68

 何も食べてないって言うゆず先生に、コンビニで買ってきたゼリーを食わせた。

 

 

 それから持ってきた薬を飲ませて、タオルと着替えの場所を聞いてクローゼットから出して、タオルはお湯で濡らして渡した。

 

 

 

 

 

 1Kの単身者向けアパート。

 

 

 8畳ぐらいの洋室。

 

 

 あるのはテレビ、ローテーブル、ちっこい引き出し、折りたたみの洗濯物干し、そして部屋の端っこに、パイプベッド。

 

 

 ゆず先生はそのパイプベッドに座ってて、渡したタオルと着替えをありがとうって受け取った。

 

 

 

 

 

「俺向こう向いてるから」

 

 

 

 

 

 ゆず先生のヌードなんて、見たら鼻血が出そうな気がして。

 

 

 

 

 

 っていうか。

 

 

 ダメだろ、見たら。

 

 

 

 

 

 俺はゆず先生に背中を向けた。

 

 

 

 

 

 だって、ダメだろ。

 

 

 ハグとかキスとかする相手の、つまりはいつかの『そういう』相手の、でもまだの人の、何も着てないとこなんか、見たら。

 

 

 

 

 

 ふふって笑い声と、なっちゃんかわいいって声。

 

 

 それから。

 

 

 

 

 

 ………ごそごそ動いて、服を脱ぐ、音。

 

 

 

 

 

 が、聞こえて。

 

 

 

 

 

 振り向いたら、今。

 

 

 脱いでるゆず先生が居るんだよな?

 

 

 

 

 

 ばっくんばっくんしてる。心臓。

 

 

 もう勝手に脳内がパンツになる。

 




 

 パンツ。

 

 

 

 

 

 浴衣の裾からばっちり見えた黒パン。

 

 

 あとは想像で。

 

 

 

 

 

 は、はは、はだ、はははだっ………はだかがっ………。

 

 

 

 

 

「なっちゃん」

「………はいっ」

「え?」

「あ」

 

 

 

 

 

 ゆず先生の裸。

 

 

 

 

 

 なんてものを脳内で勝手に想像妄想してたせいで、思わず返事が、はいって、出た。

 

 

 後ろめたすぎるせいなのか。

 

 

 

 

 

 ゆず先生が笑ってる。はいって何ー?って。思いっきり。

 

 

 

 

 

「もしかして想像しちゃってるの?僕の身体」

「………るせぇ」

「しちゃってるんだ?」

「早く着替えて寝ろ」

「………ねぇ、なっちゃん」

「………何」

 

 

 

 

 

 しちゃってるの?って、するに決まってんじゃん。

 

 

 好きな人の身体なんて。

 

 

 自動でするわ。勝手になるわ。そう思ってるだけで元気になるわ‼︎だから早く。

 

 

 頼む早く着てくれ。

 

 

 

 

 

 って、思ってるのに。

 

 

 

 

 

「………見て」

「………は?」

 

 

 

 

 

 見てって。

 

 

 

 

 

 ナ、ナニヲ、デスカ?

 

 

 

 

 

 フリーズな、俺に。

 

 

 

 

 

「こっち見て。僕の身体、見て」

 

 

 

 

 

 更に、の、一言で。

 

 

 

 

 

 ぼふって今、頭のてっぺんが爆発して、心臓んとこからハート型がびよーんって。

 

 

 何かのアニメで見たような状態に今。

 

 

 

 

 

 俺、絶対、なった。

 

 

 

 

 

「なっ………何言ってんの?早く着て早く寝ろよ」

 

 

 

 

 

 見たい、と、思う。正直に。

 

 

 

 

 

 他の男の身体になんか、これっぽっちもそんなこと思わないけど、見てって言ってるのはゆず先生。

 

 

 大人キレイに笑う、でも時々ガキかよって感じに笑う、俺の。

 

 

 俺の。

 

 

 

 

 

 分かって言ってんの?

 

 

 アンタ、俺の。

 

 

 コイビト、なんだぜ?

 

 

 

 

 

「………お願い。どうしてもこれを見て欲しんだ」

「これって」

「見たら分かるよ。だから」

 

 

 

 

 

 これ。

 

 

 まだ、この人には何かあるの?

 

 

 

 

 

 お願いって、ゆず先生の身体を見ての俺の反応を見て楽しもうって思ってるような声じゃなかった。

 

 

 真面目通り越して、ちょっと切羽詰まった感。

 

 

 逆に俺の反応をこわがってるようにも聞こえる。聞こえた、から。

 

 

 

 

 

 俺は。

 

 

 

 

 

 ………振り向い、た。

 

 

 

 

 

「………っ」

 

 

 

 

 

 ベッドの上、上半身裸の、ゆず先生。

 

 

 

 

 

 色んなのが破壊的すぎてすぐ目をそらした。

 

 

 夏の名残で、焼けてる腕に半袖の跡が、ついてた。

 

 

 その腕を、自分の身体に巻きつけて、俯き加減にこっちを見てて。

 

 

 

 

 

 直視なんか、できない。

 

 

 

 

 

 顔熱い。心臓痛い。熱出る。鼻血出る。無理。

 

 

 

 

 

「これだよ、なっちゃん」

 

 

 

 

 

 無理なのに、見れないのに、ゆず先生は畳み掛けるように俺に言って。

 

 

 勘弁してくれって思いつつも、チラってちょっとだけ見た俺に。

 

 

 

 

 

 これって。

 

 

 

 

 

 自分の、左腕を………見せた。

 

 

 

 

 

「………っ」

 

 

 

 

 

 焼けてない部分。

 

 

 半袖にずっと隠れてて、ちょっと白いその部分。肌。

 

 

 

 

 

 大きく………傷。

 

 

 何か、抉れてるような感じに、なっていた。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る