第12話

 そうして話はダンジョンから武器屋と防具屋の話になった。デイブがあの2人は夫婦だったんだと言う話をするとミゲルのパーティメンバーが皆そうなんだよと言い、そしてスミスが、


「あのワッツとレミーがいたパーティはランクAだったが限りなくランクSにパーティと言われていた。結局ランクSにはなれずに終わったけど。それでもこのヴェルスじゃ今でもNo.1のパーティだっていう評価だ」


「なるほど。それほどの実力者だったんだ。実はデイブと俺のこの片手剣、店に行った時にワッツがこれを使えって店の奥から出して勧めてくれたんだよ」


 ダンが言うと聞いていた彼らの表情が変わる。ちょっと待てとミゲルが言い、他のメンバーも嘘だろうとか言いながらダンを見る。見られているダンはどういうことか全くわからないのでデイブを見るが隣のデイブも一体どうしたんだという表情をしていた。


「ワッツが初めてあの店に顔を出したお前さん達2人にこれを使えと片手剣を勧めてきたんだな?」


 確認する様に言うミゲルにそうだよと答えるデイブ。

 ミゲルはう〜んと言ってから同じパーティメンバーを見る。彼らもなんとも言えない表情になっていた。そうしてぐいっとビールを飲んだミゲルがグラスをテーブルに置くとおもむろに、


「デイブには言ったが俺達はもうずっとワッツの店で武器を買っている。修理も彼の店だ」 


 そう言ってからワッツは無愛想だったろう?と聞いてきたので頷くと、


「ワッツは客、客というのは冒険者の事だが、とにかく客が気に入らないと絶対に自分から武器は勧めないしひどい時はここじゃなくて他所で買えと平気で言う男だ。だから大抵の冒険者は彼の店では買わない。武器を買いにいって気分が悪くなるんだから当然だろうけどな。それでもワッツは全く気にしていない。俺達も最初の頃は塩対応されたよ。でも売っているものは確かなものばかりだ。何度も通ううちにようやく打ち解けてきたんだよ」


 聞いているデイブとダンはそこまで頑固には思えなかったなと感じながらミゲルの話を聞いている。


「打ち解けてからしばらくしてワッツに聞いたんだよ。なんでそこまで客に塩対応するんだって?そしたら彼が教えてくれた。冒険者としての基礎や基本ができてない奴らに武器は売る気はないんだと。武器とはしっかりと鍛錬をした冒険者が持ってこそその威力を発揮する。見せかけで武器を持って強くなった気がしている奴らのなんと多いことかってな。逆に言うとしっかりと基礎ができて鍛錬を欠かさずしている冒険者には俺は値段じゃなくそいつにとって最も効果がある武器を安価で紹介してやるんだってな」


「そういやあの店に言った時にワッツが俺達をみてちゃんと鍛錬しているなとか言ってた気がするな」


 デイブが言うとダンもそうそうと言ってから


「あの後でレミーの店に言ったときも彼女がワッツが武器を勧めるなんて滅多に無いって言ってたな」


 と言う。


「そういうことだ。つまりお前さん達2人はワッツに認められたってことなんだよ。初めてあの店に行った客にワッツが自分から武器を勧めるなんて初めて聞いたぜ。俺はデイブにあの店を勧めたがまさかワッツが店の武器を紹介するほどとは全然思わなかった。良い物があるから自分で選んで買ってこいという位の気持ちで紹介したんだが」


 ミゲルの言葉に続いて


「今のやりとりを聞いてわかったよ。お前さん達2人があのダンジョンをクリアしたのは当然だ。ランクCというが既にランクBの上位の実力があるってことだ」


 ジョンが言うと周りもそうなるなと言う。

 デイブもダンもまだ理解できていない。俺達ただのランクCだぜ?という表情だ。特にダンはずっとソロでやってきたから他の冒険者達のレベルに疎い。


「ワッツが言う通り毎日鍛錬しているんでしょ?」


 アンナが聞いてきたのでデイブがそうだよ、毎朝こいつと2人で朝食前に市内をランニング、そして朝食を食べると宿の庭で素振りや魔力操作の訓練をしてからギルドに顔を出していると言う。すると、


「毎日それをやってるのか、大したもんだ。その結果がワッツに認められたんだろう。俺達もそこまで毎日鍛錬はしない。今のお前さん達の話を聞いて耳が痛いよ」


 ミゲルが言うと見る人が見たらわかるってことだな。とスミスが言いその言葉に頷く他のメンバー。ミゲルは酒場を見渡してから小声で


「普通はそこまで鍛錬する奴はいない。そこまでしなくてもポイントが貯まるとランクが上がっていく今のギルドのシステムだと数の論理でダンジョンやクエストを攻略するのが近道だと思ってる奴らが多いんだがそれは本当は近道じゃないんだ。お前さん達みたいにしっかりと足元を固めて前に進んでいくのが一番の近道なんだよ」


「俺達のやってることは間違ってないってことだよな」


「ダンの言う通りだ。間違ってないどころかそれが王道だ。いや今日お前さん達と話ができてよかったよ。俺たちが忘れていたことを思い出させてくれた」


 ミゲルがそう言うと他の仲間も明日から鍛錬するかとか言っている。


 そうして彼らと別れたダンとデイブは自分たちの宿に戻る道すがら酒場での出来事について話しをしていた。


「俺達は当たり前だと思ってたんだが、そう思って無い奴がいたってのは逆にびっくりだ」


 ダンが言うとその通りだとデイブも言う。


「ランクAのパーテイが俺たちのやりかたが王道だって言ってくれたんだ。これからもこのやり方を続けていこうぜ」


「そうだな。俺達は2人組だ、数の論理、ゴリ押しってのができないからその分しっかりと鍛える必要がある」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る