第27話

 翌日の朝、ギルドの掲示板に新しくランクAに昇格したデイブとダンの名前が張り出されると朝のギルドがざわざわとする。


「あの2人組がランクAか。護衛クエストほとんどしてなかっただろう」


「聞いた話だとランクAやSを狩まくってポイントを貯めたらしい」


「おいおい、そりゃいくら何でも話を盛りすぎだろ?ランクBでどうやってランクSを倒せるんだよ」


「じゃあどうやってポイントを貯めたんだよ?」


「知るかよ。俺達の知らないところで知り合いの商人の護衛クエストを受けまくってたんじゃないの?」


 好き勝手に言う冒険者達。デイブとダンはこの街所属なので彼らが2人で組んで活動していることは知っている奴らが多い。ただまさかこう早くにランクAに昇格すると思っていたのは少なかった様だ。


 その少なかった中の1人、ランクAのミゲルはパーティメンバーがギルドに出向いた時に2人がランクAに昇格したという通知を見たという話をパーティの根城にしている一軒家で聞いた。


「ワッツがイチ押ししている2人がいよいよ頭角を現してきたか」


 パーティの住居になっている一軒家のリビングで言うと同じくリビングにいた盾のスミスも


「ワッツもレミーもあの2人はベタ褒めだ。これからはこの街のギルドでも注目を集めるだろう」


「いや、この街以外でも有名になるかもしれないぜ」


「確かにな」




 デイブとダンは朝の鍛錬を終えてギルドに顔を出した。そこにいた冒険者達がギルドに入ってきた2人を見る。


「ランクAになったんだな」


「2人でだろ?どうやってポイント貯めたんだよ?」


 聞かれたデイブが格上を相手に鍛錬してた結果だよと言うとギルドの中でその話を聞いていた冒険者の1人が


「おいおい、嘘も大概にしろよ。俺と同じランクBでランクSなんて倒せる訳がないだろう?どうやって誤魔化してたんだよ」


 と声をあげて近づいてきた。ダンもデイブも知っているこの街所属のランクBの冒険者のジェイだ。一気にギルド内がが剣呑な雰囲気になる。とは言うものの当人のデイブとダンは全く表情を変えず、


「嘘ついても仕方ないだろう?それに嘘だって証拠はあるのかい?」


「そんなもん、ランクBがランクSを倒してる。それも2人で倒してるって言う時点で嘘八百なのは丸わかりだろう」


 こいつは相手の実力を見極める事もできない、いやしようとすらしない奴なんだとダンはデイブとジェイのやりとりを聞いていた。冒険者によくあるタイプだ。自分の物差しでしか物事を判断できない。


「文句があるならギルドに言ってくれよ。俺たちに言うのはお門違いだぜ」


 デイブがそう言うとギルドにいた他の奴から


「そんなに信じられないんなら模擬戦でもやったみたら?」


 と声が飛びそりゃいいなとジェイがニヤリとして


「ランクAのお二人にご指導を賜ってもいいでしょうかね」


 と卑屈な表情で聞いてきた。

 デイブはどうするとダンを見ると、


「相手はジェイって事でいいのかい?」


 ダンの言葉にジェイが頷くと、じゃあ俺が相手をしようと言う。その言葉でギルドにいた冒険者達が沸き立ちそのままギルドの鍛錬場に向かって移動していく。2人は並んで鍛錬場に向かって歩きながら、


「ダン、こういうのは最初が肝心だ。死なない程度に叩きのめせ」


「言われるまでもないな。もとよりそのつもりだよ」


 そうして鍛錬場に降りるとジェイは大きな斧の模擬刀を手にする。体格を生かして人が持てない程の大きな斧を持って振り回すのがジェイの戦法だ。

 

 一方ダンは片手剣の模擬刀を2本手に取る。そうして準備運動をしていると、


「俺が審判をしよう」


 とギルマスのプリンストンが鍛錬場にやってきた。ギルドでのやり取りを聞いていた職員がギルマスに報告した様だ。


「なるほど。ギルマスが立ち合いなら問題はないな。俺がこいつをぶちのめしたらランクAにしてくれるかい?」


「いいだろう。例外として認めてやろう」


 まさかギルマスがそう言うとは思ってなかったジェイ。聞いたぞ、取り消しは無しだぞとギルマスに確認を取っている。



 一方模擬戦をやると聞いて鍛錬場に集まってきた冒険者の中にはランクAの冒険者もいた。彼らは純粋に新しくランクAに昇格した2人、と言っても今回はダンだけだが、の腕前を見るつもりだったがギルマスとジェイとのやり取りを聞いて表情を変える。


「おい、ギルマスがあそこまで言うってことは」


「ああ。あのダンって暗黒剣士が相当できるって知っているってってことだな」


「ジェイの奴、おそらく何も出来ずに一方的にボコボコにされるだろう」


 そう言ったのはミゲルだ。


「ミゲルは知ってるのか?あのダンの実力を」


 話をしていたこの街所属でミゲルと同じランクAのスラッドがミゲルに顔を向ける。


「いや、実際に見るのはこれが初めてだ。ただランクBで2人でランクSの魔獣を倒しているのは本当だ。そしてワッツがあいつら2人をベタ褒めしてるんだよ」


「あのワッツがかよ」


 スラッドの言葉に頷くミゲル。



 そうしてギルマスの立ち合いで模擬戦が始まった。

 と思ったらあっという間に終わった。


 ジェイが斧を振り回しながらダンに向かってきたのを軽く交わしながら両手に持っていた片手剣を瞬時に腹、背中、腹、そして首の後ろに叩きつけたのだ。


 すれ違ったと思ったらそのまま正面から地面に落ちて全身を痙攣させるジェイ。


 周囲で見ていた冒険者達は言葉もでない。しばらくして


「こりゃ想像以上だぜ」


 スラッドがあっという間に終わった模擬戦、涼しい顔をして立っているダンを見ながら声を絞り出すとミゲルも視線をダンに向けたままで、


「ああ。俺もあんたと同じ意見だ。想像以上なんてもんじゃない。俺にはダンの剣の動きが全部見られなかった」


「お前もかよ。2回、いや3回か?」


「最初の腹と最後の首の後ろだけはかろうじて見えた。背中にも打ち込んだかもしれんが」


「4回打ち込んでる」


 その声に振り返るミゲルとスラッド。そこには武器屋のワッツがレミーと一緒に立っていた。


「すれ違い様に腹、背中、腹、そして最後に首の後ろだ」


「ワッツさん」


 ミゲルがびっくりして言うとミゲルに頷き、


「ギルマスのプリンストンに話があってこいつとギルドに顔を出したらダンが模擬戦をするってんで見にきたんだよ」


「彼の剣、また一段と早く、鋭くなってるわね」


 隣でレミーも言う。


「あの短時間で4回打ち込んでるのか」


 ミゲルが言う。


「ダンはそれくらいは普通にできる。デイブもあいつが相手なら3回は打ち込めるだろう。しかもダンは今のは本気じゃないぞ、流してる」


「流してる?それであれかよ?」

 

 誰かが声を出した。


「デイブよりダンが上ってことなんです?」


 スラッドが敬語になってワッツを見る。ワッツは鍛錬場にいるダンとデイブに顔を向けたまま、


「デイブは赤魔道士でダンは暗黒剣士。剣を持たせるとダンの方が上だな。ただ魔法になるとデイブの方が威力がある」


 いつの間にかワッツとレミーの周囲には模擬戦を見ていた冒険者達が集まってきていた。そしてミゲルやスラッドとのやりとりを聞いている。そしてミゲルが言った。


「ランクAになったばかりのレベルじゃないな」


「その通り、奴らにランクは関係ない。2人組で格上と平気で戦闘をする奴らだ。ランクAに成り立てだとか2人だからと思って下手にちょっかい出すとあの大男の様に酷い目に会うぞ」


 そう言ってワッツとレミーは鍛錬場を後にしていった。

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