第9話 魔法の習得
クラスアップ。
それはより上位のクラスへと進化する事を差す。
通常、レベルが30になると市民以外は上級職へとクラスアップする事が出来る――まあ市民も、極低確率で特殊職になれるが。
クラスアップすると取得できるマスタリー等のスキルが追加されるので、それは強化につながる物となっていた。
だが同時に、レベルは30を超えると一気に上がり辛くなるとも言われている。
一種の壁という奴だ。
大げさに言うと、これを乗り越えた者だけが上級職のスキルを習得できるとも言えるだろう。
まあ何が言いたいのかと言うと、ここ最近は全然レベルが上がっていないという事だ。
それまでは年に7~8個は上がっていたレベルが、30超えた途端、極端に上がり辛くなってしまっていた。
今の俺のレベルは34。
今年8歳になったが、この2年で上がったレベルはたったの5個だけ。
ソアラの方も似たような感じで、レベルは38だ。
……まあ普通に考えれば、8歳でレベル30台ってのは結構滅茶苦茶な方ではあるが。
この2年で新しくとったスキルは2つ――
ダンスマスタリーLv10。
消費SP20。
全ステータスがレベル×5パーセント上昇し、踊りに補正が付く。
記憶マスタリーLv10
消費SP10
魔力・知力・精神にレベル×5%の補正がかかり、更に記憶力が上昇する。
ダンスマスタリーを取ったのは、残ったマスタリーの中で一番SP当たりの能力上昇が良かったからだ。
もう剣の扱いに補正のあるマスタリーはないので、純粋にステータスアップだけで決めている。
別に村祭りの踊りに感銘して、自分も踊りたくなったわけではない。
そして記憶マスタリーだが――実は最近魔法の勉強を始めていた。
勿論、ソアラが言い出した事だ。
アイツは思い立ったら全力疾走だからな。
当然俺もそれに付き合わされる羽目に。
学習用の教材は結構高いらしいが、それは騎士さん達に頼んで用意して貰っている。
これも経費で落ちるそうだ。
まあ勇者は魔法も扱えるクラスだからな。
さて、この世界での魔法の使い方だが――それは極極シンプルな物となっていた。
魔法陣をイメージし、魔力を流し込む。
それだけだ。
そのため、この世界の魔法には詠唱がない。
なんだ、それなら習得楽勝じゃん。
って思うだろ?
だが世の中、そんなに甘くは出来ていない。
魔力を流し込むのは確かに簡単だ。
だが問題は、魔法陣をイメージする方である。
魔法陣と言われれば、大抵の人間は円の中に文様が描かれた物を思い浮かべるだろう。
有名所で言えば、六芒星の魔法陣なんかがそうだ。
だがこの世界の魔法陣は円ではない。
二次元的な面の文様ではなく、球体に複雑な物が描かれている。
それがこの世界の魔法陣。
どういう感じかは、地球儀を思い浮かべて貰えばいいだろう。
アレをさらに複雑にした物を、脳内に寸分の狂いなく完璧に焼き付ける。
こういえば、それがどれ程難しい事か理解してもらえると思う。
そのため魔法を一つ覚えるのにかかる期間は、人によって――知能も影響する――前後するだろうが、だいたい半年程かかると言われていた。
――そこで役に立つのが記憶マスタリーだ。
俺が新たに習得したこれは、魔法系のクラスが持つマスタリーで、記録力を高める効果を持っている。
このマスタリーの有る無しで、記憶速度が倍ほど変わると言われている程だ。
それに難解な魔法陣を、忘れる事無く完璧な形で覚え続けるのは相当難しい。
覚えた直後はともかく、頻繁に使わないとすぐにぼやけて行ってしまうだろう。
この記憶マスタリーはそう言った長期の記憶の保持にも、力を発揮してくれるのだ。
正に魔法使い系には必須のマスタリーと言えるだろう。
因みに、勇者の取得できる伝説マスタリー――取得済み――にも同じ様な効果があった。
だったらそれだけでいいと思うかもしれないが、追加の効果を期待して俺は記憶マスタリーを習得している。
追加効果を求めた理由は――
剣術では勝てないから、せめて魔法の習得だけは追い抜いてやろうという、びっくりする程小さな理由ではあるが。
やっぱ腹立つじゃん。
負けっぱなしってのは。
だからせめて魔法の習得だけは勝ってやろうと、思った訳だ。
――40歳児である、おっさんの俺は。
うん、我ながらちっさい。
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