方の答え。貴方の本心はこの場所から逃げ出したいと思っている。なら私がそれに関してとやかく言う事はないでしょう」
「い、いや、そうかもしれないけど……」
それが出来ないから今もこうして苦しんでいる……。
確かにそれが俺の本心は逃げ出したいのだろう。しかしそうだったとしても俺のこの恐怖と不安を消し去りこの先どうしたらいいかの答えではないだろう。
だが、かぐやの考えは違った。
「人生とは恐怖や不安と常に隣り合わせなものです。その重みに押し潰されて動けなくなる者も星の数程いるでしょうーーしかしそれでもいいんです」
「それでも、いい?」
「えぇ、恐怖や不安を無理にどうにかする必要はないんです。必要なのは恐怖や不安を押しのける強さを持った第3の気持ちです」
「!」
それを聞いた瞬間俺の体中に電流が走る。
そしてずっと答えの入らなかった胸の空白に何かがすっぽりと収まった様な気がした。
それは間違いなくかぐやの言った。第3の気持ちだ。そして俺にとっての第3の気持ちなんて深く考える必要もなく常に近くにある。
俺は端末から目の前にあるボロボロのSSを見た。
するとどうだ。
俺の胸の鼓動が早くなるのが手に取るように分かる。
「はは、理性に対して本能は素直なものなんだな」
「それが人間という生き物ですよ」
どこか優しげな声を聞いて俺は酷く嬉しかった。
あぁ、そうか……俺は化物なんかじゃなくて人間だったんだな。
「……なぁ、かぐや、俺にも出来るかな?こんな人殺しで臆病者でSSが大好きな人間が此処から飛び出して行く事が」
これは最終確認だ。臆病な俺への最後の一押しのための。
まぁ、これでかぐやがなんと答えようともうどうするかを決めているのだがな。
「人間の可能性は無限大です。海を渡り空を飛び宇宙にすら手の届くこの星1の愚か者達なのですから」
はは、抑揚のない声で褒めてんのか貶してんのかよく分からん答えを言ってくれるな。
でも、それでいい。それで十分過ぎる。
「ならやってみようかな。本能に従う愚か者の人間らしくさ」
届かないSSに手を伸ばし拳を握りしめる。
第3の気持ちSSに乗りたいという子供の時から抱き続ける夢を再確認して。
〜〜〜〜〜
人目を避け牢屋に戻った俺は端末の前で土下座していた。
「ーーという訳でどうやって逃げよう!アドバイスください!」
「あれだけ格好つけといて清々しいヘタレっぷりですね」
おっとと、痛いとこを突くよな、このAI。
でも圧倒的に俺には知識が足りないしアルマ達にも迷惑かけたくないし、賢そうなかぐやに聞く他手がないんだよな。
するとかぐやはそんな俺の考えを察したのかため息を吐きつつアドバイスをくれた。
「はぁ、頭を上げてください……まず此処を脱出する前に幾つか確認しておかないといけない事があります」
「それは?」
「アルマという名の彼女が言ったアニマルハートを消し去る敵の事です」
「それは、確かに重要そうな事ではあるが逃げるんだったら気にする必要はなくないか?」
「ーーあります。大ありです」
楽観的な考えは愚かと言わんばかりに否定されてしまった。
そしてその声は少し怒っているように感じられるがおそらく気のせいではないだらう。こいつ自己主張強いし。
「いいですか。もし貴方がこの基地から逃げたとしても敵の目的が此処にいる者全ての抹殺なら快よく逃がしてくれる確証なんてないんですよ?」
「それは……確かにそうだな。はぁ、逃げると決めて少し浮かれてたみたいだ」
いかんいかん、俺とした事がなんとも生ぬるい考えをしていた……こう思え、今の状況は地雷地帯に立っているのと同じなんだと……。
目を閉じて強く念じ意識すると数分で高揚した気分が薄れ落ち着きを取り戻していった。そして目を開ける。
「よし、続けてくれ」
「では続けます。まず敵から身を守るために敵の情報を手に入れます」
「調べるにしても時間なんてほぼないだろう?何処にいるかも分からないし」
敵はこの辺りでは使っていない武装を使っていたというしまず間違いなく他所者の敵だろう。となると情報を得るには明らかに時間が足りないしはてさてどうしたものか。
するとかぐやは得意げに笑いだす。
「ふふふ」
「何が面白いんだ?」
「何も敵を見つけて情報を得る必要はありませんよ。此処に私が居て敵をその目で見たモノが居れば十分です」
「敵を見たって、まさか医務室に運ばれたヒューマン隊やドッグ隊の連中か?あいつら虫の息だから無理だろう?」
いや、待てよ。まさかこいつ、特殊な怪電波とか出して対象を催眠状態にして無理矢理聞き出したりして……。
アースで出来た謎の端末に謎のAIのかぐやだからもしかしてと思いつつあるなら見てみたい俺なのであった。
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