第70話

 作業員と冒険者の一行がテーブルマウンテンの鉱山区から城門に戻ってくると城門は開いていてそこには先日の白いローブの女性と同じ白いローブを着ている男性が立っていた。


「ありがとうございました」


 白いローブの女性、ミーシャが冒険者に礼を言った。作業員らはローブの男女に頭を下げながら城内に消えていった。


「作業が無事終了したと報告を受けております。今回は色々とありがとうございました」


「魔獣を討伐するのは俺達の仕事だ。そして穴を塞ぐ作業中に周囲を警戒するのも仕事の中に入っている。しっかりと塞いだから高ランクの魔獣もあの入り口を破壊して入ってくるのは難しいだろう」


 リッチモンド所属のケーシーが代表して話をする。他のメンバーは黙っていた。


「坑道で私たちが採掘をしている鉱産品を盗んだりしてないだろうな」


 ミーシャの隣に立っているポボフが声を出した。ケーシーはじめ冒険者全員の顔色が変わる。


「ポボフ!失礼でしょ」


 ミーシャが嗜めるが


「ふん、下賤の中でも下層の冒険者達だ。信用ならん」


「ポボフ!」


 ミーシャが再度、今度はさっきより大きな声を出した。


「あんた」


 ケーシーが一歩前に出てポボフを睨みつける。思わず一歩引き下がる男。ケーシーは男を睨みつけながら、


「疑ってるんなら全員の身体検査をすればいいだろう。ただし何も見つからなかった時には責任を取る覚悟があるんだな。俺達は冒険者という職業に誇りを持っている。その誇りを持っている職業を貶したあんたにしっかりと責任を取ってもらうぞ」


「せ、責任を取るって何を考えてる」


 冒険者の殺気に怯えたポボフが言うとケーシーは鞘から片手剣を取り出して


「あんたの首をもらう」


「な、何だと?」


 後退りながらかろうじて掠れた声をだすポボフ。


「あんたは俺達冒険者を侮辱したんだ。まるで犯罪者の様にな。俺達の中も誰かがもしあんたが言う通り鉱産品を黙ってくすねていたら俺達が首を刎ねられても文句は言えない。そして俺達の誰もがくすねてなかったらその責任を取るのはあんただ。まさか自分は好き勝手に人を見下した発言をしながら自分は一切責任を取ろうとしてないんじゃないだろうな」


 ケーシーの迫力でポボフの額には汗が浮き出ている。


「魔獣を討伐してくれと頼んできたのはこのテーブルマウンテンだ。俺達はリッチモンドのギルドから依頼を受けて今回の討伐にやってきている。人に物を頼みながらやってきた人間を下賤だ、下層だと言ったんだぞ。自分たちで処理できないから外部に頼んだのだろう?そうしてやってきて処理が終わるとその態度なのか?テーブルマウンテンに住んでる奴ってのは皆そういう考えをしてるのか?そうなら俺達はリッチモンドに戻ってありのままを報告するだけだ。おそらくリッチモンドは今後一切協力しないだろう。ひょっとしたら商人ももう来ないかもしれない。そこまで腹を括った発言なんだな?」


 ケーシーに続いてスピースがダメを押す様に言った。



「ポボフ、今すぐ冒険者に謝りなさい。非はこちらにあるぞ」


 睨み合っているとミーシャをポボフの背後から声が聞こた。同じ様に白いローブを着ている1人の老人が近づいてきた。


「ヒューズ様」


 ミーシャが声を出すと近づいてきたヒューズと呼ばれた男はミーシャとポボフの前に立って正面に立っている7人の冒険者に


「今回はこちらの無理なお願いに協力して頂いて深謝する」


 そう言って頭を下げた。背後のミーシャとポボフも慌てて同じ様に頭を下げる。そうして頭を上げたヒューズはケーシーを見て、


「うちのポボフが失礼な事を申したことについてはこのテーブルマウンテンの責任者である私から謝らせてもらう」


 そうして再び頭を下げたヒューズ。


「もう陽が暮れる。街の中に入って休まれるがよかろう」


 その言葉に今度はケーシーらがびっくりする。誰かがいいのか?と言った声が聞こえたが、


「街の中に入るのはこいつが謝罪してからだ」


 スピースが言った。7人の冒険者全員の目がポボフという男に注がれた。いや7人だけじゃないヒューズとミーシャもホボフをじっと見ていた。


「うっ」


 無言の迫力に圧倒されたポボフ。しばらく黙っていたが


「済まない。私が言いすぎた。謝罪する」


 と言った。


 そうしてヒューズを先頭にポボフ、ミーシャ、そして7名の冒険者が城門を潜って街の中に入っていった。


 街の中は他の街とは少し異なっていた。全て平屋なのだ。それと壁が白い。他の街にある様な木を使った家はなく石垣を積み重ねた上に白の塗装をしている様だ。


 家は比較的ゆったりとした間隔で並んでおり植木や芝生などの緑も多い。木々もそれなりに生えている。


 そんな中を歩いていく一行。市民は外から来た冒険者に視線を向けてくるが見ている限りでは侮蔑の視線ではない。彼らが魔獣を討伐したという事が住民の間にも広がっていたのだろう。


 しばらく通りを歩いて大きな平屋の建物に着くとヒューズを先頭に中に入っていく。


 会議室に案内された一行。大きなテーブルと椅子が置かれており7人はそれぞれ椅子に腰掛けた。テーブルの反対側にはヒューズ、ミーシャ、ポボフそしてもう1人白いローブを着ている男性が着席する。


「改めて今回の魔獣討伐についてこのテーブルマウンテンを代表してお礼を言わせてもらう。諸君らのおかげで大事に至らずに助かった」


 ヒューズが言い頭を下げると他の3人も同じ様に頭を下げた。暴言を吐いていたポボフも頭を下げている。このヒューズという老人は確かにテーブルマウンテンでNo.1の地位にある男だなとダンはヒューズを見ながら思っていた。


 謝罪が終わるとローブを着ている男性が部屋の扉を開けた、すると給仕の女性達が食事を持って部屋に入ってきて7名の冒険者の前に置いてから部屋を出ていった。


「昨夜は外で野営をしたと聞いておる。満足な食事を取ってなかっただろうからこちらで用意させて貰った。遠慮なく召し上がってくれ」


 ヒューズが言うと全員がお互いに顔を見合わせてから目の前の食事に手を伸ばした。


「今皆さんが食べておられる食事、そして我々の来ている服これらの殆どは街の外の商人達が持ち込んでくれたものだ。我々だけで衣食住全てを賄うことはできない。街の外の人達とも協力して我々は生活できておる」


 ヒューズが続ける。


「ただ時々この街の市民の中に勘違いする者がいるのも事実だ。自分たちが選ばれた人間だと信じ街の外に住んでいる人を下に見てしまう。何を隠そう私もその1人だ。いや1人だった」


 その言葉で顔をあげる冒険者達。


「さっき街の外でポボフと諸君らが言い合いをしているのを聞いて目が覚めた。諸君らの言う通りだ。我々はこの街に住んでいることを誇りに思うのは構わない。だがだからと言って自分の街や人と他の街や人を比較するのは間違っておる。どちらも同じでそこに何も差はない」


 そこで目の前にあるジュースを口に運ぶと隣に座っているミーシャに顔を向け、


「ここに座っておるミーシャ、彼女だけは以前からそういう考えをしておった。人は皆同じだとな。ただ彼女の様な考え方をする者はこの街では少数派だ、多くは自分達の方が優れておると信じておるのだ。魔獣も討伐できないし、その前に魔獣の事も何も知らないのにな。それに外の人の助けがないと服も買えない肉も手に入らない。自分に都合の悪いことは知らないフリをする者が多いんだよ」


 ポポフと呼ばれている男はヒューズが話をしている間ずっと下を向いていた。

 ヒューズはこの街の成り立ちについて話をはじめた。


 この街は以前荒野に住んでいて魔獣に襲われて家屋を無くした村人が危険な荒野をあてもなく彷徨っている時に見つけた場所だそうだ。魔獣から逃れたいという一心で村人達は当時はスロープもない中、山を登り荷物を上にあげてそしてこの広いテーブルマウンテンに住みはじめたらしい。


 そうして落ち着いてからスロープを作り、この場所に城壁を作って独立した街を作っていった。今のテーブルマウンテンの原型だ。


「今でもそうだがこのテーブルマウンテンのある場所は昔から木々が生えており緑が多かった。地上からは見えなかったがここまで上がってきた当時の人々はそれをみてここを住処にしようと街づくりをはじめた。その時に木々や緑を残し、農家から持ってきた食料の種や果樹の苗を植えていったんだよ。選ばれた民というのは最初この場所にきた移住者達がこの山頂の木々や緑を見て我々はここにくる運命だったんだというのが言い伝えで残っておりそれを私も含めて拡大解釈してきたということだ。恥ずかしい話だ」


「鉱山は?」


 スピースが聞いた。


「偶然だった。たまたまあの場所を歩いていた時に地表に周囲とは違う色の石があったらしい。そしてそれを商人に見せたらこれは高く売れるということを知ってそれから本格的にあの地区の開発をはじめた。それまでは商人が持ってくる商品と我々が育てた果実や食料との物々交換だったよ」


 ヒューズの言葉に頷く冒険者達。彼の話しが終わる頃にはダン達も食事を終えていた。


「もう日が暮れておる。この奥に部屋があるので今夜はそこで休んでもらおう。水浴びもできるので身体を綺麗にするといいだろう」

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