オウル

第93話

 翌朝いつものダンジョンに行くと言った体で街を出た2人。周囲に誰もいないのを確かめてから道から外れて西に歩き出す。そうして1時間ちょっと歩いた頃に目印になっている大きな岩の裏手に着いた。


 その場で1時間ほど待っていると地面のある部分が動いたかと思うとぱかっと開いて中から男が顔を出した。2人を見つけるとそのまま軽く頭を下げ、穴の下に向かって声をかけると男に続いてウィーナが地上に出てきた。


「待たせたかい?」


「大丈夫だ」


 そんなやりとりをしていると蓋を開けた男が失礼します、お気をつけてと言い、再び穴に潜って蓋を閉めた。ウィーナがその上から丁寧に土をかぶせる。


「さて行こうかね」


 土をきれいに被せて穴を見えなく様にしたウィーナが立ち上がると言った。


 相変わらずの手ぶらのウィーナの左前方にダン、右後方にデイブが立って3人で荒野をオウルに向かって歩き出した。


 レーゲンスからオウルまでは徒歩で約20日間の距離だ。その間には街はないので当然毎日野営になる。


 初日の野営の夜、ダンが周囲を見張っている中で食事をしているウィーナとデイブ。


「それにしてもオウルに行くよって言って理由も聞いてこないなんてね」


 と言った。一緒に食事をしていたデイブが


「クリスタル結晶体の件だろう?なんとなく推測はついたからな」


「なるほど。でどんな予想をしているんだい?」


 ウィーナが干し肉を口元に運んだままでデイブを見る。


「オウルとウィーナの店、あるいはスラムのユーリーの場所にオーブがあれば必要な物資の手配やミスリルの揃い具合なんかもすぐに分かる。クリスタル結晶体をオーブ用としてオウルの街として買い取りたいって話じゃないかとダンとは話をしていた」


「その通りだよ」


 デイブの言葉をあっさり認めるウィーナ。


「理由もまさしくデイブが言った通りさ。今まではオウルで何が要るかを予想して物資を手当てしていた。それでもなんとかなってはいるんだが急に入り用になる品物なんかはどうしても遅れがちになったりすることがあったんだよ。オーブで通信ができる様になれば本当に必要な物をすぐに届けられる様になるからね」


 ダンは周囲を警戒しながら2人のやりとりを聞いている。


「いくらで買い取ってくれるか。それが気になってるんじゃないのかい?」


 ウィーナがデイブを見て言った。デイブはいいやと言って顔を横に振ると


「まぁ高く買い取ってくれればいいけどなという程度だよ。ウィーナが一緒に行くってことはオウルの人に公平な鑑定結果を話すってことだ。1度しか会ってないけどオウルのゴードンや他のメンバーも悪い人じゃない。適正価格ってので話がつくんじゃないの?」


 そう言ったデイブがその適正価格ってのは俺たち冒険者にはわからないんだけどなと言うと交代しようぜとダンの方に顔を向けて立ち上がった。今度はダンが座って魔法袋から干し肉と水を取り出した。


「ダンもそれで構わないのかい?」


 ウィーナの言葉に頷くと、


「サムも装備品を安く売ってくれたりヴェルスでは知り合いの武器屋や防具屋からこれも以前から安価で売って貰ってる。それ以外で金を使うことが余りないから今でも結構貯まってるんだよ。それこの結晶体についてはそれが必要が人がオーブを作って持てば良い。俺達はヴェルスに家は借りてるが基本根無草の冒険者だ。オーブを作ることができる結晶体ならそれを必要とする人が使うのが一番良いよ」


 ダンがそう言うと周囲を警戒しているデイブがその通りだよなと声をだした。


 分かってたとは言え相変わらずだねとウィーナは2人の話を聞きながら思っていた。



 ウィーナは2人から預かったクリスタルの結晶体を何度も鑑定し品質と純度を確認した。そして間違いないと確信を得てからスラムに出向いていた。

 

 スラムのユーリーと話をした時には


「これほどのクリスタルの結晶体は見たことがないよ。しかも純度が高い。オーブを2つ作るとしてこの塊だけで7、80年分は有にあるね」


 と説明する。


「それほどなのか」


 ユーリーはテーブルに置かれている塊をじっと見ていた。そして視線を上げると、


「これがありゃ、オウルとこの街との連絡がずっと楽になる。彼らの欲しい物をすぐに手配できるぞ」


「その通り。そしてあの街で出る鉱産物の揃い具合もわかる。それに合わせて引き取りに行けるさね」

 

 ウィーナの言葉に大きく頷くユーリー。


「それでノワール・ルージュは幾らであんたに売るって話をしてるんだ? 相当高い買い物になるぜ、これは」


 ウィーナはそれについて自分の考えを話しする。もちろんその話のベースは2人から聞いていたアイテムボックス探しのことだ。


 ウィーナの話を聞き終えたユーリーはうーんと唸り声を上げた。


「確かにアイテムボックスくらいじゃないと釣り合いが取れないアイテムではあるな」


「下手すりゃアイテムボックス2個分の価値はあるね」


 ウィーナの鑑定スキルについては目の前に座っているユーリーはもちろんオウルの連中も100%認めている。


「ゴードンやマッケインがアイテムボックスとオーブのバランスをどう考えるかだな。釣り合いが取れるかどうか…」


 ユーリーが難しい顔をしながら呟く。


「いきなりこれをオウルに持ち込んでも彼らも戸惑うだけだろう。事前にあんたから手紙を書いて鳥便で送っておいてくれないかい?もちろんあの2人がオウルに行く時は私も同行するよ」


 ウィーナの言葉にしばらく考えていたユーリーはわかったと言い、


「俺個人的にはあんたの意見に賛成だ。オウルにあるアイテムボックスの1つとこのクリスタルの結晶体との交換は50/50以上にオウルにメリットがある話だろう。ゴードンに手紙を出そう」



 3人は毎日野営をしながら荒野を南西に進んでいった。途中でたまに出会うランクBクラスの魔獣を倒しながら道のない荒野を進んでいった19日後の昼過ぎというか夕刻前に3人の目の前に以前見たオウルの大きな城壁が見えてきた。


 

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