第29話

 2人は礼を言って店を出と市内のレストランで夕食をとりながら今しがたのワッツの店でのやりとりを話していた。


「ワッツの言う通りだ。鍛錬は続けよう。生活スタイルは変えない。これでいいな?」


 デイブの言葉に頷くダン。


「これからの方針だがまずは今のダンジョンを攻略したい。少なくとも14層まではな。ボスについてはまだわからないが14層のランクSの3体、4体リンクが問題なく倒せる様になったら今度はレーゲンスに行って見ようと思う。ここから60日の道のりだ。そしてレーゲンスでまた鍛錬をする」


「いいんじゃないか。今の俺達じゃまだまだ長い移動は安心できない。2人組だしな。だからデイブの言う通りでランクSの少々のリンクにも対応できる様になった時点で次の街に行くことを考えよう」


「OKだ。とりあえず明日はダンジョンに挑戦しようぜ。新しい片手剣を試してみたいからな」


 そうして翌日ダンジョンの13層に飛んだ2人はいつもの階段下の場所で近くで湧くランクSを相手に鍛錬を開始した。


「すごい剣だ。切れ味、威力が全く違うぞ」


 あっという間にランクSを倒したダンがその場で声を出す。そしてダンと交代したデイブもランクSを討伐すると


「俺が想像していたよりもずっと凄い剣だ。ダン、これならいけるぞ」


「ああ。魔法も全く威力が落ちていないな。ワッツが言った通りだ」


 2人はその後もしばらくは同じ場所で近くに湧くランクSの魔獣のさまざまなジョブを相手に鍛錬をし、現れる敵の全てのジョブを普通に倒すことができたのを確認すると13層の攻略を開始した。


「次2体だ。左は任せた。右は俺がやる」


 13層のフロアの通路、前を歩くダンが敵を見つけると声を出す。背後のデイブは答える代わりに任された左の魔獣に精霊魔法を撃ってそれぞれが戦闘を開始した。


 フロアを攻略しながら出会うランクSの単体、2体を次々と倒して攻略していく2人。そうして14層に降りていく階段を見つけて階段の途中にある石板にカードをかざして記録する。


「武器を変えただけでここまで楽になるんだな」


 階段に座ってデイブが言う。


「確かに。でも最初は新しい剣に頼りすぎていた。途中から二刀流の訓練を思い出して左手の剣もきちんと使い出してからは戦闘がグッと楽になったよ」


 冷静なダンの言葉にデイブも


「その通りだよな、最初は右手のこの新しい剣の威力が凄すぎたのでそっちで片付けようとしていた。これは反省点だな」


 と振り返る。そして階段の先のフロアを見ながら


「14層はリンク数も多いらしい、気を抜かずにやろうぜ」


 この日は14層の降りたところで近くを徘徊しているランクS3体を相手に鍛錬をした2人。最初は苦労していたが慣れてくると3体のリンクにも2人で対応ができる様になってきた。近づく前にデイブが魔法を撃ちそしてもう1体にもダンが魔法を撃つ。2体をダン、1体をデイブが引き受けて対処する。ダンは左手の剣で1体の攻撃を受け止めながら右手の剣でもう1体に攻撃をする。新しい剣はランクSでも3回剣を振れば倒せる威力があり、目にも止まらぬ速さでランクSに3回剣を振って倒すと左手で受け止めているもう1体にも片手剣で切りかかっていった。


「ダン、また剣の切れ味が上がったんじゃないか?」


 3体を倒して階段に戻って休息をとりながらデイブが言う。


「スキルなのか剣のせいなのかはわからないけど、自分でも動きが上がってきているのはわかるんだ。切った時の体力の戻りもまた増えてるみたいだ」


「となるとまた戦闘がやりやすくなるな」


 デイブは前で戦闘をするダンを背後から見ることが多いがそのダンの剣術の伸びに心底驚いていた。しっかりと基礎から訓練しているダンがその訓練を続けてそして格上と戦闘をするたびにその腕が上達しているのを見ていた。


 そしてデイブ当人は気づいていなかったがデイブもまた一段と伸びていた。元々持っていた才能がダンという相棒の戦闘能力の影響を受けて鍛錬に励んだ結果相乗効果となって戦闘能力が急上昇していたのだ。


「デイブの剣も魔法も相当な威力だぜ。おかげでこっちは随分助かってる」


「俺は剣じゃダンに勝てないが魔法じゃ負けないからな」


「ああ。魔法じゃデイブに勝てない。お互いに足りないところを補完しあってる。いい感じだよ」


「その通りだ」


 その後も2人は地味な鍛錬をダンジョンで続けながら地上でランクAの乱獲クエストを消化して金策も同時に勧めていた。14層で何度も何度も複数体で出てくるランクSを討伐していく。最初の頃に比べて討伐時間は短くなっていたが2人はまだボス戦には早いと思っていた。このフロアをさっくりとクリアできるくらいにならないと無理だろうと。


 ランクAに昇格すると乱獲で得られる報酬も増え金の貯まり具合も以前よりもずっと早くなっている。クエストをこなして金策を続けていた2人は休みにしている今日、レミーの防具屋に顔を出した。



「こんにちは」


 デイブが店の奥に声をかけると


「あら、いらっしゃい」


 奥からレミーが顔を出した。


「ある程度お金も貯まったんで防具で良いのがあればと思って見にきたんだけど、お勧めはあるかな?」


 レミーはワッツから2人が良い片手剣を手に入れたと知っていたのでその内にこの店に来るだろうと予想していて2人の新しい装備を準備していた。


「あるわよ、ちょっと待ってね」


 そう言って奥から新しいローブとズボンを持ってきた。赤と黒のローブとズボンだ。


「今着ている防具よりも全ての数値が上よ、体力、魔力、素早さ。このローブとズボンのセットで効果がさらに上がるの」


「そりゃ凄いな」


「戦闘がまた楽になる」


 防具を見ながら話をする2人。その様子を見ながら


「2人ともランクAになったんでしょ?私からもお祝いをしてあげるわ。そのローブとズボンでこの値段でいいわよ」


 そう言ってレミーが提示してきた価格は2人が予想していた価格の半分程度だった。


「本当にその金額でいいのかい?」


 びっくりするデイブにもちろんよと言うレミー。


「ワッツも私も貴方達には期待してるのよ。2人とももっと強くなれるわ。自分たちでスキルを磨くのは当然だけど装備系も良いのは必要よ。2人が強くなる為に私たちも応援しているんだから遠慮しないでいいわよ」


 2人は礼を言って防具の代金を払うとその場で新しいズボンとローブに着替える。ローブも見た目も綺麗になっていてそして軽い。


「動きやすそうだ」


「確かに。ローブも軽いし身体も軽くなってる気がする」


 新しい防具を身につけたデイブとダンが口々にいう。その姿を見ながら


「普通の冒険者は武器や防具がよくなるとそれに頼り切ってしまってそこからスキルが上がらないの。でも貴方達は大丈夫でしょう。良い防具と武器を持っても鍛錬はしっかりと続けてくれそうだもの。だから私も良いものを勧められるの」


「なるほど、ありがとう」


「ワッツとレミーの期待に添えられる様に頑張るよ」


「本当よ、期待してるんだからね。また何かあったらいつでもいらっしゃい」

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