第25話

 翌日からヴェルスで活動を再開した2人。例によって3勤1休のローテーションで3勤のうち2勤はフィールドでクエストをこなして乱獲、1勤は近くのダンジョンに潜って鍛錬をする。


 幸にヴェルスから徒歩で2時間ちょっと歩いたところにあるダンジョンが下層でランクSが出てくるという情報を入手した2人は11層までクリアをして12層の階段を降りたところでランクS単体を相手に鍛錬をしていた。


 このダンジョンは15層のダンジョンで随分と長い間クリアされていないらしい。ギルドの情報では14層がかなり厄介で暗い通路の様な中でランクSが最低でも3体は固まっているらしい。


 ちなみに前回ここをクリアしているのはワッツらのパーティでそれ以来クリアしたパーティはいないそうだ。



「あのダンジョンか。今何層にいるんだ?」


「12層降りたところでランクS単体を相手に鍛錬中」


 ワッツの店に顔を出して武器を研いでもらった後で雑談をしている2人。


「ランクS単体を倒すのに苦労はしてるのか?」


 その言葉に頷く2人。


「楽じゃないよ。以前よりは早く倒せる様にはなっているけどそれでもまだ時間がかかっている。リンクしたらどうだろう、2体がせいぜいかなってところだよ」


 デイブが答えると隣からダンも。


「一瞬たりとも気が抜けない。それはいいとしてこっちの攻撃力がまだまだ足りない気がしてる。剣も魔法もあと1段、いや2段ほど上がらないとフロアを攻略する気にはなれないよ。やっぱりランクSは別格の強さだ」


 2人の話を聞いたワッツは


「ダンジョンでの鍛錬はもちろん必要だ。それ以外に剣や防具、そして装備品の見直しもした方が良いぞ」


「ワッツから買ったこの剣もそろそろグレードアップしないといけないってことかい?」


「そうだな。その剣はランクAでも持ってる奴はいるが今のお前達ならもうワンランク上の剣がいいだろう」


 そう言ってから奥から2本の剣を持ってきた。


「左手に持ってるミスリスはしばらくそのままでいいがメインの剣、これが今使っている剣より1ランク上になる」


 剣を見た2人はその柄の部分についている値札を見てびっくりする。


「高いな」「今の剣の何倍の値段だ?これ」


 異口同音に口にした2人にワッツはニヤリとして2人の顔を見て、


「金策するんだな」



 その日の夜、ワッツは自宅でレミーが作ってくれた食事をとりながら今日の昼間のダンとデイブの話をする。昼間の店での出来事をレミーに言ってから、


「俺達が冒険者だった時、ソロでランクSを確実に倒せたと思うか?」


 ワッツの問いにレミーは顔を上げてワッツを見ると、


「私は無理ね。遠隔で倒せなかったら終わりだもの。貴方も相手が魔法使いや狩人タイプだったら簡単じゃないでしょう?」


「その通りだ。俺達は強かったがそれでもランクSをソロでとなると敵のジョブを選ぶ。だがな、あいつらは相手がどのジョブでも対応できる。2人で2体のリンクまでなら倒せると言い切っていたがあれは嘘じゃないだろう。逆に言うと3体以上は今は無理だとわかってる。自分たちの実力をきちんと把握している。大した奴らだよ」


「でもその様子ならそのうち3体、そして4体のリンクにも対応できそうね」


 そう言ってから


「どうしてその剣を安く売ってあげなかったの?」


 と重ねて聞いてくるレミー。


「まだだ。あの2人はまだまだ伸びる。だがその伸び方がまだ俺にも見えないんだ。そこらの見極めができたら奴らには安く売るつもりだ」


「それが見えた時にはあの2人は相当強くなってるかもよ?」


 ワッツはそう言ったレミーを見て


「お前さんもわかってるだろう?二刀流をわずか半年で完璧にモノにできる奴なんていないってこと。普通なら早くても1年半、下手すりゃその倍かけてもモノにできない奴もいる。俺も1年近くはかかるだろうと思っていたがいざ教えてみたら半年で完全にモノにしやがった。つまり俺達の感覚じゃ計り知れない伸びしろを持っているってことだ。この伸びしろを俺なりに見極めたい。それが俺の予想以上だったときは今日の剣のさらに1ランクか2ランク上の剣を安く売ってやるつもりだ」


 その言葉に続けて、


「特にダン。暗黒剣士のあいつがどこまで高みに上がっていくか見てみたいのさ」


 レミーは夫のワッツがここまであの2人にのめり込んでいる様に熱く語るのを暖かい目で見ながら聞いていた。自分たちが届きそうで届かなかったランクS、ワッツはその思いをあの2人に託しているのがわかったからだ。


 あの2人はランクS、いやひょっとするとそれすら突き抜けるかもしれないわね。

 レミーは2人のことを語っているワッツを見ながらそう思っていた。


「ところでさ、それだけランクSを倒していたら護衛クエストしなくても相当ギルドポイントが貯まってそうだよね」


 ワッツの話がひと段落したところでレミーが言うと大きく頷くワッツ。


「その通りだ。ランクBでランクSを倒しているとなるとかなりのポイント数だろう。今まで2ランク上の魔獣を倒しまくっている奴らなんていなかっただろうしな」


 ランクを上げるギルドポイントはランクが上がる程次のランクに上がるポイント数が増大する。具体的なポイント数やそのカウント方法についてはギルドは一切公開していないが今までの多くの冒険者の実績からある程度は予想がついていた。


 その中でもランクBからランクAへの必要ポイントについてはランクCからランクBに上がるポイントの合計の10倍ではきかないだろうというのが通説になっている。そしてランクAからランクSに上がるポイントについては実績がないので全く想像もつかないがランクSに一番近いと言われていたワッツのパーティですら届かなかったことからランクAに上がるときの数十倍じゃないかという者までいた。


 そしてギルドポイントの貯まりやすさの筆頭のクエストが護衛クエストだというのも一般に広がっていた。護衛クエストでは護衛の距離、期間によってポイントが異なるものの地上のクエストやダンジョンの討伐よりもポイントの貯まり具合が多いというのがわかっている。ダンジョンではフロアと討伐数でポイントが決まっておりこれもポイントが貯まりやすいとは言われている。しかしながら護衛クエストにはかなわないというのが冒険者の中での通説になっていた。


 ただこれはダンジョンや地上クエストで自分たちのランクと同じレベルの敵をメインにしたまに格上の敵を倒しているという前提での話だ。


 ダンとデイブはこの枠から大きくはみ出ている。地上でもダンジョンでも自分たちより1ランクどころか2ランク上の敵を倒してクエストをこなしてきている。冒険者の間で流れている今までの通説は通用しない。


「護衛クエストをこなせないというハンデを差し引いてもあいつらは相当ポイントを貯めているはずだ。2人だけで格上を倒しまくっているからな」


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