第122話
──ズゥンッ!
サツキの猛攻でロックワームは息絶え、その身を地面に横たえた。
サツキは刀を腰に収めつつ、大きく息をつきながら俺たちのもとに戻ってくる。
「ふぅっ……これで三体目か。……なあ、さすがにちょっと数多くねぇ?」
サツキのその率直な言葉は、おそらくは俺たち全員の想いを的確に表現していたのだと思う。
ミィとシリルも、その表情に徐々に緊張の色を濃くしてきているように見えた。
坑道の探索を続けていた俺たちは、すぐに別の一体のロックワームと出会い、これを撃退した。
だがそれからほどなくして、また別の一体と遭遇。
それをたった今、サツキが沈めたところだった。
「俺もサツキに同感だ。この短期間にこれだけ遭遇するのは、いくら何でもロックワームの大安売りが過ぎる」
「ねぇウィリアム、ロックワームって普通どのぐらい群棲するものなの?」
シリルが少し不安そうな顔で質問してくる。
俺は脳内に収めた知識を検索し、そこから答えを拾ってくる。
「俺が知る限り、ロックワームの群れの形成に関する研究を扱った論文はないが──一般論としては、ロックワームは単体、あるいは多くても二、三体が同一地点に棲息している程度のはずだ。……だが今回、この頻度で遭遇して、これで終わりとも思えん」
「ミィもそう思うです。──一度撤退するですか、ウィリアム?」
ミィが俺を見上げながら聞いてくる。
俺はその猫耳族の少女の頭に無意識に手を置こうとして──ギリギリでそのことに気付き、手を引っ込めた。
「……あ、ああ。俺もそれを考えていたところだ。クライアントに報告の必要もあるし、俺の魔素の残量もそろそろ心許ない。一度帰還したほうがいいだろうな」
「オッケー。ま、こんぐらい動けばあたしも満足だ。そろそろこの狭いところから出たいしな」
そう言って、んっと小さく伸びをするサツキ。
シリルのほうを見ると、彼女も同意するようにうなずいた。
「よし、では一度街に帰還しよう。……ん、どうしたミィ?」
俺が
だが彼女はふるふると首を横に振り、
「何でもないです。……ウィリアムはミィのこと、嫌いになったわけじゃないですよね?」
「ん……? あ、ああ、それはまあ、嫌いではないが」
「そうですか。ならいいです。気にしないでほしいです」
そう言ってミィは俺の横をとてとてと通り過ぎ、帰り道を先行して歩き始めた。
俺としてはよく意味が分からなかったのだが、気にするなと言われたので、ひとまずそうしておくことにした。
──そうして俺たちは、その日の坑道探索を終えた。
入り口の縦穴に掛けられた梯子を上って外に出ると、外界はまもなく山間に日が沈む頃合いで、よく晴れた空が紫と朱色にわずかに染まりはじめていた。
「うっしゃー、外ーっ! ──温泉、温泉♪」
井戸のような縦穴から飛び出したサツキは、小躍りするように街の人通りの多い方へとステップしていった。
ミィやシリルは、そのサツキの姿にあきれた様子を見せつつも、彼女のあとをついていく。
俺もそうした様子を微笑ましい気持ちで眺めながら、久々の外の空気を満喫したのだった。
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