⑤
「真幸さん…。」
瞬間、切なげに名を呼ばれて。
もしかしたら、私の態度が素っ気なく思われたのかもしれない。
元々、感情表現が苦手で…
家族にすら常に仮面を被って生きてきたから。
大抵は本心が、相手へとまともに伝わった試しが一度もなかったのだけど。
「殆どの人は、この話すると…引くか同情するかなんですけどね。」
貴方はしないんですねと問われて、暫し頭を抱える。
誤解を与えぬよう、
拙い言葉でも思うがままを分かり易く…
「幸せ、なんだろう?」
「え…?」
揺れた瞳を見据え、ゆっくりと。
「お
「…はい!…幸せでした。」
血の繋がりしかないような、産み落としただけの肉親よりも。
きっと、そのお祖母さんと共に暮らす事の方が…
彼にとっては何よりも幸運だったのではないだろうか?
「なら、良かった…。」
心からそう思えたから。
自然と笑みを浮かべると───…
(え───…?)
気付いたら、彼に抱き締められていた。
「あ、の…新垣っ…」
声を発せば腕の力が強められ、心臓ごとギュッとなる。
「…やっぱり、思った通りの人だ…貴方は…。」
土と食卓の素朴な匂い。
華やかな部分は、彼の持って生まれたその容姿だけだったし。今までのイメージとはかけ離れていたけれど。
(これが、彼の素顔…)
結果的に幸せであっても。
そうでない事の方が、今まで沢山あったのだろう。
成り行き、彼の腕の中で微かに震える背中に弱い部分を垣間見て。
こんな彼も…
悪くない、そう思い。
広く固い背中をあやすよう、そっと撫でてやった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます