第16話 お早いお帰りで?

 ぱちり。最後のピースがはまった。

 あのぶちまけたパズルである。最初は見てもよくわからなかったが規則性が見つかったので毎日少しずつ進めていたというわけだ。

 それがついに完成! 絵としてはよく分からないが何だか落ち着く色合いだ。木枠をはめてピースがずれないように調節をしよう。そしたら、そうだな味気なかったお部屋さんの壁にでも飾ろうか。


 終わってみると日課がなくなったようで寂しい。

 がらくた部屋はまだ探し尽くしてはいないので別のものがあるかもしれない。

 結局限界収納力の分からなかったカバンを斜めにかける。がらくた部屋へ向うのに部屋から出たとたん。


「エータ!」


 そこにはぶんぶんと勢いよく手を振る笑顔が眩しいケーシャがいた。そんな顔して笑うのか。

 食料庫の扉が開いている。


「どうした? もう戻ってきたのか?? ……忘れ物でもしたか?」


 1ヶ月(体感)は帰ってこないとふんでいた話し相手が戻ってきて嬉しいということよりも戸惑いが先にくる。何かあったのか、とはその笑顔をみると浮かびもしないが。


「もっと採取したいものがあったから戻ってきたんだ」

「へー」

「これ前言ってたリンゴってのに似てる果物」

「お、さんきゅー」


 受け取った果物はキレイな球体でリンゴのような形ではない。つるりとした皮は似ているが濃い紫色をしている。色はプルーンのようだが香りは似ていない。甘酸っぱい良い香りではあるが、これなにに、似ているだろう。


「いい匂いだよな」


 真剣にくんくんと嗅いでしまった。ちょっと恥ずかしい。


「知っている果物に似てるかなと思ってさ」

「何に似てる?」

「わからない。美味しそうだけどな」

「すっぱいけどそれがいいんだよ」


 言いながらケーシャが食材を選びはじめた。

 塊の大きな肉を取り出す。ぶとうにキャベツ。膨らんだ紙袋。紙袋だしもしかして小麦粉か砂糖か?


「あーだめだ」

「ん? 腐ってたか?」

「いや、そうじゃない。入りきらない。肉は手で持っていくか」

「え? 収納力は無限なのに?」

「……どうしてそういう理解になってるんだ?」

「いや、実はこれ」


 かけていたカバンを持ち上げて説明する。あれからまた収納力チャレンジをしたが布団部屋の布団がほとんど入りそうで怖くなり途中でやめたのだ。出せなくなるとやばいからな。覚えているうちに全て出した。


「えーっと、エータが持ってるそのカバンは知らないが俺が使ってるこのカバンは加工時に使う素材の大きさで収納力が決まるんだ」

「へー」

「で、使っていくうちに消耗して収納力は減っていく。ちなみに出し方はそれと同じだな。中に入れたものを忘れたときはカバンに入っているものひとつ、で入っているもののどれかが出てくる。似てるならそれも同じじゃないか?」

「便利……」


 リストが出てくればもっと便利だけどな。とは声に出さないことにする。混乱させそうだからだ。


「1回仲間のところに置いてくるな」


 よいしょと、よく見るとラップのようなものに包まれている大きな肉を抱えるケーシャ。食料庫にはまだ残っていた気がする。


「なあケーシャ。これいるか?」

「どれ、」


 かけていたカバンを外して差し出す。ケーシャが固まった。

 短距離しか移動しない俺よりもケーシャの方が必要だろう。


「…………いや、わるいからいい」


 ぎゅと目をつぶって首を振るケーシャ。


「遠慮するなって。何か素材集めなきゃなんだろ? これ使っていっぱい集めるといいよ。どこまで入るかわからないけどな」

「でも」

「気になるならいつか返しに来ればいいだろ」

「……なるほど、そうだな。じゃあ遠慮なく借りていくわ。ありがとな」

「どうぞどうぞ」


 多分このカバンは俺が考えているよりずっと価値があるのだ。だからもらってくれないんだな。持っていっていいぞ、と心のなかで呟いてカバンを渡す。

 ケーシャが持つことによりカバンの違いがわかる。同じだと思っていたが並ぶと違う。色とサイズが微妙に違う。俺が持っていた方はよく知っている肩紐の長さ調整金具がついている。きっと俺の記憶に引っ張られたのではないか。お部屋さんが出してくれるものはその傾向がある。


「怖いほど入るな。この部屋のもの全部入りそうだ」

「中身忘れそうだよな」

「食材は忘れると怖いぞ。入っているはずの残りを探っていたら出てきたものが腐ってたとか怖すぎる」


 手に触れるグチャッとした感触と嫌な臭いを想像してしまいゾッとする。両手で両腕を擦る。やだやだ。


「ありがとなエータ」


 面と向かって言われると照れてしまう。別に俺が出したわけでもないけど。


「おう」

「これ置いてきたら受け身の練習してやるからな!」

「えっ」


 まだそんなこと思ってたのか。いや、毎日真面目に走っているけどそれは自己判断での真面目なのでトレーニング的にはどうなんだ? 結果が出てしまうじゃないか。強度が足りないとか。

 戸惑っているうちにケーシャはホールがあるであろう壁に消えていく。

 よし、着替えてこよう。


 部屋に戻ればどうぞとばかりに服がきれいに畳んで置いてあった。一番上に靴下、その下にTシャツ、ズボン。そして一番下に、カバン(はぁと)。


「お部屋さぁん!!!!」


(お友達にあげちゃったの? いいのよほらこれ新しいカバンよ〜)

 っていう幻聴がそろそろ聞こえてきそう。

 ちなみにカバンは前のものと色違いだ。あっちはグレー、これは黒。なんかおかしくなってきた。ははは。

 ケーシャ本当に遠慮しなくていいぞ。

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