第23話

 ダンとデイブはギルドの酒場でリチャードらと飲んだ翌日は休養日で、ヴェルスに戻る時の野営の準備の買い物を兼ねて2人で街の中をぶらぶらとしていた。


 携帯食料や水をある程度買ったところでそろそろ宿に戻ろうかとして大通りを歩いていると2人を呼ぶ声がした。振り返るとそこには商人風の男が。


「その節はお世話になりました。リチャードさんに護衛を頼んでヴェルスに言っていたサムです」


 そう言われて思い出した2人。街道で手助けした時にいた商人だ。あの時はほとんど商人の顔は見ていなかった。立ち止まっているとサムが近づいてきて


「ずっとラウンロイドの街で修行でしたか?」


「そう。外に出たりダンジョンに潜ったり。ある程度鍛錬ができたからそろそろヴェルスに戻ろうかと思ってたところなんだよ」


 デイブの言葉になるほどと頷くサム。


「戻られる前に一度私の店にも顔を出してみませんか?冒険者さんが使うアイテムも取り扱っていますので」


 その言葉を聞いて顔を見合わせた2人はそのままサムについて通りを歩いていく。少し歩くと大きな店構えの建物が見えてきた。


「大きいな」


「ああ」


 そんな言葉を交わしながらサムについて建物の中に入るとそこには衣服をはじめ様々な商品が並んでいる。2人が見ていると


「それらはこの町に住んでいる住民やお金持ち用のものです。冒険者さんはこちらへ」


 と店の奥に案内されるとそこには陳列ケースに入っている腕輪や指輪などが綺麗に並べてある。


「うちの店では武器は売ってないんですよ。そのかわりにこうして防具や装備品をいくつか販売させてもらっています」


 2人はケースの中に並んでいる指輪や腕輪を見ていると、


「お二人も今腕輪と指輪をされていますね」


 サムが2人の両手を見て声をかけてくる。


「ああ、これが魔力が上がる指輪でダンがしているのが腕力が上がる腕輪。どちらもダンジョンの宝箱から出たんだよ」


「なるほどなるほど。でもお二人は魔法も剣も使える。となると指輪と腕輪を両方つけた方がよくないですか?」


 サムが言う通りだがダンジョンから出たのがこの2つだけだったんでねとデイブが言うと、サムは陳列ケースから指輪と腕輪を取り出して


「これが同じものですよ。魔力が上がる指輪と腕力が上がる腕輪」


 そうしてケースの上に置いた指輪と腕輪を見ているデイブの横でダンが


「これは何の腕輪なんだい?」


 とケースの中にある別の腕輪をケースの上から指さす。


「それは素早さが上がる腕輪ですね」


「ほう、そんなのもあるんだ」


「もちろん。ご入用なら2つありますがよ?」


 そう言って素早さが上がる腕輪もケースから取り出すとケースの上に置く


「いいものだと思うが値札を見るととても買えないな」


 ダンが言うとデイブも値札を見てこりゃ俺達には無理だと言う。2人のやりとりを聞いていたサム、


「そうですね。今なら特別価格でご提供しましょう。魔力の指輪と腕力の腕輪、それと素早さが上がる腕輪2つ。〆てこれでどうです?」


 そう言って紙に書いた金額を見せてくる。それを見て


「いや、流石にそれはないだろう。安すぎるよ」


「それだとこの素早さがあがる腕輪がほとんどタダ同然だよ?間違ってない?」


 ダンとデイブが口々に言うが、


「いえいえ、間違っておりません。私は商人です。お二人はこれからまだまだ強くなっていき有名になるでしょう。そんな将来性のある冒険者と繋がりを持っておくのは悪い事じゃない。先行投資ですよ」


 これはサムの本音だ。ヴェルスのワッツやレミーからも聞いているし自分もある程度冒険者を見る目があると自負している。目の前の2人は間違いなくこれから強くそして有名になっていくだろう。繋がりをつけると思えば安いものだと。


「えらく俺達を高く買ってくれてるけど強くなる保証なんてどこにもないんだが?」


 紙に視線を向けたままデイブが困惑した口調で言う。


「その時は私の見る目がなかったと言う事ですよ。いずれにしてもその時は私が損をするだけ。お二人には何もデメリットはありません。そうじゃないですか?」


 そう言ってから続けて


「商人は目先の利益ばかり追いかけている訳ではありません。時には商人なりのロマンを追求したくなるんですよ、特に私はね。私が応援するお二人がどこまで成長するのかそれを見るだけでもワクワクしてきますよ」


「そう言うものなのかな?」


 ダンにはサムが自分たちを買い被っているとしか思えない。まだランクBだ。しかも2人組。よくまぁそこまで買い被ってくれるもんだと。


「とにかくこの値段で良ければこの場でお売りしますよ」

 

 そう言われてデイブはダンを見ていいかな?と言うのでダンが頷き、2人で半分ずつを出し合って魔力の指輪と素早さの腕輪をダンが、腕力の腕輪と素早さの腕輪をデイブが装備した。思いのほかというか想像以上に安く手に入った2人が礼を言う。


「防具もありますが見ていきますか?」


「ごめん。防具はいいよ。俺達は防具はヴェルスのレミーの店でしか買わないって決めているんだ」


 そう言うだろうと予測していたサム。


「良ければその理由を聞かせてもらえませんか?」


 デイブはダンを見てから


「俺達がまだランクCの時にレミーの旦那がやっている武器屋に行った時にその旦那、ワッツというんだが、彼が俺達を見てしっかりと鍛錬しているお前達ならこの剣がいいだろうって勧めてくれたんだよ。その後でレミーの店に行ったらなんとワッツの奥さんでさ、彼女もランクCの俺達にこの防具をかなり安く売ってくれたんだ。ワッツとレミーにはそれ以外にも世話になっててね。俺達ができることは武器と防具はワッツとレミーの店で買う事だけなんだ。だから他の街でどんなに良い武器や装備があったとしても買う気はないんだよ」


 デイブの言葉に隣にいるダンも大きく首を縦に振っている。

 ダンとデイブは目の前のサムがワッツやレミーとずっと以前から顔見知りの関係であることは知らない。サムはデイブの話を聞きながらこりゃ確かにあの2人が認める冒険者だけある。強いだけじゃなく礼節もしっかりとわきまえているなと感心する。


「それは仕方ありませんな」


 内心の思いとは別に残念そうな顔をして言う。


「すまないね」


「でも装備が安く買えたので助かったよ、ありがとう」


 ダンがお礼を言うとデイブも同じ様に礼を言い、


「またこの街に来た時には顔を出すよ。今度はちゃんとした料金を支払うから」


 そう言って店を出ていった。


 2人が店を出ていくと、店内にいた男がサムに近づいてきた。


「社長があそこまで仰るのは初めて聞きましたよ」


 サムは店の前の道路に顔を向けたまま


「あの2人は間違いなくこの大陸に名を轟かせるよ。これからもあの2人の動きはしっかりとチェックしておいてくれるかな」


「畏まりました」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る