第18話
「―――ここだ」
「ガチャ」
「―――――、」
「スゴイ、山のなかネ」
「ここが、"安永"の家だ」
「・・・・」
尚佐の屋敷から三十分程車を走らせ、
前日訪れた田島の家の傍にある湖を先に抜け
山道を車を走らせる事十五分程。
「ここが、"安永閥"の屋敷なのか?」
「―――ああ、そうだ。」
善波は、目の前の木々に囲まれた
屋敷の前で車から降りて来た征四郎を見る
「この、安永閥ってのは、
叶生野荘にいくつかある派閥の中でも、
尚佐の祖父さんが所属していた
左葉会を除けば
1、2を争う程派閥の規模は大きい家だ」
「....安永。」
「―――ゼンバさん」
「何だ?」
サングラスにマスクを着けたジャンが、
車の前に立っている善波に目を向ける
「この、"ヤスナガ"ハこの村のなかでも
一番大きいわけじゃないでショ?」
「―――そうだが...」
「トオノの中で、いちばん大きイ
ぐる...いや、あつまりハ、
"サヨウカイ" そう言ってたネ?」
「―――だから何だ?」
「だったら、どうして
"サヨウカイ"の人に話を聞かなくテ、
この、"ヤスナガ"の人たちに話聞くノ?」
「――――....」
ジャンの言葉を聞いて、善波が
少し困った様な表情を見せる
「....まあ、事から考えれば、
それが当然と言えば当然なんだが...」
「そうでショ」
征佐の手掛かりを探すなら、
いくつも派閥がある叶生野荘の村の中でも、
一番その派閥の規模の大きい
"左葉会"の人間に話しを聞くのが早い筈だ
「まあ、左葉会の連中に、
俺はあまり好かれとらんからな...」
「そうなの?」
「それに、左葉会の人間の所には
尤光 正之、そして明人も
多分向かってる筈だ」
「それが?」
「....まあ、推測だが、おそらく征佐の情報は
左葉会でもあまり持ってないんじゃないか?」
「....そうかも知れない」
促す様に、征四郎が口を挟む
「そうだろう。
この叶生野荘の他の家の者が
何か、征佐の事について知っているなら
多分、尤光たちはすでに
その話を知っているだろうからな....」
「いまだに、征佐の存在が分からないって事は
この村の中でも、征佐の事を知っている人間は
ほとんどいない―――」
「―――おそらくな」
「ガチャンッ」
「よし、行くぞ」
車のドアを閉め、少し先にある屋敷に
三人は目を向ける.....
「ガチャッ」
「―――総司さまっ」
「放っておけ! 尚佐御大が亡くなったのなら
次の御代がどうなるかは、
この安永の家にも関わって来る事だぞ!」
「――――?」
"ザッ ザッ ザッ ザッ、"
屋敷の中から、黒髪の目つきの鋭い男と
一人の執事の様な男が、屋敷から
こちらに向かって歩いてくる
「し、しかし、わざわざ総司さまが
叶生野の屋敷に行くなど―――」
「何だ? 俺が叶生野の屋敷に
顔を出して悪いのか?」
「(――――...)」
屋敷から出て来た老人と、
征四郎より少し背丈が大きいくらいの
青年が、何か言い争いをしながら
こちらに向かって歩いてくる
「総司さま....!」
「だから、それは――...」
「総司。」
「善波!?」
執事の男の前を歩いていた青年が
名前を呼ばれ、その場で立ち止まる
「お前、来てたのか.....?」
「―――当然だ」
スーツの襟(えり)が乱れたのか、男は
襟を正しながら善波に高圧的な目線を向ける
「....尚佐御代が無くなると聞けば、
この叶生野荘に足を運ばない者はいない。」
「しかし、ずいぶん.....
親父の具合が悪いとは言ったが、
何も死ぬと決まった訳じゃ無かったんだが....」
「――――そんな事はどうでもいい。
...お前がここに来てるって事は....!」
総司と呼ばれた男が、車の周りにいる
善波 征四郎、そしてジャンに目を向ける
「"征佐"の事か....?」
「・・・知ってるのか」
「尚佐御代が死んで、次の御代に、その
"征佐"が名指しされた事はすでに
この村の者ならほとんど知ってる」
「そうか・・・」
「―――――、」
総司が、後ろに振り返る
「ここでは何だ。 入れ。」
"ザッ ザッ ザッ ザッ―――――
「そ、総司さま」
執事の老人を従えながら、来た道を引き返し
総司は屋敷の中へと入って行く――――
「....あれは?」
屋敷に引き返していく男を見て、
征四郎が善波に尋ねる
「ああ、あいつは、安永閥、次の安永グループの
時期当主だ。 名前は、"安永 総司"」
「総司――――....」
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