第63話

「リッチモンドでもダンジョンに潜る予定なんだろう?」


 スピースが聞いてきた。


「地上とダンジョンを交互にする感じかな。金策もしたいので地上で乱獲クエストを受けてそしてダンジョンでスキル上げをするつもりだ。あとはここからまたどこかの街に行ければそこにも行ってみて鍛錬ができればいいなと思っている」


 デイブがそう言ってからこの街の周辺でどこかいいダンジョンはあるかい?と周りに聞くとすぐに2つほど難易度が高いダンジョンがあるという。どちらもまだ未クリアらしい。ケーシーが、


「あんた達ならクリアするんじゃないか」


「だといいけどな。まぁクリアよりも鍛錬する方がメインなんだが」


 デイブがそう言うとダンもそっちが目的だなと言う。そして、


「ところでレイクフォレストって街がここから馬車で5日ほどのところにあるって聞いたんだが」


 と話題を変えるとすぐにケーシーが答える。


「あるよ。観光都市だ。ここから定期的に馬車が出ている。俺たちも何度も護衛をして行っている。綺麗な街だよ」


「あの街は本当に綺麗よ。湖の周囲に街があるの。緑も多いしね、何度でもいきたくなる街よ」


 狩人のキャシーと僧侶のジャニスも口を揃えて言う。デイブはなるほどと言って、


「あっちにはギルドはあるのかい?」


「あそこの街としてのギルドはない。ここリッチモンドの分室みたいなのがあって代行業務をしている。観光客と商人らの護衛クエストの受付がメイン業務だよ。あそこはこの街からも近いしな。わざわざ作る必要もない」


 ケーシーが答えるとスピースが続けた。


「レイクフォレストは一応は独立した都市国家なんだけど近くにダンジョンはない。そして周辺の魔獣もせいぜいランクBクラスまでだ。住民も2万人ほどでほとんどが観光客相手の商売をして生計を立てている。冒険者が活躍する場面は少ない。なのであの街所属の冒険者ってのはいなくてこの街からクエストとして何組かが交代であの街に長期で滞在して街の周辺の魔獣を倒している」


 聞いていると風光明媚な街の様だ。鍛錬目的のダンとデイブにとっては鍛錬になりそうな感じではない。2人でどうするかなと話をしていると


「息抜きで行ってみたら?戦闘はほとんどないだろうが景色はいいからリフレッシュできるぜ」


 スピースが言う。結局時間ができたら行ってみようとかという話をしていると精霊士のブロントが言った。


「ここリッチモンドから行ける街がまだあるぜ」


 顔を彼に向ける二人。


「テーブルマウンテンだ」


 ブロントがそう言うと場がなんとも言えない雰囲気になる。デイブとダンも同じ様な表情になった。


「知っているのか?」


「ラウンロイドで聞いた。選民思想の連中が住んでるという山の上にある街だろ?」


「その通りだ。天に一番近いところに住んでる選ばれた民だとかぬかしてる連中が住んでるいけすかない街だよ」


 心底嫌な表情をしてスピースが言う。


「山の上にある街の中には外から来た連中は入れないって聞いたが?」


「ああ。ただ山っていっても高い山じゃない。山裾から街まで九十九折りにスロープがあってそれを登り切ったところに街があるんだがその城門の前に広場があるんだよ。商人はそこに店を出して街の中から住民が買い物にやってきたり街で撮れる鉱産物を売ったりしてる。売りも買いも全部街の外だ。旅館もない。だから商人も俺達護衛も商売が終わるとそのまま山を降りて山裾で野営するんだよ」


 デイブの言葉にケーシーが答えた。


「よくまぁ商人もそんな苦労してその街に行くもんだな」


 ダンが言うとケーシーがダンを見る。


「その分がっつりと利益を乗せて売ってるんだろうよ。それにテーブルマウンテンで仕入れる鉱産物は他の街では高く売れるらしい。商人にしてみたら苦労した以上に儲かるから行ってるんだ。でなきゃ誰も行かないさ」


 その言葉に頷くダン。ケーシーが続けた。


「護衛した商人から聞いた話だがテーブルマウンテンの中では鉱山があるらしい。自分たちは山の上に住んでいるから地面を掘ったら鉱産物が出てくるんだと」


「となるとギルドもないし当然ダンジョンも無いってことになるな」


 デイブが言った。


「その通り。たまに護衛でいく俺達ですら気分が悪くなる街だ。護衛クエストの報酬がないと誰もいかないさ」


「住民も上から目線で言ってくるのよ。私たちに偉そうにしたって何も関係ないのにね」


 キャシーもその時のことを思い出したのか憤慨した表情だ。デイブは話を聞き終えると、


「1つは観光都市で強い敵はいない、もう1つは行くと胸糞が悪くなりそうな街だ。俺達はリッチモンドで鍛錬した方がずっとよさそうだな」


「それが一番だ」


 その後酒を飲みながら雑談をしてその日は宿に戻った二人。


 ダンが模擬戦でスピースの大剣を弾き飛ばしたというのはあっという間にここリッチモンドの冒険者の間に広まっていった。そしてここでも赤魔道士と暗黒剣士のコンビはノワール・ルージュと呼ばれ、その名前が浸透していく。


 酒場で飲んだ翌日はリッチモンド周辺で軽く体を動かした二人。夕刻にギルドに戻ってきて魔石を換金しつつ明日から挑戦するダンジョンの場所を聞いた。徒歩で3時間弱らしい。


「一応野営の準備をしていくか」


「そうしよう。いずれにしても上層から中層は一気に駆け抜けるんだろう?」


 ダンが言うと当然だろうという表情になるデイブ。


「となると明日は野営した方がいいかも知れないな。2日で行けるとこまで行こうぜ」


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