第31話 夢見

「異常は?」


「特にありませんでした」


ゼッツさんの部屋で暫く待つと、彼が戻ってくる。

その間、この部屋に誰かが訪れる事はなかった。


「現場には血の跡だけで、遺体はなかったよ」


「そうですか」


どうやら死体は俺達が離れた後、何者かによって処分された様だ。

身元特定に繋がる事を嫌ったのだろう。


しかし……やはりあの場にレアンを残さなくて正解だったな。

もし彼女を置いて行っていたら、今頃どうなっていた事やら。


「ベニイモ君達の事も手配しておいた。じき会えるだろう」


「ありがとうございます。ゼッツさん」


「いや、礼を言うのはこっちの方だ。よくぞ王女様を救ってくれた。感謝する」


「いやー、ははは」


ゼッツさんが俺に頭を下げるが、それに関しては何とも言えなかった。


何故なら、レアン王女は俺に会うためにあの場に居たからだ。

暗殺者に襲われたのもそのせいである。

王女が深夜に抜けだしたのを、暗殺者達はチャンスだと思ったのだろう。


ゼッツさんが戻って来るまでの間、俺はレアン王女から色々と話を聞いている。

どうやらハーネス王家は神龍と呼ばれる、魔物ではなく精霊に近い種族の血を引いているそうだ。


交雑って奴だな。

現実的に考えると龍と交配なんて正気を疑うが、まあそこは置いておこう。


その事から王家の人間は種族特有の能力――未来を見通す夢見という力が宿る事があるそうだ。

レアン王女はその能力を引き継いでおり……そして見たらしい。


――俺が魔王を倒して世界を救う姿を。


――そしてその後、新たなる神になる姿を。


魔王を倒すところまでは、まあ分かる。

そのために今、力を付けている最中な訳だしな。

だがそこから俺が神になるというのがどう考えても繋がらない。


最早意味不明レベルである。


その辺りも勿論訪ねはしたが、どうやら夢見で見れる物はハッキリとしたビジョンではく、ふわっとした曖昧な物になってしまうそうだ。

それは神龍の血が年々薄くなり、力そのものが弱っている為だと彼女は言う。


更に付け加えるなら、夢見の見せる夢は絶対ではなく、ちょっとした事で変わってしまうらしい。


つまり彼女は、そんな不安定な夢見を信じてあそこで俺を待っていたという事になる。

魔王を倒す鍵となる、王家の至宝を渡すために。


……俺が本当に来たから良かった物の、来なかったら偉い事になってたぞ。


因みに彼女が俺を王子様と呼ぶのは、自分を守ってくれた姿がかっこ良かったというシンプルな物だった。

まあそこは子供らしい理由だ。


「王女様。わたくしが宮へとご案内いたします」


安全確保が出来たのだろう。

ゼッツさんがレアン王女を連れて行く。


「王子様。どうか、世界をお願いします……」


彼女は振り返ってそう言うと、部屋を出て行った。


袋に手を突っ込み、中から神龍石を取り出す。

王家の至宝と言われた時は流石に断ろうと考えていたのだが、結局受けとってしまっている。


魔王を倒す鍵とか言われたらなぁ……


夢見の未来は絶対ではないので、これがさえあれば勝てると言う訳でもないだろう。

だがないよりはあった方がいいのは確かだ。


だから受け取った。

少しでも魔王に勝つ確率を上げるために。


ま、倒せればこの国も憂いが無くなるんだから良いだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る