第1話『強く……なりたい』
(1)おっさんは弱いけど強いらしい
「………うっ!ぐう!身体いってぇ~~」
気づいたら街の隅にいた、誰かが俺をどかしたのか?ぐっ!今は身体の痛みでそれどころじゃないか。
「って言うか、もう夜かよ。どんだけ気絶してたんだ?俺……」
「……………ヒラ?」
「………プスか?」
プスは俺の近くに転がっていた、確かベストのポケットに入れていた筈だが……。
「……マジか、服まで取られてんじゃん。これが追い剥ぎってヤツか…」
今の俺はパンイチだった、道理で寒い筈だよ。
「街の端っこでパンイチで転がってる三十路か……そりゃあ誰も助けちゃくれない訳だな」
俺が逃げようとした時も一方的にボコられてる時も……誰も助けてはくれなかった。
「ヒラ、何でプスを止めた?プスでもあんなヤツらくらい……」
「……プス………フッフフハハハッ!」
助けてくれなかった……か、プスからの助けは蹴っといてよくそんな事を考えちまうもんだな俺。
少し都合が良すぎる脳に軽く嫌悪するわ。
そして…………。
「…………………うっ!うう、くっくやしい、くやしいなぁ」
三十路過ぎて、ケンカで手も足も出なかった事が……死ぬほど悔しくて泣いてしまう俺自身が本当に…………情けない。
「ヒラ?」
「ああっ分かってる、分かってるよ……連中は3人で俺より若くてガタイも良かった。逃げずに戦おうなんてしても結果は同じだったろうな、けど……」
どんなに負けた理由を並べても悔しくて仕方ないんだよ、ちくしょうあのチンピラ共。
「アイツらの方が普通に考えても強かった……負けて当たり前だろうけどさ、俺……俺は……」
「……………それはおかしい」
「………え?」
「ヒラの言う強いは1人を3人で囲んで、反撃されない状況でも相手を殴って蹴り続けるのが強い?」
そっそれは………。
「プスが思う強いは違う。ヒラはプスがアイツらを殺そうとしたのを止めた、自分を殴り続ける様なヤツら前にしても、それを理由に殺しを良しとしなかった……それがプスは強いと思った!」
「……………………」
「弱い人間、直ぐに相手を殺そうとする。けどヒラは殺しを簡単にしたくない、それは正しい。生きてる者が死ねば神でもなければ生き返らせる事は出来ない、だから簡単に殺すヤツは弱い!」
これっ慰めてるんだよな?なんか小難しい事を言ってくるからなんかアレだけど……。
「…………プス、ありがとう」
「……ヒラ?」
もしも1人なら、完全に心が折れていた。
けど俺は1人じゃない。
異世界転移のお約束のチートなんて何もないけど、1人じゃないんだ。
「もしかしたら、プスに会えた事も奇跡ってヤツなんじゃないか?」
「プスと?誰かと誰かが出会う、全部同じ、全部奇跡?」
「……ああっそうだよな」
ムクリと起きる、やっぱり全身が痛い。
おのチンピラ共めいつか強くなったら見てろよ?。
「ハァッ………強く……なにたいなぁ」
「ヒラが強く?」
「何だよ。おっさんが強くなるとか厨二病だってくらいは俺でも分かって……」
「大丈夫!ヒラは心が強い!なら身体も強くなれる!絶対に!」
「……………ッ!?」
たくっまた泣きそうになったじゃねぇかよ。
俺はこの石ころのプスに、この時確かに救われたんだ。
◇◇◇明朝◇◇◇
「………よし!準備完了!」
「うん!準備完了!」
俺は朝早く。街で買い物を済ませてまた森に入る準備をしていた。
何故に買い物をする金があるのか、それは大金が手に入った時点で7割くらいはプスに頼んでリュックサックと共に収納魔法で収納してもらっていたからだ。
俺は小市民なので大金をもって持ち運ぶなんて真似は出来るだけしたくないんだよ。
買い物をするために持っていた金を奪われたのはキツいが、問題なく装備を買い集める金は残っていたのだ。
「っと言ってもこのゲームに出て来るみたいな村人みたいな服とズボンに靴じゃ森の奥には行く気しないけどな」
「奥にいく必要は無い」
大半の物はプスの収納魔法で収納して貰ったからな、俺は何も持たずにさっさと街から脱出だ。
チンピラ共が怖いとはいえ、何故にあの魔獣が出るらしい危険な森に行くのか……。
それはな……あるんだよ、あの異世界ラノベでお約束の………レベルアップシステムがな!。
「プス、あの話は本当に本当なんだよな?」
「フフフのフ~!もちろん本当、この世界の生き物は他の生き物を倒す事でその生き物が持っていた魔力の一部を貰える、つまり………」
「ああっ!そして魔力を得れば得るほどにこの世界の生き物、つまり人間でもその身体の身体能力がどんどん上がるんだろ?」
つまり身体鍛えて、時間かけたりしなくて、手っ取り早く強くなれる手段が存在するんだ。
しかも魔力で身体が強化されると若返ったり寿命が延びたりと恩恵も大きいらしい。
これはやるしかないと思ったね、魔獣を倒すのは無理でもなんかプス曰くもっと弱い敵を倒しても魔力は貰えるだとか。
「言った筈、ヒラは絶対に強くなれる。その方法が普通にある世界がここ!」
「頼もし過ぎるぜプスは、それじゃあ行くか!」
強くなりたい。異世界に来て結局俺が強く思ったのはそれだった。
今どきのラノベじゃ月並みの願望だ、けどっ俺はそう決めたんだ、だから迷わない。
街の門をくぐる、俺は森に向けて進み始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます