第208話 待ちに待った(?)文化祭 ①

「ふう、何とか間に合った。」


教室の入り口のドアに、最後の花をつけ終わった渚ちゃんが疲れを前面に押し出したような声でそう言った。……大変なのは、ここからなのに。とはいえ、女子は裏で料理するだけだから、さぼれないことはないのか。うん。はぁ。俺も裏で料理を作っていたかったな~。大体、執事みたいにお客さんに対応しろってなんだよ⁉俺にとっての執事が主人にする対応って、メイドのそれと、何ら変わらないんだけど?「おかえりなさいませ、ご主人様」って、真顔で言っているようなイメージしかないんですけど⁉このままだと、塩対応の男子高校生がやる、メイド喫茶になっちゃいますけど⁉

そんな俺の心の叫びが、周りの人に聞こえるはずもなく、

『それでは、これから第100回、文化祭を始めます。』

と、そんな実行委員長の言葉とともに、文化祭が始まってしまった。

……ていうか今回が100回目の文化祭だったんだ。校長先生の話が長かったのは、そういう事なのね。

はぁ。帰りたいな~。そんなことをしながら歩いていると、ついにこのクラスに、初のお客さんが現れてしまった。運の悪いことにその時、俺はドアの近くにいたもので、いやいや、いやいや


「おかえりなさいませ、ご主人様。」


と、俺の中の妄想執事、田中さん(69歳)が、俺が返ってきたときに、言ったセリフをそのまま、お客さんに言った。頭を下げているから、相手の顔は見えないものの、足と足の間から見えるクラスメイトの顔は、『こいつ、やったな。』というような顔をしている。そして、この出し物をやることになったきっかけを作った大輝は、なんとも楽しそうに笑ってる。……あ、これ俺やらかしたんだ。そう思い、顔を上げると、


「ゆうき先輩。昨日ぶりですね。」


そう言って笑う、日鞠ちゃんの姿があった。

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