第15話

「この間の話って――――?」


「・・・・」


「ブロロロロロロロ....」


暗い夜の道を走る車の中で、


征四郎は横にいる善波に尋ねる


「・・・・」


話に興味が無いのか、善波はただ


まっすぐ自分の車の照明に照らされた


先の道路を見つめている


「・・・・」


「何、大した事じゃない」


「・・・・」


それ以上聞くのも何だと思ったのか、征四郎は


首を横に向けると、そのまま窓の外に見える


叶生野荘の景色に目を向ける.....


「(・・・・)」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「...そろそろ食事にしたらどうだ?」


「―――ええ」


田島の家から戻り、広い叶生野家の屋敷の中を歩いて


いくつかの部屋を征四郎 善波の二人が通り抜けると、


目の前に一際大きな招待客用か何かと思われる


扉が目に入ってくる


「ガチャ」


「じゃあ、あんた達も見たって事....?」


「ああ、姉さん.....!」


「(・・・・)」


「あ、おい、征四郎」


「―――何か」


部屋の中へと入ると、いくつか並んだ


白いテーブルクロスが敷かれたテーブルの辺りに


尤光 正之 そして明人の姿が見える


「お前も、どうやら田島の家に


 行ってたみたいだな―――?」


「―――ええ。」


明人が、座っていた三人の中から


征四郎に向かって進み出てくる


「何か、問題でも?」


「・・・・」


いつも自分が嫌味を言っているせいか


先を制して征四郎が口を開いたのを、


明人は涼しい顔で見ている


「―――いや、特に


 問題という訳じゃないが....」


「じゃあ、何か?」


「・・・・」


「・・・・?」


「特に、征佐に関して、


 と言う訳じゃないんだが....!」


「・・・・」


明人が、何故か戸惑った様な表情を見せる


「(―――?)」


「おまえ、今日は、叶生野荘の田島の家や、


 来宮を回って来たんだよな.....?」


「・・・・」


おそらく、誰か人を使ったのか、


どの様な理由で自分が訪れた場所を


この男が知っているのかは分からないが、


明人の言葉を、征四郎は顔色を変えず


無表情で聞いている....


「(コイツならあり得るか――――)」


今までこの明人と顔を合わせた事は


数度しかないが、人間性、そして


横から流れてくる噂――――


それらの事を考えれば、この明人が


人を使って自分の行動を勝手に探っていたとしても


何ら驚きを感じない


「おまえ――――」


何か、深刻そうな様子で明人が口を開く


「.....何か?」


「・・・・」


少し、間を開けると思い切った様に喋り出す


「おまえ、田島や、来宮の家の近くで


 "変な奴"を見なかったか?」


「....いや、」


「こう、何て言うか、


 サングラスをして、マスクをした―――」


「ガチャ」


招待客用の部屋の扉が突然、開く


「みなさん、こんばんわー!」


「―――ジャン。」


「あれ どうしたですか?


 日本のみなさんは、元気、ありませんね?」


「アンタの態度が、


 この場所の雰囲気に合ってないから、


 オカシイんじゃないの?」


「ルー...」


開いた扉の外から、突然、部屋の中に


金髪の男と、肌の黒い女が入ってくる


「ワァオ、 セイシロー


 ヒサシブリネ」


「ジャン....」


"ジャン・アルベルト・トオノ"


「尚佐のおじいさん、危ないって聞いたから


 来てみたけど、もうすでに死んでたみたいだよ」


「・・・・」


「・・・・」


「・・・・」


部屋の中にいる叶生野の一族が


白い目で見ているのを気にせず、


部屋の中に入って来た背の大きい


典型的な白人の顔つきをした男がそのまま


征四郎、善波の側まで歩いてくる


「あ、ゼンバさん――――


 久しぶりね」


「おおっ ずい分っ 遅かったなっ!?」


「私たち、日本にいないからね」


"ルーシー・ハドー・カミムラ"


ジャンの後ろから付いてきていた


長い髪の毛にウェーブがかかった女が、


善波の言葉に答える


「あれ―――、」


「オウ、アキヒトサーン」


「・・・その恰好は何なんだ?」


「ナニ? どうかした?」


「・・・・」


明人が部屋の中に入って来たジャンを見ると、


ジャンはサングラス、そしてマスクをしている


「あー これ、 ワタシ、いま、

 

 少し風邪をひいててー...」


「お前、もしかして、今日、


 この場所に来る前にこの村の中で


 どこか別の場所に行ったりしてたか?」


「―――何のこと」


「(・・・・・)」


ジャンの姿を見ると、スーツにサングラス、


そして、マスク。


「(――――)」


「ああ、でも、ここに来る前に


 えー 誰?」


ジャンが、隣にいるルーシーを見る


「"田島"と、"来宮"でしょ?」


「ああ、そう、そうね。


 そのひとたちの家に行ってきてたよ」


「・・・何でだ?」


明人の言葉に、ジャンは陽気な様子で答える


「なぜって簡単じゃない


 尚佐プレジデントが亡くなって、


 そしたら、あそこにいるお爺さんが


 次の"ミダイ"になれる


 可能性があるって―――」


「だから、田島と来宮の家に行ったって事か?」


「そうね―――


 私も、ミダイになれるなら


 なってみたいからね」


「―――クククッ」


「・・・・?」


明人が嫌らしい笑みを浮かべる


「―――それは、無理だ....!


 なにせ、次の御代はこの


 日本の叶生野家の直系である


 俺、それか正之 尤光姉さんの


 誰かがなるとすでに決まっているからな....!」


「そうなの?」


ジャンが、ルーシーを見る


「そんな話、私も聞いてない。


 勝手に話を作ってるんじゃない?」


「――――」


「・・・・?」


含みを持った表情を見せると、明人は


そのまま背を向け、尤光 正之のいる


テーブルの方へ引き返して行く....


「―――相変わらず、あの人、


 何考えてるか分からないね」


「あれが、"日本"って事なんじゃない?」


「・・・・」

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