「血の家」

第13話

「ブロロロロロロ....」

「(・・・・)」

車の助手席から、征四郎が窓の外を覗く

「(―――――、)」

すでに、日も暮れかけ辺りは

赤色に染まった湖面とそれに沿う様に

どこまで続いているか分からない、

まっすぐに伸びた道路が征四郎　そして

善波を乗せた車の前に続いて行く.....

"パァァアアアアアアアア"

「何だ、まぶしいな――――」

"カチ"

「(・・・・・)」

すでに日も暮れかけた夕暮れの道を、

向う側から一台の車がハイビームを照らして

こちらに向かってくる

「―――まったく、常識が分からんのか」

"パッ"

スッ―――、

少し先の対向車に向けて善波がハイビームを

照らし返すと、対向車はすぐに照明を落とし

そのままこちらに向かって走ってくる

"スゥゥゥゥゥゥゥゥォォオオンッ―――――

「(――――！)」

車と車が、すれ違う

「(今のは.....)」

「――――？

　どうしたんだ？　征四郎くん？」

「―――いや...」

一瞬、表情が変わった事に善波が征四郎を見るが

様子を見てあまり大した事では無いと思ったのか

再びハンドルを握り直すと、善波は

自分の前方の暗がりに顔を向ける....

「(今のは.....)」

「ブロロロロロロロロ.....」

～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～

「大分、日も落ちたな」

「ガチャ」

「・・・・・」

「ガチャ」

車から降りると、すでに辺りは日も暮れ

暗い、夜の湖面の周りに広がる

森の景色が目に入ってくる....

「・・・・」

「中々、落ち着いた場所だろう？」

「――――...」

「元々、叶生野荘は、ほとんど人里が離れた

　誰もいない場所に、　

　―――ええ、　先々代だったか....

　先先々代だったか...　とにかく、

　何百年も前の叶生野の先祖がこの叶生野荘の

　山を買い取って、そこに住み始めたのが

　この村の始まりだと言われてる」

「・・・・」

話を聞きながら、夜の月明かりに照らされた

湖面の畔(ほとり)に建っている白い建物に、

征四郎は目を向ける

「ブロロロロロロ...」

"キキッ"

「・・・・！」

車の側で立っていると、その車の前に

ライトをつけた一台の車が停まる

「あら、善波兄さん.....！

　そして、そちらは――――？」

「(―――――...)」

先程、館で会った時には自分の名前を

呼んでいた筈の尤光だが、どうやら

すでに年も三十を越えたせいか物の覚えも

覚束(おぼつか)ないようだ

「あら、あなた達は、二人で来宮の家から....

　ここにお出(い)でになったの？」

「・・・？」

「ガハハッ！　そうだっ！？

　他に人がいる様に見えるかっ！？」

「・・・・」

「？」

善波の言葉を聞いているのか、いないのか

尤光は一言も喋らず、まるで伺う様に

征四郎　そして善波の顔を見ている

「―――まあ、兄さん達が

　何をしようと勝手だけど―――

　元々、二人は御代の事については

　考えにすらなかったのでしょう？」

睨みつける様な表情で、尤光が隣の征四郎を見る

「ええ、もちろん―――」

「それなら、あまり、この村の中を

　ウロウロ歩かず、大人しく

　尚佐お祖父さまの屋敷で

　ゆっくりしていらっしゃったら？」

「ゆっくりするも何も、

　俺たちはまだ四十手前だぞっ！？

　そんなに悠長な事を言ってられるかっ！？」

「・・・・」

「ブロロロロロロ....」

皮肉が効いていないのか、思った事を

そのまま話している口振りの善波を

一瞥(いちべつ)すると、尤光は

車の窓ガラスを閉め征四郎たちが来た道と

反対の方向に消えていく....

「あいつも、あの年で独身だからな。

　だから征四郎くんに当たりがキツいんだろう」

「―――フッ」

「・・・どうした？　征四郎くん？」

「いえ―――、

　善波さん、それより

　建物の中に―――？」

「あ、ああ。　そうだな」

「(―――少し、"妙"だな...)」

"ザァァアアアアアア"

後ろの方に消えていく尤光を乗せた

車の灯りを見ながら、湖づたいに征四郎達は

目の前の大きな白い建物に向かって

歩いて行く―――――

「(・・・・)」