第212話 優香さんのハロウィン

「ハッピーハロウィン。ゆうきくん‼」


ぱ~ん


クラッカーを鳴らしながら、優香さんが玄関の方から走ってきた。……いやな予感はしてたんだけどな~。


「優香さん、おはよう。……それと、昨日はお疲れ様。聞いたよ?昨日、うちのクラスで出した料理の大半を作ってくれたんだってね。」


俺、中島祐希は、何度も同じ失敗を繰り返すような馬鹿じゃない。葵から、挨拶だけでは逃げきれなかったのに、優香さんにも同じ手を使うなんてことはしない。というか、あおいより賢い優香さんを、葵ですら誤魔化されなかった手で誤魔化せるわけがないのだ。……あれ?俺何言ってんだ?

ともかく、挨拶だけではダメだと分かったので、そこに世間話を足してみたというわけだ。うん。


「そんなの、当然のことだよ。私、料理するの好きだし。……それより、ゆうきくん。お菓子、持ってる?」


ま、まあ無理ですよね。うん。わかってたよ?わかってた。……わかっては、いたんだけどね。


「い、いや、それは……。」


「もちろん、ゆうきくんはもってないよね?私、知ってるよ?だってさっき、葵からいたずらされてたもんね〜。」


まあ、そういうことだよね。きっとこのあと、渚ちゃんも出てくるんでしょ?3人でこのイベントを企画したんだよね?


「それじゃあゆうきくん。目、つぶってて。」


え?それってつまり……、ああいうことをしちゃうってこと?葵さんがやってきたことと同じことを、優香さんもしちゃうってこと⁉︎

い、いや、まさかね……。

と、そんなふうに考えつつも、心のどこかでは期待してしまっている自分がいた。……いた?いや、いないよ‼︎そんなこと、あるわけないじゃん‼︎だって俺には、葵っていう心に決めた人がいるんだから。


「ゆうくん、だ〜いすき。」


結果から言うと、優香さんがしてきたことはキスではなかった。うん。キスではなかった。

優香さんがしてきたこと、それは、ほっぺたを引っ張ること、つまり、『ほっぺたビヨンビヨン』だ。

……。うん、相変わらずネーミングセンスがないな。

まあともかく、優香さんのやってきた『ほっぺたビヨンビヨン』は、とっても気持ちが良かった。

……渚ちゃんは、何をやってくるのかな?


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