第22話 選びきれない

 ケーシャが旅支度と言うから、戻ってきた時に何も用意してないと悲しませるかなと思って少し用意することにした。

 しかし旅支度か一体何を用意すればいいんだろうか?

 まずは入れるものの選択だろう。


「さて」


 目を離した隙にお部屋さんが用意してくれたものはまずスーツケース3種。人間の入れるくらいの大きなサイズといわゆる機内持ち込みサイズとその中間だ。

 でも、ここの外の世界に地面舗装されてる場所ほとんどなさそうじゃないか? そっとしておこう。

 次はボストンバッグ。中身が入ってないと形を保てない柔らかいものと皮でできているしっかりしたタイプ。どちらもショルダー用に持ち手とは別で長い肩ひも付き。これもボストンというか? 大きさは似ているが厚みがあり、仕切りがいくつもあるポケットもたくさんあるタイプ。どこに何を入れたか分からなくなる。

 そしてリュック。学生の時俺が使ってたようなコンパクトタイプ。なんか筒っぽい形の長くて大きいこれも人間入れそうな大きさ。寝袋が初期装備の野営しましょうリュック。

 あとはウエストポーチにポシェットとクラッチバッグとパソコンケースとポーチに巾着それからトートバッグにエコバッグ……って多すぎるから。途中から日常使いだから!

 選択肢がありすぎるのも苦しい。


 歩くはず、ということに思考が及んだので両手が使えたほうがいいだろうとリュックにしてみた。寝袋がついているものだ。

 試しに担いでみたら見た目よりも軽い。これなら中身が入っても背負うことができるだろう。


「で、このリビングいっぱいの物はどうすべきか」


 これはどう? と用意してくれるのはありがたいがこのままでは今日眠る場所がない。収納はあるが服と服と服で埋まっている。

 クッション持っていって外で寝るか?


「お部屋さーん」


 呼ぶって言ったってどこを見ればいいのか知らないので天井を見た。しかし返事が返ってくるはずもない。どうしたものかと目を閉じたらふと外のガラクタ部屋が浮かぶ。入れてしまうか。

 こうしてあの部屋はまた一歩素晴らしいカオスなガラクタ部屋と変貌を遂げるのだ……。


「なんてな」


 くっ、と笑いそうになるのを抑えてスーツケースから運ぼうかと目を開けて手を伸ばした。

 そこにあったものはずらりと並んだ靴だった。


「次は靴か」


 なるほど7日のうちに町に着かないならたくさん歩くだろうから靴は、そう重要だ。


「って!! そうじゃない!!」


 何もない空間についツッコミを入れた。

 選んだリュックはそのままに他のカバン類はなくなった。その代わりに靴が一足ずつ箱の上に乗ってきれいに整列していた。

 使わない時は箱に入れて収納できるんだな。そうか。


「でもまあ。ありがとうお部屋さん」


 軽そうな白のスニーカーを手に取る。隣にあるのはシルバーメタリックのスニーカー、奥に見えるのがしっかりしているからあれが登山靴かな? 柔らかい歩きやすそうな底がぐみゃりと曲がるこれはウォーキング用だろうか。

 見知ったメーカー名は箱に書いてあるけれど流石に用途までは書いてない。防水や撥水は見てもわからない。履いてみて決めよう。

 見た目が好みのものから履いて脱いで履いて脱ぐ。サイズがぴったりのものしかない。

 そういえば服のサイズも小さくも大きくもなく。お部屋さんには俺の全てを知られてしまっているんだな。


 途中疲れてきたのでチャーハンにニラ玉スープとミニラーメンに餃子を3つ食べて休憩する。

 選ぶのって疲れる。

 杏仁豆腐に温かい烏龍茶を飲んだら再開だ。


 サイズが合っても靴というのは足に合わないことがある。履いてみて良さそうなものに当たったら外を歩いてみる。

 そしてようやく靴が決まった。

 まず軽くてフィットする履いていないみたいな靴。厚めの皮に見えるのに履きやすくて中敷きがクッションタイプの靴。それと多分雪の時に履く裏にひっくり返して出す爪付きのしっかりした靴。

 3足。他に気に入ったものは服しか入っていない収納に箱に入れてしまった。


 お部屋さんはシャイなのか俺が目を開けていると何かを出してくれることはない。寝てるときか風呂の時か外に出た時にどうぞと置いてあることがほとんどだ。


 なので。リュックに詰めるもの。水とタオルと水筒は入れたいなと目をつぶると目の前にご用意されている。つまりそういうことらしい。

 ありがたく楽しませてもらうことにした。休み休み。

 なんたってまだ服選ばないとだしリュックに何を入れていいのかまるで分からない。

 まさかスエットの上下というわけにはいかないだろうからポロシャツとか? 雨が降るかもしれないから雨合羽と傘もいるか?

 旅行よりもイメージするのは、キャンプだろうか?


 詰め込みすぎて背負えないリュックになってしまうことはなかった。あのカバンと同じ機能がリュックにも付いていた。あのでかいスーツケースもそうだったんだろうか。どれだけ入れる気なんだ。

 だがそれでも小さいリュックにはしない。ケーシャの反応からしてこのものすごく入るカバンは貴重なはずだ。ある程度ちゃんと荷物を持っていないと怪しまれそうだ。

 持てないほどにならないかというより問題は入れたものを忘れそうなことだ。そうならないようにリングタイプの手のひらに乗るメモ帳に詰めたものを書くことにした。

 外のポケットまでは異次元ではないので安心して小物を入れることができる。


「ってここ出ても目的もないしな」


 ま、この荷物はケーシャに対するポーズなので使うことはないだろう。

 そんな感じで混乱しつつ旅支度とやらを進めた。

 準備をするのは楽しいものだな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る