第211話 葵さんのハロウィン

「お菓子くれなきゃ、いたずらしちゃうぞ~。」


一週間に、たった一度の休みの日、日曜日。その大切な日曜日の朝に、葵はそんなことを言いながら起こしてきた。俺の休みが週にたったの一度しかないということも由々しき事態だが、今日はもっと大変なことになっている。なんと、日曜日に、ハロウィンが重なってしまったのだ。……しかも衆議院選挙まで。まあ、政治好きの俺にとっては、ハロウィンよりも、衆議院選挙の方が、興味深いことなのだが、勉強嫌いにして、勉強に嫌われた女である葵さんにとってはどうやら違うようで、可愛い可愛い魔女の仮装をして、


「がぉ~」


などと、可愛い声を出している。……葵さん、魔女は、『がぉ~』なんて、言わないと思いますよ?うん。多分。


「おはよう葵。」


「おはよう、ゆうくん。」


いつも通り挨拶をして、いつも通りにリビングに向かおうとして、『お菓子くれなきゃいたずらしちゃうぞ~』を、なかったことにしようとした俺。しかし、葵がそうやすやすと俺のことを逃してくれるわけもなく、


「ねえ、ゆうくん。お菓子、持ってないの?」


と、腕をつかみながら言ってきた。


「いや、その、持っていないといいますか、何と言いますか……多分、リビングに行ったらあると思うんですけど。」


そう言って、何とか葵から逃れようとしている時、俺はあることに気づいた。

あれ?渚ちゃんいなくね?

そう、いつもならこの家にいるはずの渚ちゃんがいないのだ。……どこかに出かけているのかな?うん、そういうことにしておこう。なんか、いや~な予感がするし。

あ、ちなみに、リビングに行っても、お菓子何てありません。はい。これは、葵から逃げるための嘘です。はい。


「え?ゆうくんお菓子、持ってないよね?私、この家の中全部探したからないはずなんだけど。……それに、キッチンとかがあるリビングは、特に念入りに探したから、そんなこと、ありえないはずなんだけど。」


……いや、それなら聞く必要性ないじゃん。なに?葵さんはそんなに俺にいたずらがしたいの?ねえ、何で?


「それじゃあゆうくん、いたずらするから目をつぶってて?」


う~ん、なんかこの展開、前にもあったような気がするな~。

そんなことを考えていると、を、頬に感じた。そう、葵さんの二度目のいたずら。それは、またまたキスだった。


「ゆうくん、よかったね。これで私のファーストキスとセカンドキスを威張っちゃったよ?三回目は、三度目の正直だから……どこにするのかな?」


そう言っていたずらっぽい笑みを浮かべる葵さん。しかしそんな葵さんの頬は、俺の顔のように、真っ赤に染まっていたのだった。……まあ、顔全体と頬だけだから、俺に葵のことをとやかく言う権利はないんだけれどね。

葵さんのいたずらを受け、リビングへと向かう俺。しかしなぜか、葵は寝室に残ったままだった。……なんでなんだろう。

そう思いつつも、俺は先へと進んでいった。

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