第124話

 翌朝二人は一旦岩場から山裾に降りると周囲を歩き始めた。山の南側に到達した二人は南から東側に向かって山裾を歩いていく。例によってダンは前を歩いて周囲を警戒し、デイブは山を見ながら進んでいく。


 森自体はこの最後の山の山裾から30メートル程離れたところで切れていて、そこから山裾まで赤茶けた地面になっている。二人を見つけたSSSクラスの魔獣が時折森から出て襲ってくるがそれらを一閃して倒しながら山裾を歩いていた二人。


 「この辺りから登れそうだ」


 野営をしたのが山の南側、山裾を3分の1程歩いて北東に移動したところでデイブが上を見ながらダンに言った。


 二人は山の北東側の斜面から登山を開始する。山はほどんど木が生えていなくて大きな岩が所々にありSSSクラスの魔獣が単体で徘徊している。


 それを倒しながらゆっくりと斜面を登っていく。登っていくにつれて魔獣の数が減ってきた。


 途中で休憩を挟みながら山を登っていった二人。



「あそこに洞窟の入り口の様な穴が見えているぞ」


 山の上を見ていたデイブが声を上げた。周囲を警戒してからダンも顔をあげると確かに山の中腹に洞窟の入り口の様にぽっかりと穴を開けている場所を見つける。


「行ってみよう」


 斜面を登って洞窟の入り口に着いた二人は入り口から中を覗いてみた。この辺りになるともう山の斜面に魔獣はいなくて安全地帯になっている。


 周囲を警戒してから中に入る。洞窟の中の暗さに目が慣れてくると洞窟が奥まで伸びているのが見えた。行き止まりかと思っていたがどうやら奥まで続いている様だ。顔を見合わせた二人はその中に入っていく。二人とも抜刀したままだ。


 中は広く二人は間隔をとって横並びになって洞窟を進んでいくと入り口から50メートル程進んだところで同時に足を止める二人。


「かなり強烈な気配だな」


「それも1つじゃないぞ。2つだ」


 デイブが言ったあとでダンも言った。


 暗い洞窟の奥から強烈な気配がしてきた。しばらくじっとしているがどうやら向こうからは仕掛けてこない様だ。気配に動きはない。ゆっくりとその場から下がっていき、気配が完全に消えたところで、


「近づいたら攻撃するタイプか?」


「かもな。それでどうする?」


 ダンは洞窟の入り口まで戻って外を見る。手前の斜面は土と岩だけで魔獣の姿は見えない。視線を上げると緑の森の先に自分達が越えてきた山々が二重になって連なって見えていた。その先は見えない。


 そうしてさらに視線を上げると陽は大きく傾いていた。


「ここで野営するか」

 

 上げていた顔を戻したダンが言った。


「そうだな。奥のも出てこないだろう。出てきたらその時はその時だ。ただテントは止めとくか」


 デイブの言葉にそうだなと言うダン。そして洞窟の入り口付近にある岩に座ると奥に体を向けた二人は早めの夕食を取る。食べれる時に食べる、休める時に休むのが鉄則だ。


 交代で食事を取ると通信タイムだ。デイブがオーブを取り出して魔力を注ぐ。


「今日は早いのね」


 オーブの向こうからミンの声がした。例によってこれからワッツの店に行くからこちらから連絡すると一旦切れたオーブは10分もしないうちに光出した。


「とりあえず最後の山の中腹についたところだ」


 デイブがオーブを持って外の風景を映す。そしてオーブを戻すとデイブが今日の活動について報告していく。向こうではミンがメモを取っている姿が写っていた。


「山の斜面に森と同じレベルの魔獣が生息しているということはランクSSSクラスだということだな」


「そうなる。それで今俺たちは山の中腹にある洞窟の入り口にいるんだけど、この奥にそれ以上のランクの魔獣がいる様だ。2体いる」


 デイブが言った言葉にびっくりする3人。そこにいて大丈夫なの?とレミーが聞いてきた。


「まだ気配だけだがそれが動かないんだよ。近づいたら攻撃してくるかも知れないが今のところは大丈夫そうだ」


「しかしそんな場所でよく野営する気になるわね」


 メモを取っていたミンが顔を上げて呆れた声で言った。


「いくら強くても動かなければ大丈夫だろう?」


 あっさりと答えるデイブ。


「デイブの言う通り。それとここは外から襲われる心配がない。片方だけ気をつけてりゃいいってのは楽さ」


 横からダンが言った。オーブの向こうからなるほどと言うワッツの声が聞こえてきた。


「明日はこの洞窟の奥にいる何かと戦闘になるだろう。その後洞窟がどこに繋がっているのか行けるところまで行くつもりだ」


 デイブがオーブに向かって言った。


「状況にもよるが無理ながらオーブを使わなくてもいいからな」


「わかった。まぁ連絡できたら連絡するよ」


 通信を終えたデイブからオーブを受け取ったダンはそれを魔法袋に収納すると岩場に腰掛けた。


「それでダンは奥にいる魔獣のアテはあるのかい?」


「全くないな。気配から感じたところSSSSクラス、ひょっとしたらその上のクラスだろう。まぁ相手がどんな奴でもやることは変わらないしな」


 落ち着いた口調でいうダン。普通ならSSS以上のクラスが奥にいるのが分かっていてここまで落ち着いてはいられない。引き返す話しが出てもおかしくない状況でダンは最初から明日の戦闘前提での話をしている。


 これはデイブも同じだ。ただデイブの場合はダンという規格外の相方がいるからそういう考えになっているとも言える。もしダンが引き返そうと言えばデイブはその意見を尊重するつもりだった。こと戦闘に関してはダンの方が自分より数段上だ。


 食事を終えて岩場に座って壁にもたれているダンを見ながらこいつは本物の戦士だ。しかもおそらくこの大陸で一番強い戦士だろうと確信していた。


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