第20話

 ラウンロイドの街でダンとデイブはギルドでクエストを受けると前に地上の魔獣退治をしながら金策とスキル上げをしていた。今までとは違う敵相手に二刀流の訓練をしているのだ。街が変わればその周辺に生息している魔獣も変わる。ヴェルス周辺の敵だと結構倒しているので敵の動きが予想できるが、新しい魔獣は行動が読めない。そんな中で二刀流で敵を倒す鍛錬を続けている2人。ラウンロイドの宿の食堂で夕食をとりながらこの日の戦闘を振り返っていた。


「スキルは上がってる感じかい?」


「そうだな。少し前から切った時に戻る体力が薬草1回分以上になってる感覚はある」


「そりゃ凄いな。俺の回復魔法の回数が減らせるぞ」


「そっちの魔法の威力も増してる気がするんだけど?」


「ああ。ランクAを相手にしても与えるダメージが以前より増えているのは間違いないな」


「じゃあ明日は攻守交代してみるか。デイブが前で俺が後ろでやってみないか?」


「いいな。明日はそれでやろう」


 そんな感じで2人でフィールドでランクAを中心にクエストの消化と鍛錬に励んで1週間が経過した。そろそろダンジョンに潜ってみようかとラウンロイドのギルドに顔を出した2人は受付からランクB奨励のダンジョンの場所を聞く。


「ここはこの街から東に2時間程歩いたところにあります。15層で下層にはランクAが複数体固まっていますが中層辺りだとランクBの冒険者にとってはちょうどよい鍛錬の場所になりますね」


 礼を言ってギルドを出た2人はその日は市内で水や食料など準備をして翌日ラウンロイドの街を出てダンジョンに向かった。


 ダンジョンに着くと近くの小屋にいる職員にギルドカードを見せ入り口の石板にカードをかざしてから中に入っていく。


 スロープを下りて1層についた2人。そこは洞窟の様な作りだった。


「サクッと倒して下に進んでいこう」


 デイブが後ろから声をかけてくるのに返事をしてダンジョンの攻略を開始した。


 この日は途中の階段で休憩を挟んで1層から5層までクリアした2人。最後の5層になってようやくランクCとランクBが混在するフロアになっていた。


 一旦街に戻った翌日6層の攻略を開始する。6層になるとランクBが単独で洞窟内を徘徊しており、それを倒して進んでいく。6層、7層を問題なく攻略した2人は8層に下りた階段で休憩を取る。


「8層はランクBが複数体、9層でランクBとランクA、10層からランクA単体。こんな感じだろうな」


 水を飲みながら言うデイブの言葉にそうだろうと言うダン。2人ともダンジョンを攻略しながら先の階層の様子を予想していた。


「ギルドが言っていた中層ってのはこの辺りの事だろう。正直今の俺達にはヌルいな」


「ランクA単体、ランクA複数体、この辺りが鍛錬の場になりそうだよな」


「そう言う事だ。休んだら行こうぜ」


 この日は8層をクリアしてラウンロイドの街に戻った2人。8層は予想通りランクBが複数体出てきたがダンとデイブにとっては全く歯応えのないフロアだった。ギルドでカードを差し出してクリアした層の報告とダンジョンで倒した魔獣の代金をもらった2人はそのままギルドを出て宿に戻って食堂で食事をとりながら明日からの予定について話をする。ギルドの酒場よりもこの宿の方が安上がりなのだ。


「明日は9層、できれば10層までクリアしたいな。そして明後日は休養にするか」


 2人のスケジュールはデイブが案を出す。その案がいつもリーズナブルなのでダンには全く異論がない。デイブは2人の疲労度や金策具合をしっかりと把握していた。


 そうして翌日2人は9層をクリアしたが10層はクリアできなかった。いやクリアしなかったと言った方がいいだろう。


「これはいい鍛錬になるぞ」


 単体のランクAを倒してデイブが言う。


「確かに。いろんな魔獣が出てくる。前衛系以外に魔導士系や狩人系もいる。こりゃいい訓練だ」


 2人は9層から10層に降りた先をキャンプにしてそこから通路に出ては様々な魔獣を倒しては階段に戻って休息を取り、そしてまた出かけていくということを繰り返していた。


「ここまでいろんな敵が出てくるのは地上でもなかなかないよな」


 とダン。


「全くだ。このフロアをクリアするよりもここで鍛錬した方がずっといいぞ」


 このフロアは鍛錬には最適だとダンは思っていた。次々に現れるランクAの魔獣は時に魔法を撃ってくるのや矢を打ってくるのがいる。最初いきなりオークに魔法を撃たれた時はまともに喰らって大きなダメージを受けたがすぐにデイブが回復してくれて事なきを得た。その後は魔法の詠唱を見たらこちらから魔法を撃ってて相手の詠唱を中断させてその間に近づいて剣で倒す。


 狩人系の魔物は矢を撃たせて交わす訓練をする。反射神経が要求されるが2人とも持っている素地と訓練で矢を交わせる程の力がついていた。それでもランクAの魔獣の攻撃だ。一つ間違うと大怪我をする。


 2人は前後の立ち位置を入れ替えながら10層で鍛錬を続けた。


 この日も朝から10層で鍛錬をして夕方にラウンロイドに戻ってきた2人はギルドに顔を出すとギルドカードを受付に提出する。それをカウンターの中にある装置で読み取っていたギルド嬢がびっくりして2人を見る。


「えっと、お二人でこれだけランクAを倒してきたんですか?」


「3日分だけどね」


「それにしても多すぎますよ」


「ひたすら魔獣を倒して鍛錬してたからな」


 受付嬢とのやりとりはいつもデイブだ。ダンはいつも彼の隣でやりとりを聞いている。口下手なダンはこういう当たり前のやりとりも緊張してしまう。


 前の世界では会話はしていた記憶はあるものの言葉の裏を読んだり言葉の駆け引きは全くしていなかった。この世界に来てからダンは言葉が怖いものだと学んだ。思ってもいないことを言ったり平気で嘘をついたりと。そしてそれが当たり前なんだと気がついていた。人は聖人君子ばかりじゃない。もちろんそれらは一部の人なんだろうがそれでも自分の言った言葉が相手にどう捉えられるのかと考えると言葉が出せなくなってしまう。


 デイブがいてくれてよかったと心底思っていた。彼が話のきっかけを作ってくれるおかげでダンも会話に入っていける。そうして友人と呼べる人が少しずつだが増えてきていた。


「そうだよな?ダン」


 突然話を振られたダンは思わずえっ!?と言ってしまう。


「なんだ聞いてなかったのかよ。受付嬢からどうやって倒してたんだって聞かれたから俺とお前で交互に前衛と後衛に分かれて10層のランクA相手に腕を磨いてたんだよって言ってたんだよ」


「ああ、その通り。10層に降りたところにキャンプして1体づつ呼び出しては倒して鍛錬してたのさ」


「変わってますね」


 2人の説明を聞いたギルド嬢が思わず声に出してしまうがそう言ってすぐに


「いえ、今のは独り言です」


「いや、そう思って当然だよ」


 ダンが思わず声に出して言う。デイブもちょっとびっくりした顔をしていた。


「クリアせずに10層でひたすら敵を狩ってると変わってると思うよな。でも俺達はそれでいいんだよ」


「そうそう。俺達は2人だ。慌ててフロアを攻略して事故があったら取り返しがつかない。行けると思うまでその場で鍛錬をしてるのさ」


 ダンの言葉にデイブが続けて言うと受付嬢も納得した様だ。



「ダンが突然話し出したからびっくりしたぜ」


ギルドを出て常宿に戻ってきた2人は例によって食堂で夕食をとりながら反省会をしていた。


「思わず口に出たんだよ」


「でも俺は嬉しかったぜ。ダンが自分の意思をはっきりと伝えてくれて」


 デイブが言うにはダンは今まで一度たりともデイブの提案にノーと言ったことがない。デイブはそれが少し不安だったんだという。


「いつも俺に気を使ってくれてるのかなと思ってたんだよ」


「いや。そうじゃない。本当にデイブの提案に異を唱える必要がなかったからだよ。俺は口下手だしどっちかって言うと行き当たりばったりの性格だ。デイブがいてくれてどれだけ助かってるか。そして実際デイブの言う通りにしていて俺たちは強くなっている。これが正しいやり方なんだよ」


 ダンがそういうとテーブル越しに手を伸ばしてきたデイブ。その手をがっちりと握って握手する2人。

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