第111話
オークの総大将を倒した。
集落で最も大きな巨木の下。
そこに再び現れた俺たちの周囲には、多数のオークが集まっていた。
オークエンペラーが異空間に呑み込まれる前に、集落じゅうのオークに集合をかけたためであろう。
ただオークたちは、突如現れた俺たちと、倒されたオークエンペラーや二体のオークロードなどの姿を見て明らかに狼狽していた。
連中にしてみれば、自分たちの中で圧倒的に最強の存在であったリーダーたちが倒されたのだ。
そしてそれを倒したのであろう人間たちはいずれも健在である。
いま連中には、俺たちがさぞやとてつもない力を持った怪物に見えていることだろう。
さて、ここで必要なのは、連中の士気を崩壊させることだ。
半ば以上まで統率の崩れたオークの軍団を、まったく統率のない多数の個としてバラバラに切り離しつつ、戦意を失わせること。
そのためにはあと一押し、恐怖と混乱を追加してやればいい。
そしてこういうときは、実質的な効果の大きさよりも、ハッタリ目的を交えた見た目の派手な呪文を使ってみせたほうが良い。
俺はそう考えて、呪文の詠唱を開始する。
するとその俺の行動を見て、取り囲んでいたオークたちのうちの一体、オークジェネラルと思しき個体が、何をしている、早くあいつらを殺せと、オーク語で周囲のオークたちに命じた。
だがその命令にも、オークたちは及び腰だった。
程度の差はあれ、どんな生き物でもたいてい死にたくはないものだ。
それはオークどもにしても同じで、圧倒的存在であったオークエンペラーやオークロードたちを倒した者たちを相手に、命を賭して立ち向かってこようとするオークはなかなか現れなかった。
相手を蹂躙できると見れば細かいリスクは考えずに向かってくる愚鈍なオークたちでも、圧倒的不利を感じながらわざわざ襲い掛かってこようとはしないのだ。
ただ実際のところ、その力関係の構図は向こうのオークが総出で掛かってくれば容易に崩れるのだが、いまのオークたちがそのイメージを持つことはできないだろうし、そうなるように仕組んだのは俺だ。
そして、そうこうしているうちに俺の
俺の杖の先から放たれた紅蓮のエネルギー球は、部下のオークの背を押して行け行けとけしかけているオークジェネラルへと直撃し、そこを中心に激しい爆炎を巻き起こした。
爆炎は中心となったオークジェネラルのほか、その周囲にいた十体近くのオークを巻き込んで炸裂し、その大部分を再起不能にした。
そしてさらに、それとはまったく関係なしに、取り巻きの後方にいたオークたちが悲鳴をあげる。
そこには取り巻きの外側から、通常の矢と
それはフィノーラが指揮するエルフの軍勢の攻撃に違いなかった。
そこまでの精度で示し合わせたわけではなかったが、結果としては完璧なタイミングだった。
それがオークたちの士気が瓦解する、最後の決め手となった。
この場にいては殺される、そう感じたオークたちは恐慌をきたし、我先にと散り散りに逃げ出したのだ。
こうなってしまえば、生き残ったオークジェネラルなどの上位種が何を指示しようが無意味だ。
人質を用いて牽制するなどの部隊統率を前提とした行動もまともに機能しなくなるし、上位種たちとてそんな小さな抵抗をしている暇があるならさっさと逃げ出すだろう。
そうしてオークたちが群れとしての統率を失って散り散りになってしまえば、あとはもう残党狩りだ。
実際のところはまだ、こちらの戦力とオークどもの総数はほぼ変わらないのだが、それでも統率を失ってしまえば「残党」であり、烏合の衆だ。
どたどたと逃げ出そうとするのろまなオークどもを、三人一組以上で動くエルフの戦士たちが一体ずつ確実に仕留めていった。
当然ながら俺たちもそれに協力し、五人全員でトータル二十を超える数のオークを狩った。
撃墜スコアはアイリーンが十、サツキが八、ミィが五で、援護に徹した俺とシリルはゼロだった。
しかし、「いや、これ半分はウィルが倒したようなもんだろ。援護ってレベルじゃねぇぞ」とのサツキの言にはアイリーンとミィはうんうんとうなずいていたし、「それに僕の傷を癒してくれたのはシリルさんだからね。それがなかったら僕は動けてなかったよね」とはアイリーンの意見だった。
そうして俺たちとエルフの戦士たちが数時間に及ぶ残党狩りを続けると、もはや集落の周囲に残っているオークは皆無となった。
俺も空を飛んで偵察をしたが見当たらなかったから、あとは狩り漏らしがあったとしてもせいぜいが数体程度だろう。
そして、やがて空に夕焼けが広がってきた頃。
空の偵察から帰還した俺の報告を聞くと、フィノーラは多数のエルフたちが集まっている場に、俺と仲間たちを呼んだ。
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