第94話
オウルの城壁は以前と同じく高くて頑丈で、その門はぴったりと閉じられている。ただこちらからは見えなかったが見張りがいるんだろう。3人が近づくと通用者の横の小窓が開いた。
「おかえりなさい。今開けます」
そう言って小窓が閉じられるとすぐに通用者が開いて3人はオウルの街に入る。背後で扉が閉まって閂がかけられた音がした。
「相変わらず緑が多くて綺麗な街だ」
ウィーナに続いて歩いているデイブが声を出す。声には出さないがダンも同じ感想だ。そうして3人はこの前来た時と同じ様に通りに面している大きな2階建の屋敷の中に入っていった。
「久しぶりだな、デイブ、ダン。2人ともランクSになったらしいじゃないか。ウィーナの見立て通りだったと言うわけだ」
部屋に入るとゴードンとマッケインが正面の椅子に座っていた。勧められるままにその向かいに腰掛ける3人。
「以前より強者のオーラが強くなっているな」
ゴードンの隣に座っているマッケインが言う。
「以前からもそうだったけど今じゃこの2人より強い人間はこの大陸のどこを探してもいないだろうね」
ウィーナが言うとまさしくその通りだと頷くオウルの2人。
「さて、今日3人が来ることはレーゲンスのユーリーから事前に連絡が来ている。ただ今日はもう夕刻だ。その上長旅で疲れているだろう。今回この街に来た用件については明日の朝からここで改めて話をしたいが構わないかな?」
「急ぐ事もないだろうしこっちは問題ない」
デイブが言うとダンも大丈夫だと言う。そうして2人は建物を出ると前回宿泊した宿に案内された。ウィーナはその場に残った。
宿の1階にある食堂で夕食を取る2人。オウルの街の中にはレストランもあるが2人はここの住民を無用に刺激しない方が良いだろうと前回同様に目立たない様に宿から出ない様にしようと話していた。
2人が食事をしている頃建物の中ではゴードン、マッケイ、ウィーナ、それに鉱山を見ているヤコブと2名の錬金術師がテーブルを挟んで話し合っていた。テーブルの上にはデイブから預かった大きなクリスタルの結晶体が置かれている。
「これほどの結晶体は見たことがありません」
ウィーナの説明を聞き終えた錬金術師の1人が言った。
「それでこのクリスタルの結晶体から通信用のオーブの作成は可能か?」
ゴードンが聞くともちろんですと錬金術師二人が頷く。
「詳しい説明は省きますが、通信用のオーブの作成が難しいと言われているのはクリスタルの結晶体の中に入り込んでいる不純物を取り除く事が非常に難しいからです。クリスタルの中にある不純物が多いと短距離しか通信できなかったり酷いのになると作動すらしません。
その点このオーブは極めて純度が高い。オーブ作成の最大の問題を既にクリアしている状態ですからここからオーブを作ることはそう難しくないでしょう」
そう言うと今度は別の錬金術師が口を開いた。
「オーブは2個で1セットとします。普通のオーブならこことレーゲンスの距離で使用するならオーブの寿命はせいぜい2年ほどでしょう。ただこの極めて純度が高い結晶体を使うとオウルからレーゲンスの間という距離で計算しますと最低でも4年、うまく使えば5,6年は使用可能でしょう。そしてこの大きさです。低く見積もっても15セットのオーブを製作できる数量があります」
「つまり80年とか90年間分ということか」
ゴードンの言葉に頷く彼ら。
「オウルの街にある素材でオーブを作ることは問題ない。材料はある」
鉱山の責任者であるヤコブが言った。
その後錬金術師達が部屋を出たあとゴードン、マッケイン、ヤコブそしてウィーナの4人は夜遅くまで打ち合わせを続けた。
翌朝、宿で朝食を食べていた2人のもとに出迎えの女性がやってきた。
そのまま彼女について屋敷の中に入り、昨日と同じ部屋に案内されるとその部屋のテーブルの向こう側にゴードンはじめ4人が座っている。ウィーナも向こう側に座っていた。そしてテーブルの中央にはクリスタルの結晶体が置かれている。
ダンとデイブが座るとすぐに飲み物が置かれ、そして給仕をした女性が部屋から出て扉を閉める。
「昨日は休めたかな?」
「おかげさまで久しぶりにベッドでゆっくりと休むことができたよ」
ゴードンが二人を交互に見て聞いてきた。その言葉にデイブが答える。
「さて、早速だがこのクリスタルの結晶体をダンジョンの中で見つけてウィーナに持ち込んだということだがそのあたりの話をもう一度聞かせてもらえないだろうか」
分かったとデイブがいい、ダンジョンの隠し部屋から伸びている通路の先にいたNMを倒したらこれが出てきたこと。そして倒して隠し通路からダンジョンの通路に戻ると扉が閉まってその先で壁が崩れる音がしたこと。
その後ギルドには言わずにヴェルスの世話になっている元冒険者の夫婦に見せた時にこれがひょっとしたら通信用オーブの原料となるクリスタルの結晶体かもしれないと言われたが2人はこの夫婦以外の人にはこのことは誰も言わずにウィーナに鑑定をしてもらうべく持ちこんだなど時系列的に説明する。
黙ってデイブの話を聞いていたゴードン。
「商人に持ち込んだら相当な金額で買い取って貰えるとは考えなかったのかな?」
デイブが目の前にあるジュースを一口飲んでから口を開いた。
「通信用オーブの原料と聞いた俺達の頭の中に浮かんだのは商人ではなくウィーナだった。もちろんそれは彼女が鑑定能力に優れているというのも大きな理由ではあるが、それ以外に通信用のオーブが有って便利なのはこの街だと思ったんでね」
「俺達は大金持ちとは言わないが普段から余り金を使わないせいか2人ともそこそこは持っている。この塊を売るならばそれを本当に必要としている人に売った方がいいだろうと思ったのさ」
黙っていたダンが口を開くとその言葉に大きく頷く4人。
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