第7話
「いやあ、楽しかったね」
ザックはご満悦の様子だった。
串焼き、果実のシロップ漬け、子ども向け妖精大図鑑、猫のぬいぐるみ。
両手に持てるだけのものを持ち、バートの隣を歩いていた。
宿を確保した二人は広場に向かった。
バートの予想通り、ザックは広場にある露店を全て制覇すると言い出した。
こうなるともう止められなかった。
バートは暴走するザックの後ろをついていくしかなく、「疲れて帰る」と言い出すのをひたすら根気強く待ち続けた。
流れ星のかけらと称する怪しげな瓶詰めの石を買い、1年分の星空の地図を買い、子どもたちに混じって射的やくじ引きを楽しんだ。
焼きたてのパン、薬草酒、野菜のスープ、練るたびに色が変わる水飴。
匂いや物珍しい見た目に釣られ、あれもこれもと食い散らかし、買い込んだ。
祭りの空気感に飲まれたか、日頃の物欲のなさが嘘のようだった。
バートの両手はあっという間にザックの戦利品で一杯になった。
成人して久しいと思われるはずなのに、こういうときのザックはまるで幼児のようだ。
本物の幼児とは違い、欲しいものがすべて手に入るところが実に厄介である。
(ザックは上級貴族だ。幼少期に子どもらしい経験があまりないのかもしれない)
バートは人目も気にせず大はしゃぎするザックを見ながら、そんなことを考えていた。
全く以て掴みどころのない人間だが、この若さで王宮魔術師であり、さらに王宮が認める学識者だ。
幼少の頃より周囲の期待に応えるべく、常に努力と我慢を重ねてきたに違いない。
ごく普通の子どもが当たり前にやってきたことが、ザックには当たり前でなかったこともあるだろう。
もしそうだとしても、だ。
(この年で誰もが皆、ここまで子どものように振る舞えるわけではないだろうが)
バートは上機嫌で露店を冷やかして回るザックを見ながら小さくため息をついた。
「バート、この先に虹色のガラス細工をつくってくれる露店があるんだって。行こう」
バートがザックに追いついたとき、ザックはバターと蜂蜜がたっぷりかかった粉吹き芋を受け取っているところだった。
「まだ食べるのか」
「まだ食べるさ」
バートのうんざりした表情を見て、ザックはニンマリと笑った。
「次、見にいこう」
「わかった」
鼻歌まじりにずんずん人混みをかき分けていくザックを追いながら、バートは帰りに胃薬と胃に優しい薬草茶を買って帰ろう、と考えていた。
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