第17話…「あっちゃんだって魔法が使いたい」


――――「ラピスの精霊湖(昼過ぎ・晴れ)」――――


 カンカンカンッと小気味よい音が響く。

 目の前で倒れた巨体を、クンツァやコボルトたちが囲い、アレッドの作ったツルハシやトンカチ…バールを用いて作業に生を出す。

 獲物の解体作業なのだが、やっていく事はもう採掘作業だ。

 アレッドは、そんな光景を一瞥しながら、腕を組みながら開いたステータス画面を眺めていた。


 クンツァたちが解体しているのは、ドラゴンモドキだ。

 ドラゴンモドキとは総称で、その土地に適応し、一定以上の力を付けた「リザード」に付けられる名前である。

 リザードはトカゲ系列の魔物の総称。


 アレッドが倒したドラゴンモドキは、その中でも土系列の方面に適応した種「ロックリザード」が強く、そして大きくなったモノだそうだ。

 そして、ロックリザードの甲殻や鱗は、優秀な鉱石としても使用できるモノで、素材が手に入れば、武器や防具に加工される事が多い代物である。



「そのまま持っているだけじゃ、宝の持ち腐れとはいえ、見ているだけってのは、なかなかもどかしいモノがあるね」



 決して、アレッドは自分がやるのは面倒だから、他人にやらせているという訳ではない。

 彼女の能力では全くできなかったから、彼女からお願いして、解体をしてもらっている…という所だ。


 とはいうものの、実際ロックリザードを解体できるのはクンツァだけで、それ以外のコボルトたちは、経験が無い。

 あくまでアレッドよりも【解体】のレベルが高いという理由でやってもらっている。


 【解体】…というか、Aスキルにはレベルという概念がある

 アレッドが表示させているステータス欄に、所持Aスキルとして唯一【解体】が表記され、その詳細を確認するとそのレベルが「2」と記されていた。


 レベル…つまりは熟練度とも言えるが、これは戦闘ジョブの戦闘スキルにも適応されているようだ。

 ジョブを使った時、そのジョブに適応して、レベルが上がると同時にスキルレベルも上がっているらしい。

 以前、適応レベルが上がったのに、ステータスがあまり上がっていないように思えていたのだが、ステータスとは別に、戦闘スキルのレベルが上がっていた。



「相変わらず、適応レベルは、ゲームの純粋なレベルとは違うな」



 一枚の紙の上に、水で溶かした絵の具を零したとしても、紙一杯にその色が付く訳ではない。

 紙全体をその色で染めたいのなら、筆を使うなりして、その色を四方に伸ばしていく必要がある。


 水を零す…それはつまり、この体に魂を入れた事と同義で、その零した時に染まった部分が多かったからこそ、最初はステータスも膨れ上がった。

 しかし今は、その零す工程が終わり、自分の力で、その色を伸ばしていく段階だ。



「何もしなくても、ジワジワと魂が体に馴染み、適応レベルが上がって、ステータスは最高値に届くだろうけど、届いた所で適応レベルはマックスには届かない…か」



 アレッドという色を、自分で伸ばして…伸ばして、ジョブの方へ広げていかなければいけない。

 そしてステータスが伸びきった後、色を伸ばしきって、全部のジョブがこの魂で染まった時、ようやく適応レベルが「100」になる。



「ほんと、これじゃ「Lv」じゃなくて「%」だな。

 これじゃ、レベリングというより、メインストーリークリア後のやり込み要素だ…。

 ウチはトロフィーコンプとかやらない人間なんだけど…」



 アレッドはスッとステータスを閉じ、再び解体に勤しみ皆を見た。


 コボルトたちの解体レベルは「5」だそうだ。

 そして、長年、狩猟をして…解体して…を繰り返してきた事で、皆さんだいたいそのレベルに落ち着いているとの事…。


 その長年…。

 見た目は羊だが、あくまで見た目だけで、基本コボルトは雑食である、つまり羊の見た目で肉を食う…。

 見た目も、人間寄りのコボルト…ゴブリンがいるのと同様に、羊以外の見た目のコボルトもいるとか。

 試しに、犬型のコボルトはいるかとアレッドが聞けば、一番多いのはゴブリンだが、その次に多いのは犬型のコボルトだと教えてくれた。

 その次が猫型で、盗みが得意らしい。


 目の前で、せっせと解体作業をしているコボルトは、手こそちっちゃいが人間の手みたいにだが、まるっきり二足歩行をする羊…、となれば、犬型のコボルトも…、二足歩行をすると思っていいだろう。



「二足歩行する犬…か」



 それなら、そっちはきっとファンラヴァで見慣れたコボルトなのだろう思う。

 今まで会って来た魔物達は、見知ったモノもいたが、見た事の無い魔物の方が多い。

 好きだったゲームのキャラクター達が、実際に動いているのを、もっと見たい…と思うアレッド、だからこそ、犬型コボルトは、見知った姿であってほしい…と願う。


 はてさて、願望に思いを巡らせつつも、解体をしている人達へと視線を泳がせる。

 クンツァの指示の元に作業をしているとはいえ、アレッドよりもレベルが上な彼らは、手際よく素材として、ドラゴンモドキを解体していく。



「歳だって聞いてたけど、結構動けるもんだね」



 歳だから…、そんな理由で魔物を呼び寄せる撒き餌扱いを受けた人達。

 しかも一か所に留まらず、決まった方向へと進んで行け…という命令も受けたようで…、デモノルストという国は、一体何をしようとしているのだろうか。



「その命令に意味があろうがなかろうが…、胸糞悪い国もあったもんだ」



 今思い出しても、アレッドは怒りをその内に、僅かなりにも抱かせる。



『あっちゃん様、お茶どうぞ?』


「ん?

 どうも」



 そこへ、湯呑に薬草茶を入れたコボルトの女性がやってくる。

 湯呑を受け取って啜れば、鼻を苦味のある香りが通り抜け、口の中には甘みが溢れる…という、変わった味が染み渡った。


 しかし、やっぱりアレッドには、どこがどう年老いているのか、見分けがつかない。

 聞くに、コボルトの寿命はだいたい50歳が平均寿命で、長生きでも60歳がせいぜいだという。

 前世の世界ほど、医学が発展していない時代なら、その年齢でも十分長生きだと思うが…とは言っても、ソレとコレとは別、羊関係の仕事に関わった経験も無いアレッドには、その姿の人の見た目年齢など分るはずもない。



「え?

 や~ですわ、あっちゃん様はお上手ね。

 若い子と比べちゃ、私なんて毛にツヤがありませんよ」



 …と老けて見えないと言った時に返されもしたが、見直してもやはりわからなかった。

 若いモノと老いたモノ、それらを比べても、アレッドはわかる気はしていない。



「皆も少し休憩しよッ!」



 薬草茶を啜りながら、解体に勤しむ者達を休憩させる。



「あまり無理はしないようにしてね?

 解体するにしても、アレ、十分に大きくて重いし、クンツァが持つにしても、一歩間違えれば大怪我だ」


「何の何の、これぐらい、問題なかよ、あっちゃん様。

 むしろここで生活するようになって、長年悩まされていた腰痛は消えるわ、上がらなかった手が上げられるようになるわ、体調はすこぶるよかと」



 グッと両手の力こぶを作って見せびらかしてくるコボルトは、名前は「ヨセフ」、茶色い毛の人だ。

 力こぶを作ってぎこちないポージングを決めるのは、スライムのポージングを真似ての事。


 コボルトたちがここで生活する様になってさらに1週間、とうとうトイレが完成し、スイ道のおかげで衛生面も解決済みの完璧、建物は心安らぐ木造建築だ。

 用を足した後、備え付けられたベルを鳴らせば、便器にスライムがニョキッと体を出して、汚れを根こそぎ分解していく。


 建物は必然的にスライムの部屋の上に作り、当然、あの部屋は暗闇に包まれている。

 普通の人間なら、精神が滅入ってしまいそうなモノだが、スライムはむしろそう言うのがイイそうで、暗くじめじめしていた方が健康にイイとの事だ。

 もちろん、部屋を含め、トイレは汚れの全てを分解していくので、臭いもない。

 そのため、新しい住人たちは、自分達の知っているトイレじゃない…と驚愕していた。


 ここで生活するようになって、ヨセフが、体調が良いと言ったように、他の皆の健康が改善していった。

 それはひとえにこの空間の影響が大きい。

 食糧面の心配も無く、腹いっぱいの食事に、飲み水は薬としても使われる事のある精霊湖の水だ。

 それによって体の健康が底上げされ、コボルトたちは寿命が延びる…と笑いながら言うが、あながち嘘ではなく、本当に伸びているようにすらアレッドは感じた。

 素人目から見ても、彼らの体の動きが良くなっている。

 元々の環境の悪さもアリ、ソレが改善されて元に戻った部分もあるが、足元がおぼつかなかった人たちが、スタスタと歩き、曲がっていた腰がピシッと伸び、姿勢が良くなったのも、アレッドが年齢云々を見てわからなくなっている要因の1つだ。



「まるで、夢みたいだ。

 本当に…、本当によ~。

 母ちゃんにも飲ませてやりたいぐらいだぜ」



 ううう…とヨセフは目元を隠して、すすり泣いた。

 彼は、数年前に妻を亡くし、1人身で体に鞭打って頑張っていたそうだ。

 ソレが今、人生の中で一番元気でいられている事に、感慨深く、ここに妻がいれば…と思いを馳せる。



「ちょっと、せっかくあっちゃん様が良くしてくれてるのに、泣く奴があるかい。

 シャキッとしなシャキッとッ!」



 解体作業に入っているコボルトの中で、唯一の女性である黒毛の「アルス」が、パンッとヨセフの背中を叩き、彼はゴホゴホッとむせ返る。



「あっちゃん様達には感謝してるよ。

 身体の中を巡る魔力が増えたかと思えば、そもそも巡り自体も良くなって、汚いもんが全部体の外に出て行った気分さね」



 がッはッはッと笑うアルス。

 コボルトは、本来女性側は一回り体が小さい…、しかし彼女は男性陣に匹敵する体の大きさもあってか、その性格も豪胆というか、どこまでも男らしかった。



「魔力の流れ…か。

 ウチはその辺よくわからないけど、その魔力が多くなったりめぐりが良くなったりすると、やっぱり元気になるものなの?」


「ああ、そうさ。

 なんせ魔力は魔族にとって元気の源だからねッ!」


「そうなんだ」


「あっちゃん様、大小はあれど、魔力は万物に力を与えるモノでございます」



 薬草茶を啜りながら、クンツァも話に入ってくる。



「特に魔物は、スイ道の役目を担うスライム殿のように魔力によって生命維持が成されており、魔力が無ければ、それはすなわち死と同義、そんな魔物を先祖に持つ魔族は、魔力が無くても生き続ける事こそできますが、有る事によって健康もそうですが、体力やそもそも力も向上するのです。

 もちろん、魔力が減ってすぐに影響が出るという訳ではありませぬ…。

 しかし、その状態が長く続けば、体そのものが衰えてしまうのです」



 つまりは、魔族にとって魔力とは、体の栄養だ。

 体内の魔力を維持し続けられなければ、筋力は衰え、体力は落ち、体調を崩す。



「今のコボルトたちは差し詰め、今まで体に貯めていた魔力とは、比べ物にならない程の魔力を短期間のうちに摂取した事で、ハイになってしまっている…といった所でしょうか」


「クンツァはハイにならないの?」


「はい、コボルトたち程のモノは無いですな。

 そもそも竜族は、体外から魔力を摂取するのもそうですが、体内で、自分で魔力生成ができる種、牢獄生活が長く、食もまともに摂れなかったとしても、さほど体には影響がないのです」



 魔族上位の種族は、そもそも魔力維持の体が出来上がり、ソレが容易く、逆に弱い種族は、ソレが無いからこそ、維持も出来ずに余計に能力が落ちる。



「なんというハードモードだろうか…」



 種族的アドバンテージが大きいことに、アレッドは苦笑せずにはいられなかった。



「逆に魔力さえ維持できれば、病気になる事はないし寿命も延びる。

 それ所か、魔力をより多く保持し、ソレが一時ではなく、長期間維持する事ができれば、強くなるだけでなく、進化する事も可能でしょう」


「進化…か。

 スライムがビッグスライムになったみたいなヤツ?」


「はい。

 簡単に言えば、保持魔力による体の適応…でしょうか。

 といっても、スライムは、もともと肉体の変化が可能な魔物、魔力を獲得し次第進化しましたが、魔物の枠から外れた魔族はそう簡単に進化はできますまい。

 我も、魔族が進化した…などという話は、ついぞ聞きませぬ」



 進化…その単語は、アレッドにとってロマンの1つだ。

 強くなるだけに留まらず、見た目が変わり、格好良くもなる…、戦う時に必要な進化をし、強敵を倒していくのは、言い換えれば変身とも言える男にとってのロマン…、だからこそアレッドは憧れた。

 精霊という種は、そもそも進化はしない…が、その事を今の彼女は知る由もない。



「何はともあれ。

 ここは我々にとって天国のような場所でございます。

 生活しているだけで、健康でいられる。これだけ魔力豊かな環境なら、いくら空腹だろうが、餓死する事もありますまい。

 それはコボルトたちも含め、我も実感している所。

 最近は体が軽いのと同時に、スキルの切れも良い」


「スキル?」



 アレッドが何の事を言っているのかわからない中、周りのコボルトたちも同意するように頷いた。



「私も、最近はそのおかげで火を起こすのが楽になったよッ!」



 アルスが人差し指を立てると、ボーッという音と共に、バーナーのような火が噴き出た。

 それを見て、アレッドは目を丸くする。



「お~ッ!」



 それはまさに魔法、ラピスが操る水を見た時と同じように、胸躍る光景だ。



『何を…しているの…かしらッ!!』



 アルスの指から噴き出る火に、目を奪われていると、背後から抱き着かれる。


 抱き着いてきたのは、アパタだった。

 首に回された腕や背中には、女性らしい柔らかみを一心に感じ、唐突に抱き着かれて驚きこそすれ、まんざらではなく感じる。



「皆がここで生活するようになって、元気になったって話をしてた」


「へぇ~、それで。

 元気になったから、スキルも調子がイイって感じかしら?」


「そんな感じ」



 今更だが、アレッドの事を、皆があっちゃん様…と言うように、短期間のうちに距離が縮まったのは、アレッドがそうしてくれ…と願ったからだ。

 同じ場所に暮らすモノとして、堅苦しいのは無しにしよう…と。

 精霊なんて、この世界では重要人物並みの存在であるとはいえ、その中身はただの一般人であるアレッドは、下手に畏まられると、どうしても居心地の悪さを感じて仕方なかった。

 お供え物みたいに、アレッドに何かをするのは無し、敬語やへりくだるのも無し…と、色々とお願いをした。

 それでも恐れ多い…と、全部を止めてもらえず、名前は中途半端に愛称プラス様付け…なんて形になっている。


 アパタは中でも、お願いをした瞬間に一瞬で砕けた唯一の相手だ。



「私も、調子がいいわ。

 こ~ボワッて感じで」



 もはや火炎放射とも思える火が、空に向けて立てられたアパタの人差し指から溢れ出る。

 彼女は「ウィザード」のジョブを有する人だ。

 ウィザードは、ファンラヴァにおいて、アレッドが使用しているジョブの下位互換、ゲーム開始時にまず最初になるジョブ、「ウォーリアー」「アーチャー」「ウィザード」の3種の内の1つ。

 その3種のレベルを上げ、ドラゴンナイトやボウハンターといった上位ジョブを取得していく。

 アパタは自己紹介の時に、ジョブ「バスターマジシャン」の称号を持っている…という話をしていたが、それは正式なモノではなかった。

 上位のジョブは、この世界では「マスタージョブ」と呼ばれ、限られたモノしか得る事の出来ず、強くなろうと志し、一生を投じてもなれるかどうかと言われている程に、取得が難しいらしい。


 そのジョブ全てを持っているアレッドは、ココに住む事になった人たちにその事を説明しているが、その時の皆の驚き用ときたら、マスタージョブがどう言うものか想像に難くなく、想像通りの驚き用を見せていた。

 もし他の人里に行くような事があれば、ややこしい事になりそうになるので、黙っておく事にしようと思っている。

 ともあれ、アパタが貰った称号は、そのジョブの戦闘スキルを1つでも扱えるようになったモノに与えられるモノらしい。


 アパタが出した火に、アルスたちは、お~ッという歓声と共に拍手を贈る。

 それはアレッドも同じで、眼前で燃え出た火に、パチパチと拍手を贈った。



「お~スゴイ」


「ありがと。

 でも、あっくんと比べたらまだまだじゃないかしら?

 あなた、とても強いじゃない。

 それこそ、ドラゴンモドキを一方的に倒せるぐらいに」


「左様。

 あっちゃん様の武、常人の域よりもはるか高み…、我も存分に鍛え抜いたつもりであったが、アレを見せられては、己が未だ未熟者であると思い知らされるですぞ」


「あっくんは、もしかしたら、大陸で一番強いかもしれませんわね」


「…ソレは言い過ぎじゃ…。

 Aスキルなんて【解体】しか使えない足元のか細い精霊ですよ?」



 湯呑の中に残っていた薬草茶を一気飲みし、舌なめずりする。

 ふと視線を上げると、周りの人たちが、全員目を丸くして驚いた顔をしていた。


 マジか…そんな馬鹿な…、皆が口を揃えて同じ事を口にする。



「Aスキルが【解体】だけとは、また変わった経験をされてきたのですな。

 戦闘系のマスタージョブを目指す場合、マスタージョブ固有の戦闘スキルを模倣したAスキルの取得し、経験を重ねた後に、本物の戦闘スキル取得を図っていくのが常なのですが」


「あ~、…うん、そ、そうなんだ」


「あっくんは、まるで下積み時代をすっ飛ばしてるみたいね」



 気のせいか、首に回っていたアパタの腕に力が入ったように、アレッドは感じた。



「ま、まぁ、ウチは、そう言う風に創造神へレズに作られたから、そのマスタージョブ?の事は出来ても、それ以外の事はド素人なのよ?」



 …という事にしておく…、嘘はついていない。

 彼らは、いつかマスタージョブを取得する事を夢見て修練をしている。

 Aスキルを取得して、その技の神髄を会得しようともがきもがいて、多くの経験を積んでいく…、それがどれだけ大変で、過酷なモノなのか、アレッドは知らない…。

 その過程をすっ飛ばして、ジョブを取得している彼女の姿は、いくら崇拝する精霊と言えど、よく思う事は出来ないだろう。



「神が戯れにでも興じたか…」


「ちょっとクンツァ!」


「失礼。

 神ヘレズは、伝承上、遊びを愛する面があると言い伝えられております故、ある意味あの神であるなら、神の子たる精霊あっちゃん様を、そういう事ができる存在として産み落とす事も…、あるやもしれぬ…と思った次第です」


「ま、まぁそんな所ね」



 実際、今は顔を出せないヘレズだが、アレッドをこの世界に呼んだのは、もっと遊びたいから…という理由で、ファンラヴァのデータを持ってきたという事実がある。

 クンツァの考えは十二分に的を射たものだ…というか、正解と言っていいだろう。



「と、とにかく、ウチはAスキルは【解体】しか使えない。

 火を出したり、水を操ったり、ウチにもできるかな?」


「出来ますわ。

 あっくんなら、そもそも本当の「バスターマジシャン」の戦闘スキルも使えそうなモノですが…。

 ここには私もクンツァもいますし、ある程度生活で役立つスキルはコボルトたちも使えます。

 Aスキルの習得には、さほど苦労は無いと思いますわ」


「今は解体作業が残っている故、教える事ができませぬが、ソレが終わった後ならば、このクンツァ、全力であっちゃん様にAスキルを教授いたしましょうッ!」


「お…お手柔らかに…ね?」



 ドンッと自身の胸を打つクンツァの気迫に、若干気圧されつつアレッドは苦笑いを浮かべた。


 クンツァたちが解体作業に戻っていく。

 それを見送るアレッドとアパタ。

 悪い気はしないものの、休憩が終わってもなお、後ろから抱き着いた体勢を崩さないアパタに、アレッドは首をかしげる。



「あっくんは、Aスキルをあまり知らないみたいだけど、ジョブの戦闘スキルの方は使えますわよね?」


「うん。

 まだ試してないモノとか、沢山あるけど、ドラゴンモドキを倒した時も、スキルを使って倒した。

 といっても、ソレもただ漠然と使えるから使ってるだけで、どういう仕組みでできてるのか…とか、そういうのはわからない」


「じゃあ、スキルを使えていても、仕組みまでは理解していない…て事でイイかしら?

 魔力の流れとかわかる?

 肉体派系の方は良くわからないけれど、私みたいな魔法使いのスキルは、魔力を扱えないとできませんわよ?」


「う…うん?

 うん、わからないかな。

 そもそもウチ、こう見えて産まれたての子鹿でね。魔力ってのがあって、ソレが自分に流れてる…というか精霊だから、体そのものが魔力か?

 そういうのも、よくわかってないんだよね」



 実際、ジョブをバスターウィザードとか、魔法使い系のジョブに変更し、その戦闘スキルを使用すれば、アレッドでも魔法を使う事は出来る。

 事実、アパタ達の【隷属化】の魔法を消す為に使ったスキルも魔法で、魔力のまの字も分らないくせに発動する事は出来た。

 その仕組みを理解していなくても、アレッドは、ジョブに関係するモノであるのなら、魔法だって使える、その気になれば地形を変える魔法だって撃てるだろう…。

 しかし、アレッドが求めているのはそこではない。


 強力な、地形を変える程の力など、敵を殲滅するため以外に、使い道など基本は無いのだ。

 可能なら、そんなモノを使う機会など来てほしくないと思っているアレッドとしては、そんなモノよりも、Aスキルで扱える…それこそ指先から火を出すスキル、生活で役立つスキルを使えるようになりたい。

 残念ながら、戦闘ジョブは戦闘を主とし、力だけを追い求められた設計だ。

 戦闘以外の製作ジョブは、作る事に関してはプロ越えをしているものの、日ごろの生活面で役立つ機能かどうかを考えると、採用は難しくなってくる。

 だからこそ、アレッドは覚えたいのだ…、Aスキルを…、生活で役立つ魔法を…。

 ひとりでに動いて掃除を開始する箒とか、宙に浮いて自動でお茶を淹れてくれるティーセットとか、そういうおとぎ話で見聞きしたような力を手に入れたい。



「じゃあ、クンツァも解体が終われば…て言ってたし、ソレが終わったら、私達が教えてあげるわ」


「うん、ありがと」



 Aスキル、どんなモノがあるのか、アレッドは胸を躍らせた。


 そんな揚々とした彼女を覗く視線がある事に、気づく事も無く…。


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