第38話

「どっから来たんだい?」


 声をかけてきたのは戦士風の男。背中に斧を背負っている。


「ヴェルスからだよ、昨日の夕方ここに着いたんだ。武者修行させてもらおうと思ってさ」


「なるほど。よかったらちょっと話していかないか?街道の様子やヴェルスの様子を色々と聞きたいんだよ」


「こっちもこの街の情報が聞きたかったからな」

 

 デイブがダンを見ると問題ないねといい2人で戦士の後について酒場にあるテーブルの1つに腰掛ける。そこには戦士の仲間と思われるパーティメンバーが座っていた。


盾   ノックス

戦士   トム

戦士   ハワード

僧侶   エマ

精霊士  リー


 この構成の5人組、ランクAのパーティだ。話かけてきたのはトム。


「俺はデイブ、赤魔道士。こっちがダン、暗黒剣士。ランクAの2人組だよ」


 いつもそうだが2人組と言うだけで相手がびっくりする。


「2人組でランクAかよ」


 ノックスが言うと隣に座っていたエマが、


「暗黒剣士ってほとんどいないはずよ。レーゲンスでも聞いたことがないもの」


「そうね。赤魔道士もそう多くないのに暗黒剣士はさらに少ないはず」


 エマに続いてリーが言う。


「ジョブを選択したときも非常に少ないって言ってたよ」


 ダンが2人に顔を向けて答える。そうしてまずはヴェルスからここまでの街道の様子について話をするデイブ。聞いていたトム、彼がこのパーティのリーダーらしい。


「レーゲンスからヴェルス、あるいはヴェルス経由でラウンロイド方面に行く商人は多い。もちろんここに来る商人の帰り道だけどな。そんな商人の護衛は大抵この街所属の冒険者だ。道中の事情については常に最新の情報が必要なんだよ」


 このパーティは”まとも”なパーティだなとデイブもダンも思っていた。まともなパーティならこちらもきちんと対応するのが筋だ。デイブが丁寧に道中の様子を話し、時折ダンが補足する。


 2人の話が終わるとトムはじめ他のメンバーもとりあえず大きく変わってない。一安心だなと言う。


 そうして今度はデイブがテーブルの上にギルドでもらった地図を広げて街周辺の様子やダンジョンについて質問する。


「街の周辺は森の奥までいくとランクAがいる。入口はランクBクラスだ。オーク系が多いがたまにウルフやベアもいる。まぁランクAなら問題なく倒せるけどな」


 戦士のハワードが言うと今度はノックスが地図を指先ながら教えてくれる。


「このダンジョンは俺達もクリアしてる。ボスがランクSなんでまぁ弱めだった。そしてここはクリアされていない。俺達も15層まで潜ってるがそこでランクSが複数体出てきているんだよ」


「このダンジョンは下層になると洞窟型じゃなくて広場になってるの。だからリンクしちゃうと次々と集まってくるのよ」


「そりゃ大変だ」


 リーの言葉に思わず声を出すダン。デイブもそりゃきついなと言っている。その後もダンジョンについて説明を受けて大凡の状況がわかった2人。地図から顔を上げてジュースを一口飲んだダンが何気なく、


「ところでレーゲンスより西や南や北にはもう街はないのかい?」


 そう言うと向かいに座っているメンバーが妙な顔つきになった。デイブも思わず何かあるのか?と聞くと、しばらくしてからリーダーのトムが、


「ここから北と西には街はない。そして南、実際には南西方向に20日程歩くとオウルという街があるんだ。山あいに挟まれた谷に街がある」


「ほぅ、街があるんだ」


「ある。ただな」


 そう言ってからまた言葉に詰まるトム。言おうか言うまいか悩んだ表情をしていると、僧侶のエマが、


「オウルは犯罪者の街と言われているの」


 その言葉でふっきれたのか後をトムが続けた。


「そう、今エマが言った通りだ。あの街は犯罪者の街と呼ばれている。この大陸で何らかの事情で人から追われていたり逃げてる人が集まってできた街だ」


 聞いていて刑務所の様なものなのか、いや刑務所は出ない様にする施設だ、オウルは自分の意思で街から出ず、逆に外からの侵入を警戒している。刑務所と逆だなとダンは聞きながら思っていた。


「最初にどこからか逃げてきた連中が追われる奴らから身を守るためにその場所に住み着いて砦を作った。それがだんだんと大きくなっていったらしい。人も増えてそうして街全体が堅牢な城壁になっていったんだと聞いている。山の渓谷という地形を利用して作っていて難攻不落の要塞都市とも言われている」


「行ったやつはいないのか?」


 トムの話を聞いたデイブが聞き返すと、


「あの街は言った様に犯罪者らが逃げ込む街だ、入ると出る必要がない、街として匿ってっくれるからな。そして街に入るには俺達が知らない裏の紹介状だか割符だか何だかが必要だって話だ。詳しい入城方法は俺達は知らない。誰でも入れるのなら殺し屋を送り込むことができるからな」


「どうやって生活してるんだろう?」


 つぶやいたダンを見るノックス。


「それが謎なんだよ。さっきトムが言ったがあの街の中に入って出てきたって奴を知らない。もちろんギルドもなければ商人も行かない。不気味なんだよ」


「幸というかオウルの連中は街の外に出るのを望まないって話だ。ここレーゲンスにいる分には安全さ」


 トムが締める様にいってこ話は終わった。

 

 ギルドを出た2人は一旦宿に戻ると昼食をとりながらギルドでの話を整理していた。


「いつもの3勤1休でスタートするか。ダンジョンもそう遠くない場所にある。2日を地上のクエスト、1日をダンジョンにして翌日は休養日」


「いいんじゃないか。様子見ながら地上とダンジョンの比率を変えてもいいしな」


 そうして方針が決まった後はオウルの話になる。


「テーブルマウンテンといい、オウルといいこの大陸にはいろんな街があるんだな」


「本当だよな。まぁギルドがないということで俺達には関係がない街なんだろうけど」


 ダンの言葉にデイブが言うが、その後に


「いつか機会がありゃその2つの街を見てみたい気もする」


 と続けて言ってダンを見る。


「俺もだ」

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