buried record:no title(3)
毎日のように身体を重ねた。
自室だけに留まらず、オフィスや給湯室、トイレに物置、エレベーターホールの暗がり──人気のない場所ならどこでもそれは行われた。
知性を放り投げて繰り返された行為はもはや、動物の所業だった。
ほんとうに苦痛だったのは最初のうちだけだったように思う。
身体が慣れてしまうのがいちばん早くて、そのうちメイカのほうから誘うようにすらなった。
人目を忍んで身体を繋げるたびにリクウは死んでしまいたそうな顔をする。
最初にメイカをレイプしたのは彼なのに、まるで自分がいちばん辛い罰を受けているみたいな表情だった。
けれどたぶん、それも間違いではなくて。
メイカに拒まれたらきっと彼はほんとうに死んでしまうのだ。
そう思えてならなかったし、それはまた、メイカにとっても耐え難いことだった。
前の班長だったナヅルが死んで、その職を引き継いでからのリクウは重責と焦りのために日に日におかしくなっていた。
体調不良もあったろう。
彼もすでに疾患を発症していて、基本安定剤に追加された複数の投薬によってかろうじて正気と思考能力を保っているような状態だったから。
そしてその最後の均衡を崩したのは他ならぬメイカなのだ。
メイカが黙っていたせいで、リクウは心構えをせずに事実を突きつけられてしまった──メイカの体調がほんとうは思っているより悪化していたことを突然に知ってしまった。
想定していたよりも時間がないと悟ってから、彼の言動は一段とおかしくなった。
あれが引鉄だったのは間違いない。
だからつまり、メイカが彼の心を壊したのだ。
「……リク、
今日もメイカを抱きながら、リクウの瞳にはなんの色も着いてはいない。
一連の行動をプログラムされた機械のように繰り返すだけの存在に堕ちてしまった、彼をどうして責められるだろう、リクウをそんなふうにしてしまったのはメイカなのに。
だからこれは当然の罰で、報いで……罪でもあり、そして、甘美でもあった。
繰り返し与えられるそれは地獄の業火のように熱い。
そして、罪びとの頸を狩る死神の刃のように冷たい。
彼をぎゅっと抱いてその衝撃に耐えてから、メイカは深く息を吐いた。
いつになったら
行為を重ねれば重ねるほどリクウが壊れていくのに、しかし同時に、この秘かなふたりの犯罪は、他のどんな行いにも勝る多幸感と情動をメイカにもたらしてもくれる。
「泣かないで」
リクウの頭を撫でてそう囁くと、彼は凍ったような眼でメイカを見る。
そこは少しも濡れていないけれど、もう泣きたくても泣けないのだと知っているメイカは、いつも同じ言葉を紡ぐ。
「大丈夫だから……」
それは前から彼に聞かせた声で、けれど意味合いは少し違ってしまっている。
かつては彼をひとりにさせまいという誓いだった、どんな手を使っても自分が先に死ぬことだけは避けたい、その覚悟があることを伝えるための言葉だった。
けれど今はもう、それだけではない。
(リクだけに背負わせたりしないから。……私も、共犯だから……)
彼がメイカを愛するように、メイカも彼を愛している。
そんな日々が二カ月あまり続いたが、終わりもある日突然にやってきた。
いや、自分の身体のことだ、メイカだけは薄々気付いてはいた。
いつになく体調の悪い日が続き、悄然とするリクウを宥めながら、メイカは医務部に相談をした。
身体に起きたことを伝えていくつかの検査をしているうちに職員の顔色が変わり、そして、彼は困惑に少し憤りを含ませた声で言ったのだ。
──きみは恐らく妊娠している。
それからが大変だった。
ラボの人間は大いに慌てながら状況を把握しなければならず、リクウとメイカは引き離されたうえで、それぞれ取り調べのようなことをされた。
身体の都合でメイカはそれほど長時間詰問されることはなかったが、たぶんリクウはそうはいかなかっただろう。
聴取は仔細に渡り、いつどこで何をしたのかを残らず白状させられた。
妊娠したという現実がある以上、それに至る行為があったことは隠しようがないのだし、伏せる必要もない。
メイカはすべて正直に話したが、職員は納得いかないようだった。
「嘘は言ってないわよ。……でも思い違いはあるかもしれない、正直いって、自分が記憶障害を起こしてないっていう自信がないから」
「いや……おおよその内容はリクウの証言と一致してるし、こっちも疑ってるわけじゃない」
「なら、何?」
メイカはまだ膨らんでいない腹部を守るように両手で包みながら、少し不満げに尋ねた。
「……リクウは自分が強要したと言ってる。で、きみは合意の上だと言う。そこだけが食い違っているんだが……庇ってるのか? それとも何か脅されたりしてるんじゃないのか?」
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