「真幸さん…。」



瞬間、切なげに名を呼ばれて。

もしかしたら、私の態度が素っ気なく思われたのかもしれない。



元々、感情表現が苦手で…

家族にすら常に仮面を被って生きてきたから。






大抵は本心が、相手へとまともに伝わった試しが一度もなかったのだけど。






「殆どの人は、この話すると…引くか同情するかなんですけどね。」



貴方はしないんですねと問われて、暫し頭を抱える。


誤解を与えぬよう、

拙い言葉でも思うがままを分かり易く…







「幸せ、なんだろう?」


「え…?」



揺れた瞳を見据え、ゆっくりと。




「お祖母ばあさんと暮らせて…幸せ、だったんじゃないのか…?」



「…はい!…幸せでした。」



血の繋がりしかないような、産み落としただけの肉親よりも。


きっと、そのお祖母さんと共に暮らす事の方が…

彼にとっては何よりも幸運だったのではないだろうか?





「なら、良かった…。」



心からそう思えたから。

自然と笑みを浮かべると───…







(え───…?)



気付いたら、彼に抱き締められていた。








「あ、の…新垣っ…」



声を発せば腕の力が強められ、心臓ごとギュッとなる。




「…やっぱり、思った通りの人だ…貴方は…。」



土と食卓の素朴な匂い。

華やかな部分は、彼の持って生まれたその容姿だけだったし。今までのイメージとはかけ離れていたけれど。





(これが、彼の素顔…)



結果的に幸せであっても。

そうでない事の方が、今まで沢山あったのだろう。





成り行き、彼の腕の中で微かに震える背中に弱い部分を垣間見て。



こんな彼も…


悪くない、そう思い。

広く固い背中をあやすよう、そっと撫でてやった。

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