第207話 日鞠ちゃん、それは言わないで欲しいんですけど。

「先輩、本当に送ってもらって、大丈夫だったんですか?……さっき、あんなに葵先輩に怒られたばかりなのに。」


心配そうな顔をして、そう俺に聞いてくる日鞠ちゃん。月明かりに照らされた日鞠ちゃんの顔は、とても美しくて、大人っぽくて……もし俺に、あおいという心に決めた人がいなければ、惚れてしまっていただろう。うん。本当に。思わずそう思ってしまうほど、可愛かった。いや、あの、別に渚ちゃんとか優香さんが可愛くないって言いたいわけじゃないんだよ?二人とも、すっごく魅力的だけど……大人っぽく見える日鞠ちゃんはすっごく魅力的で、そのことを伝えたかったからこう言っただけだから。

……えっと、それで日鞠ちゃんの質問に答えないと。


「日鞠ちゃん。さっきのことは別に気にしなくて大丈夫だよ。うん。マジで。あんなこと、日常茶飯事だから。……それに、日鞠ちゃんは何も悪くなかったんだし。」


……なんでこんなことになってるんだろう。俺、葵と付き合って、甘々の同棲生活を送ることとか妄想してたのに、現実は、毎日のように葵に怒られてるとか。これ、運が悪いとかそういう次元の話じゃないよね⁉︎ねえ神様‼︎なんでこんなことするの⁉︎

そんなふうに心の中で神様に抗議していると、


「え⁉︎先輩たち、いつもあんな感じなんですか⁉︎……本当に先輩達ってつきあっているのかな?」


と、驚いた様子でそう言った。……日鞠ちゃん。その、『本当に先輩達って付き合っているのかな?』ってセリフ、小さい声で言ってるから聞こえてないと思ってるかもしれないけど、この距離だと、めちゃくちゃはっきり聞こえているからね⁉︎お互いの顔が、10センチくらいしか離れてないこの状況だと、めちゃくちゃしっかり聞こえているからね⁉︎俺だってそのこと、かなり気にしているんだからね⁉︎

そんな、俺の心を傷つけるような会話もしつつ、俺は日鞠ちゃんを、家まで送り届けるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る