第11話 迫る時1
薄暗い空を朝焼けがゆっくりと浸食する中荒野をドッグ隊やバード隊の人間が血相を変えて走り叫んでいた。
「怪我人は直ぐに医務室に運べ!」
「SSに乗ってる奴はどうするんだよ!」
「馬鹿野郎!降ろすに決まってんだらうが!直ぐにコクピットハッチをこじ開けて出すんだよ!急げ!」
その様子を牢屋の扉の前で見ていた俺はいまいち状況が飲み込めずつい、かぐやに問いかけてしまった。
「なぁ、かぐや……これってどういう状況?」
「情報不足で推測に過ぎませんがおそらく、戦闘で敗北したのでしょう」
「敗北て、誰に?」
「敵勢力に決まっているでしょう?」
「それは、そうか……そうだよな……」
かぐやに改めて状況の解説をしてもらったからか寝ぼけた頭が回り始め思考がクリアになっていく。
敗北、敵勢力に……。
これから考えるとまさか昨日の仕事の相手にやられたのか?敵部隊もSSを持ってるって話だったがそこまで力の差がある相手だったのか?
SSを見るがどうにも遠目ではよく分からない俺は近づいて様子を確かめに行く。
慌ただしく走る者は俺の事には気づかず俺もわざと気づかれないように避けSSの前に辿り着くとその状態の異常に目を細める。
「これは、このダメージはなんだ?」
装甲のがへこんだり傷がつくのは使い続けてれば当然ではあるが今目の前にある装甲の具合はあまりにもおかしい。
装甲がでこぼこになってる。SS同士で殴り合って似たような状態になってるのは見た事があるがここまで細かく……いったい……。
「いったい、何を使われたんだ?」
突然の事に混乱していると後ろから俺の疑問に答える声がする。
「対SS専用弾だよ」
「アルマ」
俺の疑問に答えたはアルマは俺の横に立った。その服や顔は油で汚れている。きっとこの騒ぎに駆り出されて作業をしていたのだろう。
「いいのかよ、今大変だろう?」
「私の仕事はあらかた終わったからいいのよ……パイロットの生存者はなしだったから」
「……だろうな」
視線をアルマから念入りにボコボコになったSSのコクピットに向ける。すると血の匂いが漂ってくる。あれでパイロットが生きてるなら奇跡だ。
「それで、その対SS専用弾ていうのはなんなんだ?」
「言葉通りの意味よ。SSに対抗するために作られた弾……ただしその材料はアース。硬度は2ndに劣るものの弾にすれば致命打与えられるメジャーな弾よ」
「そんな物があるなんて聞いたこともないぞ?」
「当然よ。この辺りじゃあ大概人や戦車程度しか相手がいないしノーマル弾で済む。SSが相手でも殴って蹴ればよかったからね」
「言われてみれば確かに」
SS相手の戦いがあっても武器を使ってるとこはなんか殆ど見た事ない。武器を使ってても牽制か目眩し程度にしか使っておらず近接攻撃ばかりだ。
「なんでうちのSSには専用弾を使ってないんだ?メジャーなんだろう」
「単純な話よ。殴って倒せるなら弾なんて通常兵器相手のノーマルでいいって社長がケチったのよ」
「ああー……」
脳内に社長室で楽しそうに金を数える社長の姿が浮かびあがりさもありなんである。
「あの守銭奴の狸ジジィめ」
「はぁ、私やお爺ちゃんは一応何回か進言はしたんだけどね……こうなったらもう全て後の祭りよ」
「……どういう意味だ?」
大して変わった言葉ではなかった。
だが今のアルマの言葉には深い意味があるように感じられた。
俺の思い過ごしなら社長の怠慢を責めるものだがそうでないとしたら他にどんな意味があるのだろうか。
するとアルマは俺の目を数秒真っ直ぐ見た後、急に抱きつく。
「え?あるーー」
「数日もしないうちにアニマルハートは消される」
「は?」
それはあまりに唐突過ぎて意味が全く分からなかった。説明を求めようとしてもアルマはそれを遮るように続けて言う。
「社長は金に目が眩み過ぎた。依頼人の事も奪った物の事もよく知らずに……触れてはいけない物に触れてしまった」
「……」
アルマの言っている触れていけない物の意味はよく分からない……しかし、社長の目が眩んで事は理解できる。
そういえば社長、最近明らかにやばそうな仕事を額がいいからっという理由で受けていた。その度数十人以上の仲間が死んだというのに。
「よく聞いてアカリ、私とお爺ちゃんは今日の夜に此処から姿を消す」
「え」
「これは貴方が決める事だけど、まだ生きる意味、叶えたい夢があるなら逃げて」
「……」
それだけ言うとアルマは俺から離れ基地の方に向かって歩いて行ってしまった。
1人残された俺はアルマのよく分からない言葉の数々と突然の別れの宣言混乱する
そしてなにより何回も頭の中で彼女が言ったある言葉がループし混乱が解ける事はない。
「生きる意味に叶えたい夢があるなら逃げろ、か……俺の夢……」
ボロボロになったSSを、夢の姿を見る。
「叶えたい。けど……何処に逃げたらいいのか、分からねぇよ。どうやって生きていけばいいのかも分からねぇよ」
俺は子供の時から此処で、アニマルハートで人殺しとして育った。
此処から外に出ても仕事で敵を殺す事のみで何処に何があって誰が居るのかも分からない。
どうやって生きたらいいのかも分からない。
こんな所出て行きたいと願ったが実際にやろうと思うと不安と恐怖で頭がいっぱいになるのだ。
「誰か教えてくれよ……俺は、俺のこのどうしようもない感情はどうしたらいいんだ?」
気がつけば俺は誰にも聞かれたくない。心の中でしか思わない事を口に出していた。
幸い人はもう居ないが。
誰にも聞かれたくない。
しかし答えが欲しい。
直ぐにでもこんな所出て行きたい。
しかし怖くて逃げ出す事が出来ない。
そんな矛盾だらけの思いと行き場のない感情でどうにかなりそうになる
「貴方は見た目以上に子供なんですね」
何処からともなくではなく、右手に握る端末からかぐやはそう言った。
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