第45話 分隊長になっても良いじゃない

「パル子ちゃんはBluetoothのイヤホン持ってるよね」


「えぇ、まぁ」


「まずは装着してっ! でも片方だけねっ! 両方使っちゃうと、ノイズキャンセラの影響で周囲の音が聞こえなくなっちゃうから。そうなると、敵に見つかっちゃう恐れもあるからねっ!」


 装着って……。

 しかも敵ってなに? ねぇ、敵って?


「ちなみに、イヤホンは利き耳じゃない方に付けるのがサバゲーの鉄則だよ!」


 いや、もうこれ、サバゲーって言っちゃってるじゃん。

 やっぱ、気分はサバゲーなんじゃん。


「うっ、うん」


「ははぁん。パル子ちゃんは、どっちの耳が利き耳か分かって無い様だね。大丈夫、簡単に判別できるから。さて、パル子ちゃんに質問です。アナタは遠くの音を聞く時に、どっちの耳に手を当てますか?」


「え? えぇっと、右……かな?」


「よし、分りました。パル子ちゃんの利き耳は右ですっ! ちなみに携帯電話をあてるのはどっちの耳?」


「うぅぅん、やっぱり右ぃ? かなぁ……」


「ほらね、パル子ちゃんの利き耳は右なんだよ。だからイヤホンは左耳に装着してよねっ!」


「わ、分かったよ」


 ――ポロロロロン、ポロロロロン……


 あ、LIMEの招待が来た。


 ――ピッ


『あぁ、つむぎにパル子か? 無線感度はどうだ? オーバー』


「大丈夫、感度良好です! オーバー」


 そりゃそうだろ。

 だって普通のトークルームだよ?

 普通に聞こえて当たり前だよ。

 しかも、無線て……無線てナニ?

 まぁ、有線では無いから無線で正解なんだけど、やっぱりなんかモヤモヤするぅ。


「……」


 って言うか、なに?

 つむぎちゃんのそのキラキラした目は?

 なに? 何なの?


 ……私も?


 ……言うの?


 あぁ、私も言わなきゃなのね?

 ねぇ、コレ、私も言わなきゃって事なのね?


「かっ……感度良好……ですっ」


 うきー。

 なにコレ、なんなのこれっ!

 なんの羞恥しゅうちプレイ、どういった羞恥しゅうちプレイなのっ!

 感度良好って……感度良好ってぇぇ!


「……」


 え?

 こんどはナニ?


 つむぎちゃんが無言で?

 何か大きな口をあけて?

 私に話し掛けてる。


 あぁ、口の形を読めって事ね。

 なになに?


 つ・う・し・ん・の・さ・い・ご・は・おー・ばー・が・ひ・つ・よ・う?


 通信の最後は、オーバーが必要ぅ?


 なんだよソレ?

 って言うか、これ無線じゃないよ。

 アマチュア無線みたいに、単信方式じゃないんだよ。

 同時通話可能なんだよ。

 しかも、三人でおしゃべりしても問題無いんだよ。

 それなのに、どうしてオーバーって言う必要があるのっ!?

 無理むりムリ。

 そう言う小芝居はゼッタイに無理っ!


「オッ、オー……バァー?」


 くぅぅ!

 言っちゃった!

 思わず言っちゃってたわっ!

 だって、だって!

 つむぎちゃんのひとみがっ!

 あのクリクリのひとみがあまりにも純真じゅんしん無垢むくなんだものっ!

 

『よし、つむぎにパル子! ふたりとも無事な用だな。それでは、今から突入前のカウントダウンを行う。無線はこのまま、傾聴せよっ』


 いやいやいや。

 カウントダウンするんかいっ。

 さっき合わせた時間は何だったの?

 だってあの時、ジャスト六十ロクマル秒後に突入するって言ってなかったっけ? あの設定、どこ行ったん?

 って言うかまぁ。

 確かにこの位置に来るまで、平気で六十秒以上かかってるけどね。


『よし、行くぞっ、三……二……一……Go!』


「さぁパル子ちゃん、行って! 分隊長からの指示が出たんだよっ! 戦場での躊躇ためらいは、死に直結するんだよっ!」


 何だよそれっ!

 直結しねぇよ、そんなもん。

 縁起でもないっ!

 しかも、いつの間にやら千春ちゃんったら、分隊長になってたよぉ!


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