第153話 親子団らん

 その二日後、もうそろそろ昼にさしかかろうという頃、別邸は大騒ぎで一台の馬車を迎えていた。

 ルークとスズヤが来たのだろう、とすぐに分かった。


 ルークが一人でこっちに来る場合は、鷲に乗ってサッと半日でやってくるのが常なのだが、スズヤも来る場合はそうもいかない。

 鷲は二人乗りができないため、二人で馬車に乗って来ることになる。

 たまに夫婦で出席しなければいけない行事のときは、いつもこうして王都に来るのだが、鈍足の馬車なので、急いで三日、のんびり来ると四日くらいはかかる。


 大名行列ではないが、ルークほどの立場の人間が乗った馬車は、三十騎ほどの軽装の鳥騎兵と、七十人ほどの歩兵を随伴してやってくる。

 騎兵が軽装なのは、カケドリは馬より体力がないので、鉄を多く纏った重装の人間を背に乗せて、何日も行軍することはできないからだ。

 じゃあ馬に乗ればいいだろう、という話になるのだが、その辺りはやはり大名行列と同じで、格好良さを優先してこうなっているらしい。


 どちらかというと、馬に乗っている騎士より、トリに乗っている騎士のほうが格式が高いといった風潮があるためだ。

 実のところ、馬のほうがカケドリより体重がずっと重いので、歩兵の集団などに突っ込んだ場合の突撃衝力は馬のほうが勝る部分がある。

 なので俺としてはこの信仰はどうかと思うのだが、これにはカケドリでないと騎馬民族の弓騎兵に対処できなかったという歴史の経緯があるので、仕方がない部分もある。


 ルークとスズヤがやってくる行列は、格式張った祭典でもない、言ってみれば通常の業務なので、別邸について整列したら、ルークが軽く労をねぎらう一言を述べ、すぐに解散する。


 警護についてきた人員は、今まで別邸の警護をやっていた人員とチェンジして、これからしばらくは門番などを勤めるわけだが、この任務は花の王都での休暇という意味も含まれているため、たまの夜勤がある以外は、しんどいことが殆どない。

 なにせ、訓練らしい訓練がないので自由時間がとても多く、ほぼ二日に一日ある休みの日は外出自由だし、朝の点呼に間に合えば外泊さえしてもよい。

 泊まりで王都の娼館に通うこともできる。


 当然ながら、なにかしら緊急の事態が発生した場合は即総動員になり、休みは潰れるわけだが、通常業務では常に人が余っている。

 二十四時間警備ではあるが、四直制なので、つまりは二日に一日六時間働けばよく、その六時間も内二時間は休憩である。


 到着して数日はその仕事すらないので、兵たちは王都に到着すると、さっそく街へ繰り出す者も多いのだった。



 *****



 の、はずだったのだが、俺が出迎えに玄関のドアを開けると、様子が違っていた。

 もうルークの話は終わっているはずなのだが、兵たちはずらっと整列したまま、俺を見ている。

 解散していないようだ。


 整列したままの兵隊の前に、ルークとスズヤがいた。


「ユーリ……!」


 スズヤは、玄関を開いた俺を見つけると、感極まった様子で駆け寄り、俺を抱きしめた。

 もう身長は俺のほうが余程高く、抱きしめられるとスズヤの額が鎖骨のあたりに当たった。


「お母様……」

「心配したのよ……」


 スズヤは、軽く涙声になっていた。

 演技じゃないな。


 いや、演技なわけないか。

 スズヤの涙を、どう受け止めたらいいのかわからない。


「すいません。ご心配をおかけしました」

「いいの。こうして戻ってきてくれたんだから」


 スズヤはそう言うと、抱きしめていた腕を、がばっと勢いよく離した。


 なんだなんだ?


 スズヤは俺の肩を挟むように叩き、肩から腕へ、腕から足へとしゃがみながら、パンパンと両手で叩いていった。


「怪我は……ないみたいね」


 怪我の確認だったのか。


「あー、足の裏をちょっと。でも、もう大丈夫です」

「えっ、本当……っ!? 平気なの!?」


 スズヤはあくまで心配そうだった。


「大丈夫、大丈夫ですから。もう杖も要らないくらいです」

「そう……ああ、でも、よかったわ。よかった……命に別状はないのだものね……」

「はい、ありません」


 考えてみれば、墜落してキャロルと一緒に行動しはじめたころは、俺は死んだと思われていた。

 前半は、まぁ行方不明という扱いだったが、後半の方はほぼ絶望的と思われていたわけだ。


 当たり前だけど、だいぶ心配をかけたよな。


「スズヤ」


 後ろから見守っていたルークが、そう言いながらスズヤの肩に手を置いた。


「ユーリ、よく戻ったな」

「はい、父上」

「とりあえず、ここじゃなんだ。中で話すか」


 スズヤの肩を抱くようにして、中に促した。

 まあ、確かに兵の目が痛い感じはする。

 痛いといっても、非難するような目で睨んできているのではなく、むしろ敬意を感じる目線だが、どちらにせよ家族水入らずの時間を過ごすのには相応しくない。


「護衛任務ご苦労。解散してくれ」


 ルークが首だけ振り返ってそう言うと、臨時兵隊長(護衛は幾つかの小隊を組み合わせて臨時編成する)が兵に向き直り、

「それでは、担当のある者以外は解散してよし!」

 と言い、それから小隊長が部下たちに軽く指示をし、兵たちはバラけていった。


 いつもなら、ルークが気軽な感じで「それじゃ、王都を楽しんでくれ。羽目を外しすぎないようにな」などと軽口を付け加えるのだが、今回はなかった。



 *****



 エントランスホールを通り過ぎ、落ち着いて密談などができる応接間のような場所までいくと、家族三人でソファに座った。


「やれやれ、とにかく無事なようで安心した」


 と、ほっとした様子でルークが言った。

 とりあえず一安心、といった感じだ。

 伝聞でしか情報が伝わらないこの世界では、なにかにつけ実際に目で確認しないと安心できない部分がある。


「あまり親に心配をかけさせるな、とでも言いたいところだが。元より親には心配をかける仕事だからな……」


 騎士のことを仕事、と表現するのはルークらしかった。

 普通、騎士にとっては仕事という形容はなじまない。


 職業というよりは生まれのような感覚でいるのが普通だ。

 つまりは生まれついての身分であって、選択するものではない。


「足は本当に大丈夫なのか?」

「まだチクチクしますが、大丈夫そうです。まあ痕は残るでしょうが」


「えっ……」


 痕が残ると聞いたスズヤが、不安そうな顔をした。

 しまった。


「スズヤ、足の裏の話だよ。痕が残ったところでどうってことない」


 ルークが冷静に言った。

 まあ、確かに、顔とかじゃなくて足の裏だしな。

 顔の形の腫瘍ができて喋り始めるのでもなければ、気にもならない。


「確かにそうね」


 スズヤもそう思ったのか、ケロっとした様子で立ち直った。

 スズヤは農家の出だし、あまり細かいことを気にする性格ではない。


 子供の頃ルークが家の周りの草刈りでざっくり腕を切ったときなんかも、割と平然としていた。

 今思えば、我が家の鎌や包丁が異常なほどの斬れ味だったのは、ルークが槍や短刀を研ぐような仕上げ砥石で研いでたからなんだろうな。


「医者には見せたんだろ? ずれたまま縫合したりすると大変なことになるぞ」

「ああ、それは大丈夫だそうです」


 神経系に後遺症ができて、痺れが残ったりしないかどうかとか、そのあたりはもう分からないが、動かない指などもないようだし、大丈夫なんだと思う。


「なら、ほとんど無事だな。よかったよ」

「はい。なんとか無事です」


「本当に良かったわ。ね、ユーリ、今日はずっと一緒にいられるんでしょう?」

「いられます。陛下への謁見も済んでいるので、今日くらいは療養しようと思っています」

「それなら、今日は私が夕食を作ってあげるわ」


 おぉ。

 嬉しい。なんというか、自分でも意外なほど嬉しかった。


 王都では幾らでも美味いものは食えるが、というか別邸にいれば水準以上のものが黙っていても出てくるが、やっぱり母親の手料理というのは格別なものだ。

 スズヤも、将家の頭領の奥さまになってからは、台所に立って包丁を持つことはほとんどなくなってしまったので、純粋に珍しくもある。


「嬉しいです。すごく食べたい気分です」

「ルーク……いいかしら?」


 と、スズヤがルークに水を向けた。

 やはり、立場からいうとスズヤが自ら台所に立つというのは、あまりよろしいことではない。

 身分にふさわしくないし、単純に着ている服が上等すぎて調理に向かない。かといって立場上ボロの服を着て人前に出るわけにいかない、などと色々面倒なしがらみがある。


「こんな日くらいはいいだろう。俺も楽しみだよ」

「じゃあ、早速台所を借りてくるわね」


 スズヤがウキウキしながら部屋を出ていった。


「よかった」


 良かった?


「なにがですか? 母上の手料理が食べられることですか?」

「いや、スズヤの前では話しにくい話があってな。戦争の血なまぐさい話なんて、あれは知らなくていい」


 まぁそりゃそうか。

 俺も話したくはない。心配されるだけだ。


「それで、どうだった? 戦争は」


 ルークが探るような目で見てきた。

 いつになく真面目だ。


「星屑を死なせてしまいました」


 俺がまずそう言うと、


「あぁ……そうか。お前にとっては初めての鷲だったからな。辛いな」


 と、ルークは若干気が抜けた様子で言った。

「はい」

「鷲ってのは、本当に情の深い動物だ。鷲は人を見て人を学ぶ。特にあの鷲は賢かった」


 確かに、星屑は特に強健だとか、体が大きいとかではなかったが、賢かった。


「特別にそういう鷲をくれたんですか?」

「商品にし辛いと思ったのもあるが、ユーリと気が合うと思ったからな」


 鷲というのは、賢すぎると侮り癖やつつき癖がつきやすい。

 ただ、賢いほうが覚えがよく、最低限の操作で多くのことを察し、複雑なマニューバをこなしやすかったりするので、売る側としては一長一短の性質でもある。

 悪くはないのだが、売る場合は買い手を選ばなければならない。


「頭のいい鷲は主人を選ぶ。飼われるのが嫌になれば、隙を見て逃げだすしな。あの鷲が良い成長をしているのは、見ていて分かったよ」

「星屑は幸せだったんでしょうか」


 俺は益体もないことを聞いた。


「俺にはわからない」

 と、ルークは言った。

「そもそも、人を乗せて飛ぶのが鷲の幸せなのかって話だしな。まぁ、普通に考えれば迷惑なんだろう。単純に重いし、カゴに閉じ込められて生きることになる。好きに飛べもしない」


 それは確かにその通りで、鳥かごの鳥が自由に大空を羽ばたくことがないように、飼われている大鷲も人を乗せずに大空を飛ぶ機会はない。

 逃げてしまうかもしれないので、人間が放さないわけだ。

 考えてみれば、酷い話ではある。


「だが、人が乗るのが嫌なのかといえば、それほど嫌がっているふうでもない。知っての通り、調教した鷲は手綱を離したらすぐ飛んでっちまうなんてことはない。乗り手を振り落としたら落ちたところまで降りてくるくらいだ」


 騎士院では、やはり乗り手が未熟なので、鷲と良い関係を築けていない場合が多く、手綱を離したら飛んでっちゃった。という事故は多い。

 だが、ルークの牧場を手伝っていた時は、そういった鷲はただの一羽もいなかった。


「野生では飯は狩りで得なくちゃならない。縄張り争いもあるし、怪我をすれば死ぬ。越冬だって風のない室内でできるわけじゃない。飼育下のほうが野生より長く生きられるのは事実だ」


 ルークも、自身の鷲が死ぬたびに、俺と同じようなことを考えたんだろう。

 ルークの語り口からは、昔に彼が踏んだ思考の足跡が見えるように思えた。


「まぁ……結局は、よくわからないんだな。人間だって、死んだ奴がなにを考えていたのかなんてわからないんだから」

「そうですね」

「俺も、仕事柄、鷲は飼われるのが幸せなんだと思いたいが……まあ、実際にできるのは、生きている間、できるだけ良くしてやるってだけだ」


 良くしてやる。

 抽象的な観念だ。


 気休めかもしれないが、と前置きして、ルークは続きを言った。


「ユーリは十分に良くしてやっていた。それは保証するよ」

「はい」


 ルークが言ったのは気休めだが、そう思っていたのは本当だろう。


「まぁ、鷲のことはいい。聞きたいのは、戦争のことだ。人を殺したり、殺されたりしたんだろう」


 と、ルークは変なことを言い出した。

 ルークは戦争が好きではないが、否定しているわけではないし、もちろん無抵抗主義の信徒でもないので、これは俺を非難をしているわけではない。


「生きるか死ぬかの大変な目にも遭ったはずだ。どうだ、その……嫌になったか?」


 ???

 なんだろう。


「嫌になった……? 普通に、あんな目には二度と遭いたくはないと思っていますが」

「そうじゃない。そうだな……二度と人を殺したくないとか、戦争とは関わり合いになりたくないとか、そういうふうに思うようになったか?」


 あー、そういうことか。

 そういう心配をしているのか。


 ルークが騎士院を辞めた経緯を考えれば、それが気になるのは当然かもしれない。


「いえ、そういう意味では嫌になってませんよ。必要だったら戦いますし……」

「そうか……」

「こういったらなんですが、もう一度同じようなことになったら、もっと上手くやろうとは思いますが、逃げ出したいとかはないです」

「……それならいいんだ。戦争、人殺し、戦うこと、そういうのが嫌なら、将家の頭領なんてやっても、つまらないだけだからな」


 まあ、そりゃそうだ。

 こういった仕事は、他人には羨ましがられることが多いが、人間には向き不向きがある。


 鉄火場でオタオタしてしまう人が、ヤクザになっても仕方がない。

 そういう見方でいえば、ルークは今の仕事には向いていないはずだった。


「あれですか。僕がホウ家の天爵を継ぐとか、そういう話でしょうか」

「そうだな。まあ、すぐの話じゃないが、そのつもりがあるなら、卒業して数年以内に継ぐのがいいだろう」


 数年以内か。

 まだ大分伸ばせるな。


「父上はどうなんですか? 今の仕事は嫌で嫌で仕方がない感じですか」

 嫌で嫌で仕方がないのなら、できるだけ早く解放してあげたい。

 そうすればスズヤも助かるだろう。

「うーん、嫌ってほどではないが、やっぱり向いてはいないな。幸い、ユーリの評判が良いから俺も上手くいっている」


 俺の評判なんて関係あるんだろうか。


「僕の評判って、関係あるんですか?」

「大有りだ。いうなれば、俺はユーリが継ぐまでの繋ぎだからな。当人を前に言うのもなんだが、あんまり出来が悪いとなったら、今頃はシャムちゃんの婿を誰にするかの話し合いがされてたかもしれない」


 それは嫌だな。


「されてないんですか?」

「されてない。政略結婚は、サツキさんが嫌がっているしな」

「なるほど」

「それに、女王陛下の意向もある。内輪揉めになって、ユーリ以外が継ぐかもなんて話になったら、横槍が入るだろう」

「それって、意味があるんですか」


 ホウ家が持っている天爵というものは、女王陛下に天爵位を賜って任じられるものではあるが、実際のところ、ホウ家は独立自治権を持っている。

 ホウ家の頭領の指名権というのは女王にはなく、言ってみれば事後承諾的に「○○が次の頭領になることになりました」と報告して、女王のほうは唯々諾々と天爵を授けることになる。


 話し合いに頑として応じず絶対に天爵位をやらん、跡継ぎとして認めん、叙爵式もしてやらん。ということができるのかといえば、実際にそんなことをやった例がないのでわからない。

 例えば、家臣の誰からも認められている、実戦を経験して百戦百勝の長男と、誰がどう見ても凡愚でしかない風俗狂いの次男坊がいたとして、王家サイドが絶対に次男でないと認めないなどと言い出せば、いろいろとメチャクチャになってしまう。

 それは将家への仕打ちとしては超えてはいけないラインなので、歴史を見れば、それより前に廃位勧告をして戦争をするなり暗殺をするなり、別の対応になってしまっていたのだろう。


「そりゃ、最終的にはこっちが決めることだがな。多少は考慮しなきゃいけない。やっぱり王家に反目するってのは縁起が悪い」


 まあ、そりゃそうか。


「女王陛下のほうも、先日謁見してみましたら、大分お疲れのようで」

「そりゃあ、苦労も絶えんだろうな。四六時中魔女の連中の相手をして、戦争のことも考えて、まともでいるほうが難しい。ご心労お察しするよ」

「そうですねぇ。確かに」


 同じ立場だったら気が狂うかもな。

 俺だったら気が狂う前に兵を出して魔女一斉大掃除とかするだろうけど、彼女は我慢するタイプっぽいし。


 と、そこで思い出したことがあった。


「あぁ、そういえば、大分昔のことになるかもですが、人が一人来ませんでした?」

「おっと、そうだった。忘れてた。ジーノのことだな。よくもまぁ拾ってきたもんだ」


 ジーノというのは、戦争の前に下見でキルヒナに行ったときに、森の中で出会った男だ。

 焚き火を共にして、仕官を考えているということで、ホウ家への紹介状を書いた。


「あの人、どうしました? 採用しましたか?」


 紹介状といっても、面接してやってくれと書いただけだったので、採用しているかどうかはわからない。


「採用した。俺のそばで働いてもらっているよ。俺は実戦経験がないからな。ホウ家の外の人間で、実戦経験があるのがそばにいてくれるのは助かる」

「それなら良かったです」

「諸侯は、ホウ家の係累とはいっても、結局は自分の家のことを考えるからな。悪い人たちではないんだが……。彼らにもしがらみがあるし、ホウ家全体のことは考えない」


 助言者の立場として最適ということだろう。

 ホウ家にはいくらでも実戦経験者がいるが、当たり前だが、彼らは皆自分の家を持っているし、自分の家の利益代表者でもある。

 彼らの助言はあてにならない、といったら変だが、自分の得になることを言っているというのはあるだろう。


 その点、ジーノであれば、良い意味でよそ者なので、何のバイアスもかかっていない助言が期待できる。

 外部コンサルタントみたいな感じかな。


「それにしても、将家の元頭領とはな。よくもまあ捕まえてきたものだ」

「たまたまですよ」

「いや、運命だろうよ」


 運命?

 なんかいきなり、いかがわしい言葉が出てきたな。


「はは、父上、変な宗教でもはじめたんですか?」

「茶化すなよ」

「いえ、茶化してはいないですよ」


 俺はどちらかというと、運命などという概念は鼻で笑ってきた人間なので、馬鹿にしている感じがでてしまったのかも。


「彼は熱心だしな。誰かの下ではなく、おさとして熱心に戦略を考え、人を率いてきた人間だ。言うことも一々合理的で、理屈が一本通っている」

 確かに、そんなところはあったな。

「ホウ家の軍団も、人数は充足してきたし、そろそろ仕上げの時期だ。彼の助言があれば、お前にホウ家を渡すころには、軍制はかなり良くなってるだろ。それを考えるとな」


 なにかしら運命的ななにかを感じる、ということだろうか。

 運命が俺の背中を押している。

 風、吹いてきてる。確実に、着実に。


 いやいやいや、吹いてねーし。

 そりゃ傍目から見たら追い風参考記録的に見えるかもしれないけど、俺も苦労してるし謎の力に押してもらってる感じしないし。


 むしろ邪魔ばかりされて、感覚的には藪こぎして進んでる気分なんだが。


「まあ、父上ほどの人がそう思うのであれば、そうなのかもしれませんね」


 もうこの話題は適当に流しておこう。


「俺も本気で思っているわけではないけどな。今回の話を聞くと……ああ、そうだった。なにを関係ない話をしてるんだ」


 はたと気づいたように、ルークは言った。


「そんなことより、詳しい話を聞いておかないとな。本人の口から」

「土産話ですか……ちょっと、ここ数日そればっかりなんですが」

「ま、いいじゃないか。スズヤが料理を作り終わるまででいい」


 張り切って作るって言ってたからなぁ……。

 けっこう長くなりそうだ。

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