花言葉 サルスベリ

 庭の植木にするのはよくないと言われる樹木があります。有名なのは椿でしょうか。花がぽとりと落ちることから、首が落ちるようで縁起が悪いとされてきました。他にも、ザクロは実が割れるので、実=身が割れるから縁起が悪いとか、ビワの木は病人がよってくるとか言われます。

 どれもこれも、実家の庭にあるんですけどね。


 8月29日の花言葉をもつ『サルスベリ』も、庭木に植えるのは縁起が悪いと、昔から言われています。

 滑るのが悪いとか、生気を吸いとっているだとか、はたまた登ったら落ちるからだとか。諸説あるようですが、昔の人は庭先に好んで植えなかったそうです。


 また、サルスベリは古くから、お寺の境内や墓地に植えられました。お釈迦様が誕生したときに咲いていた花に似ているからとか、仏教を学んだ僧が中国から持ち帰って広めたとか、これも諸説あるんですけどね。

 お盆の時期に真っ赤に咲き誇るサルスベリですし、お墓参りに訪れた際は、嫌でも目についたことでしょう。それで尚更、お寺に植えるものと言うイメージがついたのかも知れませんね。


 このサルスベリ、私の実父が嫌いな花なんですよ。

 せっかく花の話をするのだからと、日頃は楽しい思い出や逸話を語っているんですけどね。サルスベリだけは、どうしても実父を思い出します。


 実父の父、つまり私の祖父は息子が五歳のときに心臓を患って他界しました。戦後十年も経っていなかったですし、五人兄弟を母親が一人で育て上げるのは壮絶な人生だったでしょう。

 幼い実父が自転車に乗れる年になると、毎年お盆の時期、お寺に線香をあげてこいと言われたそうです。お墓の掃除もね。

 一人で山を越え、死んだ父親に手を合わせる。そのときの寂しさはどんなものだったのか。


「毎年必ず、真っ赤なサルスベリが咲いているんだ」


 だから、サルスベリの赤い花は好きになれないと、実父は言っていました。


 『サルスベリ』の花言葉は『雄弁』『愛嬌』『不用意』と言われます。

 多くの花は心に優しい言葉が含まれています。癒されることもたくさんあります。だけど、その花が嫌いな理由をもっている人には、なかなか「だけど、素敵な花言葉もあるんだよ」と言えないことも、あるかもしれません。


 もしも、花が嫌いだと言う人がいたら、その理由に耳を傾け、本当のところに寄り添えたら、何かが変わるかもしれませんね。


 そんなことを思わせてくるのが、私にとっての『サルスベリ』です。

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