第34話 鏡の自分
三人の目の前に現れた三人の偽物。
「あれは、ヤバいね」
「えぇ。凄い魔力を感じる。キリヤくんの偽物からも」
フレイナとレイシスタは目の前の偽物の発する魔力に冷や汗をかく。そんな状況でもキリヤは余裕を持って会話をする。
「……俺の偽物のくせに魔力を持ってるなんて、偽物としての精度が低いな」
キリヤの自嘲する言葉に、二人は笑みをこぼし余裕を取り戻す。
「それは確かに。あの魔剣はどう思う?」
「形だけだろうな。斬魔ノ魔剣は魔力を切る。師匠曰く、魔力を持つ者の天敵。この世界に対する切り札とのことだ」
『斬魔ノ魔剣』はありとあらゆる魔法、魔力を切り裂く魔法に対して最強の魔剣。
そんな最強の魔剣だが、魔力を持つ者が『斬魔ノ魔剣』を持つと、魔力の流れが阻害され魔法の構築が出来なくなる。
『斬魔ノ魔剣』は正しく魔法絶対主義の世界に対して、魔力を持たない者の切り札となりえる魔法を持たない者にとっての魔法の剣、『魔剣』。
「いくら無形迷宮と言えど、斬魔だけは複製できないはずだ」
「それなら最悪は無さそうね」
「うん。……そろそろ向こうも動き出すみたいだよ」
三人の偽物は各々魔法陣を展開させる。
[【
フレイナの偽物は巨大な炎の鳥、フェルニーナ=フレイナが編み出した最強の魔法を出現させる。
[【
レイシスタの偽物は白く大きな狼、フロール家に伝わる【氷帝】最強の魔法を出現させる。
[【エアロ・ブレイド】]
キリヤの偽物は風魔法を発動させ、剣に風を纏わせる。
「本当に俺の偽物なのに魔法使ったな。さて、どうする?」
「私の偽物は私が倒すわ」
「私も手出し無用だよ」
「了解。なら偽物の俺も俺が潰すよ」
本物のキリヤは、偽物に斬魔を向ける。
「簡単に私の魔法を再現してくれて、後悔させてあげる。【
本物のフレイナは周りの小さな炎の鳥を集め、巨大な炎の鳥を作り出す。
「フロール家の魔法は甘くないってこと、分からせてあげるよ。【
本物のレイシスタが魔法を使うと、当たりに冷気が漂い、白く大きな狼が現れる。
本物と偽物、三人は偽物の自分と向き合う。
「燃やし尽くせ!【
[……燃やせ【
本物と偽物、二人のフレイナの【
フェルニーナ=フレイナ最強の魔法がぶつかり合い、辺りに熱風が散らされる。
[………]
「……まさかここまでの威力をあるなんてね」
本物と偽物、二人のフレイナが作り出した炎の鳥は、対消滅した。
「喰らい尽くせ!【
[……喰らえ【
続けて本物と偽物、二人のレイシスタの【
フロール家最強の魔法がぶつかり合い、強力な冷気が辺りに漂う。
[………]
「……うわっ、マジか」
本物と偽物、二人のレイシスタの白い狼は、対消滅した。
「二人ともどうする?」
切り札の魔法が勝てなかった二人に、キリヤは声をかける。
「私の意思は変わらないわ。一度力が拮抗した位で、私は諦めない」
フレイナは諦める間もなく、すぐに次の魔法の準備をする。
「私も、まだまだお互いに本気じゃないみたいだしね」
レイシスタは氷の弓の具合を確かめながら、同時に魔法の準備をする。
戦う気満々の二人の答えを聞き、キリヤは自分の偽物と向き合う。
「俺も、やるか」
[………]
キリヤとキリヤの偽物は、互いに向き合い合図もなく二人は互いに向かって走り出す。
「斬り裂け『斬魔』」
キリヤは『斬魔ノ魔剣』を偽物は風魔法を纏った剣、【エアロ・ブレイド】をぶつけ合う。
魔帝候補二人の偽物と違い、キリヤの『斬魔』は偽物の剣に纏った【エアロ・ブレイド】を切る。
だが斬魔が斬るのは魔力、魔法だけ。
「さすが俺、なかなかやるな」
[………]
偽物の魔法が消え、二人のキリヤは純粋な剣の戦いになる。
そうなった場合、二人の実力は拮抗する。
本物の剣が縦に振られると、偽物は剣を横に振って跳ね返し、偽物が下から振れば、本物が上から振り下ろして防ぐ。
互いに一切の無駄なく剣を振る。今の時代ではめったに見られない純粋な剣の戦い。
「っ、さすがにしぶといな」
[………]
お互いに純粋な剣技だけでは決着がつかないと気づき、本物と偽物は一度距離を取る。
これで三人全員が自分の偽物と対峙し、全員が自分と偽物の強さが拮抗していると認識した。
その認識を元に、三人はもう一度偽物に挑もうとする。だが、
「は!?」
「えっ!?」
「うそっ!?」
三人の偽物は鏡に吸い込まれるように消えていく。キリヤの偽物は正面、フレイナの偽物は右、レイシスタの偽物は左の鏡に。
「逃げた、……ていうわけじゃなさそうだな」
キリヤは斬魔を降ろし、自分の偽物が吸い込まれた正面の鏡を見る。そこには斬魔の剣先をキリヤに向けている偽物の姿がある。
「挑発のつもりか」
「私の方も同じみたい」
「私の方も。いくら見た目が私とはいえイラっとするね」
フレイナ、レイシスタ、二人の偽物も本物の二人を鏡の中から挑発する。
「じゃあさっきの予定通りに。死ぬなよ」
「えぇ、必ず勝つわ」
「当然、ボコボコにしてくる!」
三人は自分の偽物がいる鏡に触れ、鏡の中に入った。
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