第19話
アンデッド退治のクエストの報酬額は、金貨二十五枚であった。
俺たちは仮受領していたそのクエストの受領を確定し、前金の金貨二枚と銀貨五枚を受け取ると、最低限の準備を整えてから、早速問題の村へと向かった。
ゾンビが大量発生しているというその村までは、街を出て、森を貫く街道を半日ほど歩いていけば到着する。
朝食後に出立したから、着くのは夕方か、あるいは日暮れ過ぎになるだろうか。
さて、そうしてしばらく街道を歩いていた俺たちだったが、
「そろそろ腹減ってきたな。どっかでメシにしようぜ」
「あそこの岩が、木陰になっていてちょうど良さそうです」
日が真上に来る頃に、ちょうどいい具合の腰かけ岩を見つけたので、そこで休憩して昼食をとることにした。
サツキ、俺、シリル、ミィの四人が横並びで岩に腰を掛け、思い思いの昼食を取り出す。
俺が荷物から取り出したのは、出掛ける前にパン屋で買ってきたサンドイッチである。
包みを開けると、野菜や肉など色とりどりの具材が挟まれたパンが切った断面を上にして収められていて、いい具合に食欲をそそる見栄えだった。
分量もまあまああり、これで銅貨五枚は、なかなかのコストパフォーマンスと言えるだろう。
俺はそのサンドイッチを一つ手に取り、それにかぶりつく。
案の定、うまい。
噛めばじゅわっと広がる肉の旨みと、瑞々しいシャキシャキの野菜、それにソースの甘みとが絡み合って、期待を裏切らない納得の味であった。
「──んでさ、そのゾンビってやつは、どんぐらい強いんだ?」
ふとサツキが、そんなことを口にしてから、俺と同じようにサンドイッチへとかぶりつく。
そして「うんめーっ!」などとうなりつつ、幸せそうに口をもぐもぐとさせる。
ちなみにこの娘、パン屋で俺がそれを買ったのを見て、同じものを購入したのである。
それを嬉しそうに俺に見せてきたのだから、他意はあるのだろう。
まあそれはさておき。
「通常のゾンビのモンスターランクはIだな。ゴブリンがHランクだから、格としてはゴブリンよりもワンランク下だ」
「……へ? ゴブリンより弱いの? なんだ、楽勝じゃん」
サツキはごくんとパンを飲み込んでから、そんな言葉を口にする。
ゾンビというモンスターは、平たく言うと「動く死体」である。
耐久力は高いが動きが鈍重で、知能は極めて低く、生者を見ると盲目的かつ闇雲に襲い掛かってくる。
さらにたいていのケースでは、武器も持っていない。
冷静に戦えるならば、武器を持った一般市民程度でも、そう大きな危険なく勝てるような相手であると言われている。
ただしそれには、当たり前の前提条件がある。
一対一、あるいはそれ以上の好条件で戦えるのであれば、という前提である。
ミィがサツキの楽観に対して、その点を指摘する。
「とはいえ数が問題です。もし村ひとつの住人が全部ゾンビになっているとしたら、百体を超えるゾンビがいてもおかしくないです」
「うげっ……そりゃウザいな……」
「それに弱いって言っても、数は脅威よ。もし凌ぎきれずに数の力で圧されてやつらに組み伏せられでもすれば、そのままのどを噛みちぎられておしまいでしょ」
「こ、怖いこと言うなよシリルぅ……」
ミィに続くシリルからの指摘もあり、調子に乗っていたサツキがどんどんしょぼくれていく。
ころころとテンションの変わるサツキの様子は、見ていて和むものがあるな。
「ま、少なくともゾンビの群れの中に、無策で飛び込むのは御免ね。意外と厄介な相手よ。それに──」
そう言ってシリルは、俺のほうに視線を送ってくる。
「アンデッド相手じゃ、魔術師お得意の
「……まあ、そうだな」
俺は素直にうなずく。
確かに、
が、そこはそれだ。
初学者レベルの魔術師ならいざ知らず、導師級以上の実力を持っていれば、幾分かの手の打ちようはある。
例えば、最もシンプルな話、
ゴブリンたちを相手にしたときには、隠密性が必要だったのと場合によっては洞窟崩落の危険性もあると思って使用は避けたのだが、今回は別段、家屋破壊を禁止されているわけでもなし、問題はないだろう。
それに、だ。
「アンデッド退治は、神官のシリルのほうが専門だろう」
「まあ、それはそうね」
神官は、神から特別に加護を授けられた者たちであると言われている。
その加護は一般に「奇跡」と呼ばれ、魔法に似た超常の現象を引き起こすことができる。
奇跡の行使には
神官が使う奇跡の最たるものは、癒しの術である。
負傷する機会の多い冒険者は、その性質ゆえに、神官を積極的にパーティに加えようとする。
また神官のほうも、どういうわけか冒険の過程で加護の力が増したという前例が多いため、修行の一環として冒険者を始める者が多いと聞く。
そしてもう一つ、癒しの術と並ぶ奇跡の代表例としてあげられるのが、アンデッド撃退のための奇跡である。
ゆえに神官は、アンデッド退治のスペシャリストと呼ばれることもある。
「でもそうは言ったって、実際に百体とかいう数がいたら、私一人じゃさばききれないわ。何らかの援護がほしいところね」
「わかった。援護という性質のものになるかどうかは分からんが、検討しておこう」
「なぁに、大丈夫だって。あたしもいるし、楽勝楽勝」
テンションを取り戻したサツキがそう言ってカラカラと笑うのを見て、俺とシリルがまた、同時にため息をついた。
「サツキは少し、二人の爪の垢を煎じて飲んだらいいと思うです」
ミィはそう毒を吐きつつ、水筒の水をこくこくと飲んでいた。
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