第109話

 二人の報告が終わるとレミーがお茶のおかわりを持ってきてくれた。それを飲んでいる時に


「クリスタルの結晶体が無事アイテムボックスに変わった。いよいよ挑戦するのか?」


 ワッツが聞いてくると、


「とりあえず様子見というか中央部の山の入り口から最初の山くらいを探索してみようかと思っている。奥がどれくらい深いのかわからないし、最初の山の頂上に上がれば奥が見えると思うんだ。それで一旦帰ってくるつもり」


 デイブが言うとそれがいいだろうとワッツも同意する。


「途中に街が無い。1年くらいは平気でかかるという気持ちでしっかり準備しないとダメよ」


 そう言ってきたミンの方を向くと


「ミンの黒猫の店でしっかりと装備を揃えてから行くつもりだよ」


 とダンが言うとそうしてねとミンが笑って頷いた。


「俺達3人が冒険者だった頃は」


 そう言ってワッツが話しだした。その頃から中央部の山脈の奥には桃源郷、エル・ドラロがあると言われていたらしい。そしてランクAの冒険者達が腕試しと山に向かっていってはほとんどの冒険者はそのまま帰ってこなかった。


「帰ってきた奴も全身ボロボロだった。とても冒険者を続けられる様な身体じゃなかった。俺はそいつが冒険者を辞めてから話をしたことがある。奴は言ったよ、あの中央部には絶対に行くなってな」


 どうしてだ?とデイブが聞いた。


「山裾でランクSがうじゃうじゃといて登り始めるとすぐにそのランクSがリンクして襲いかかってきたらしい。そいつらは5人パーティだったが盾ジョブのナイトともう一人の戦士の奴はすぐに殺された。そうなるともうなし崩しだ。僧侶と精霊士も魔力切れでその場で座り込んだところを殺られたらしい。そいつは戦士だったが自分以外のメンバーが全員殺されたところで逃げようとしたらしいが追っかけてきてぼこぼこにされたと言っていた。片手がなくなり片足も膝から下がない状態で荒野で倒れているのをたまたまそこを通りかかった商人の馬車に拾ってもらって帰ってきたんだとな」


 そこで言葉を切るワッツ、ミンとレミーも知っている冒険者だったらしくその時のことを思い出して目頭を熱くさせていた。


「そいつらのパーティは正直ランクAでは中クラスの冒険者だった。実は俺達も行こうかという話をしていたんだがそいつが帰ってきてその話を聞いて結局パーティ内での話し合いの結果あそこに挑戦のを辞めたんだよ。」


 そこで一旦言葉を切ったワッツ。そうして二人を見て言った。


「ただお前さん達は違うぞ。ランクSでしかもランクSSSSクラスも倒せる力がある。正直当時の俺達よりもずっと力だ上だ。お前さん達ならランクSのリンクは何の問題もないだろう。ただその先の情報が全くない。どの位のレベルの魔獣が生息しているのかがわからない中での挑戦だ。いくらお前らが力があるとは言っても十分に準備をしてから行くといいだろう」


 ワッツの話が終わるとレミーが口を開いた。


「自分で言うのも何だけどね、当時私とワッツがいたパーティはヴェルスでは一番のパーティだと言われてたし私たちもその自負があった。でもワッツが聞いてきた話をパーティの中でした時に、ランクSのリンクが延々と続く中で自分達で勝てるかという話になったの。そして結局無理だろうという結論になって辞めたのよ。今ではその判断が正解だったと思ってる。あなた達はランクSのリンクも平気だしジョブ特性から体力と魔力切れになることもないでしょう。でも未知のエリアよ。生半可な気持ちで挑んだら大変な目にあうわよ」


 二人の話が終わるとしばらく誰も発言しなかった。沈黙が部屋を支配してしばらくしてからおもむろにダンが口を開いた。


「あそこがやばい場所だってのは聞いている。でもそこに強い敵がいるなら挑戦したいという気持ちの方が俺は強い。デイブとは話をしていないが俺自身はそこで死んでも構わないと思っているんだ」


「どうしてそこまでしてあの場所にこだわる?」


 ダンは聞いてきたワッツに顔を向けると


「他の場所じゃ俺達より強い魔獣がもういないからだよ」


 あっさりと言うダン。聞いていた周囲はいかにもダンらしいと思っていた。普段は無口でデイブの影に隠れている様に見えるがその戦闘能力の高さは既に多くの冒険者や関係者に知れ渡っている。


 常に格上との戦闘に勝利し続けているノワール・ルージュのその攻撃力の多くがダンの剣によるものだと知っていた。もちろん相棒のデイブがそれを一番わかっている。


 ダンの言葉に続いてデイブが言った。


「ダンの言う通りだ。誰も行ったことがないなら俺達が行ってやろうって感じだよ。未クリアダンジョンに挑戦していくのと同じかな。もちろん何が起こるかなんてわからないがそれはダンジョンにいても同じだ。安全地帯があるかないかもしらないがもしそこに安全地帯がないなら作れば良いだけの話だしな」


 こいつも戦う冒険者だったなとデイブの言葉を聞いてワッツは思った。こいつの素晴らしいところは自分の実力をしっかりと把握しダンが一番力を発揮できる環境を作ってやることだ。おそらくボス戦やNM戦ではダンのサポートに回っているんだろう。この二人は本当に良いコンビだ。


「そこまで覚悟してるのなら何も言わない。準備だけは怠るなよ」


「まぁすぐには山の奥まで行かないし、最初は様子見だからね」


 その後は雑談になり、遅くまでダンとデイブはワッツの店で時を過ごした。そうして久しぶりに自分達のアパートに戻った二人はしっかりと自分の部屋のベッドで疲れを取る。

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